本日の主役は、NHKで放送しているダーウィンが来た!とBS番組ワイルドライフで取り上げられたディンゴである。動物分類学上食肉目イヌ科のディンゴは、オーストラリア大陸で最強の肉食獣と呼ばれる。外見的にも日本列島に生息する野犬と変わらない。それもそのはず、ディンゴ自体は、アジア大陸から持ち込まれた野犬のことを差す。隔絶されたオーストラリア大陸は、有袋類の宝庫だった。天敵不在の環境下で、無防備な小さな有袋類を狩り、勢力を拡大したのである。生態系の破壊者の一面を持つとはいえ、ペットの飼い犬に負けないほど、知能が高くて、優れた感性を持つ。2018年に2つのNHKの番組で紹介したディンゴについてレポートする。
<NHK ダーウィンが来た!ワイルドライフ 野生の犬 ディンゴに密着 2018年>
詳細記事 excite blog 番犬ハナとMIX犬サクのおさんぽ毎日 2019年2月11日付
https://mikihana92.exblog.jp/30097037/
外部リンク ワイルドライフ
https://www.nhk.jp/p/wildlife/ts/XQ57MQ59KW/episode/te/YRKMKJ57XP/
以下 過去のダーウィンが来た!ワイルドライフのレポート日記
・2023年8月15日付 戦後78年、戦時下の動物達、大阪府天王寺動物園 NHKダーウィンが来た!乾燥地帯を生き抜け!ライオンの旅
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1985710291&owner_id=32437106
・2023年7月14日付 NHKワイルドライフ「世界遺産の知床半島 エゾシカの一年」
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1985481896&owner_id=32437106
目次
・第1章 密着!砂の島に暮らすディンゴの家族
・第2章 試練に直面する
・第3章 山火事発生!家族はどこへ
沖縄本島の1.5倍の面積になるオーストラリア本島の東に浮かぶフレーザー島は、世界最大の砂浜が広がる。自然保護の観点から、開発を禁じ、手付かずの状態のまま残る。隔絶された島に、食肉目イヌ科のディンゴが20組、合計130匹が生息している。体調は約120cm、外見は、柴犬にそっくりな、灰色である。(中略)今回、6歳のオスと、そのパートナーの4歳になるメス、1歳の娘レイラと同じ年の息子ジョシュアからなる家族に密着取材した。
第1章 密着!砂の島に暮らすディンゴの家族
沖縄本島の1,5倍の面積になるオーストラリア本島の東に浮かぶフレーザー島は、世界最大の砂浜が広がる。自然保護の観点から、開発を禁じ、手付かずの状態のまま残る。隔絶された島に、食肉目イヌ科のディンゴが20組、合計130匹が生息している。体調は約120cm、外見は、柴犬にそっくりな、灰色である。オーストラリア本島でも広く生息し、深い藪の中に紛れ、夜間を中心に活動する。19世紀に白人が入植して以降、アデレードを発端に港町が出来、農地や牧草地として開墾されて以降、人々と遭遇する機会が増えた。大陸内では、生態系の頂点に達し、小型のワラビーやバンディクートなどを主食とする。オーストラリア開拓民に出会って以降、警戒心が強くなり、人前に姿を見せなくなった。海を隔てたフレーザー島では、保護活動の影響が実を結び、間近で観察が可能になった。
写真 左=ディンゴ家族 掲載元 ドッグ・ギア パスワーク株式会社 野生の犬ディンゴについて想うこと 2019年10月1日付
https://passwork.co.jp/2019/10/01/
写真 右=フレーザー島の位置関係 掲載元 旅行のとも Zen Tech
https://www.travel-zentech.jp

南半球では秋になる5月、波打ち際で一頭のディンゴが、魚を加え、皮を引き裂いて、肉を穿り出した。飼い犬とほとんど姿や生態は変らず、もっぱら肉を好む。島では、それぞれ個体識別のため、耳にタグが付けられていた。今回、6歳のオスと、そのパートナーの4歳になるメス、1歳の娘レイラと同じ年の息子ジョシュアからなる家族に密着取材した。近親交配を避けるため、オスは一歳になると群れを離れる決まりがある。家族の父親は、行動範囲が40kmに及ぶ。砂浜から離れた草地で耳を動かしながら、音を聞き取っていた。草むらをすばしっこく動くネズミの気配を悟るや否や、後ろ足で飛び上がり、前足で押さえつけるようにキャッチした。視覚に頼らず、優れた聴覚と嗅覚を生かして、獲物の居場所をつかんでいた。
その頃、娘のレイラは、波打ち際でクジラの肉を貪るように食べていた。船の上陸が制限される中、波打ち際はディンゴの狩場である。条件の良い餌場を確保するべく、一家の主である父親は、念入りに尿を出して、マーキングしていた。娘のレイラは、間もなく出産する母親の子育てをサポートする役割を担う。オスのジョシュアが群れから離れても、メスはしばらく残り、ヘルパーとして子育ての方法を学んでいた。
障害物によって、狩ができなくなると、奥の手を使う。ベテランの母親は、尻尾を小刻みに振りながら、草地を見下ろしている。前足を交互に動かして、獲物を開けた場所へ追い立てていく。草地の切れ目に獲物のネズミが姿を見せると、助走をつけずに飛び上がった。正確に獲物をキャッチし、すぐに口の中に入れた。母親は、ベテランならではの巧みな技を生かして、ネズミを効率よく捕らえていた。
8月、浜辺を徘徊する母親の姿があった。5月と比べると、腹部がふっくらとし、乳が張っていた。森の中で巣穴を構え、食料を探しに浜辺に出たのである。打ち寄せる波が、度々海の魚を運んでくれる。森の中での狩りは、走力を必要とし、エネルギーの消耗が激しい。体力を消費させないためにも、度々浜辺に出て、打ちあがった魚を調達していた。目的を終えた母親は、海に注ぐ浅い小川に入り、舌先で水を飲み、海岸から数キロ離れた森にとどまるパートナーの父親の元へ帰った。夫婦の間には、合計9匹の子供が生まれていた。イヌ科動物切手の子沢山である。夫婦だけでの力では、到底9匹の子供の面倒を見切れない。そこで子育てのヘルパー役として、前の年に産まれた子供を利用する。夫婦には、1歳になる娘レイラの力が必要だった。空には常にタカ科のシロハラウミワシが旋回している。視力がよく、小さなディンゴの子供を掻っ攫う手ごわい天敵だ。背丈の高いユーカリの木が、屋根の代わりになり、幾分日陰を作ってくれる。子供は生まれて間もない頃、朽ち果てた倒木に身を寄せ、乳をもらっていた。子育ての成功には、安全な住処が欠かせない。果たして9匹の子供が無事に育つのか、夫婦とヘルパーの力にかかっている。
写真 左 海辺のディンゴ(性別不明)掲載元 Getty Images
写真 右 シロハラウミワシ 掲載元 世界の鳥の生態図鑑 2022年5月6日付
https://sekainotori.com/4740.html

第2章 試練に直面する
この森の中で子育てする家族には、思わぬ不幸が起こった。9匹の子供が産まれて間もない頃、ヘルパーを勤める娘のレイラが原因不明の事故に巻き込まれ、命を落とした。同じ歳の兄弟であるオスのジョシュアはすでに独立し、群れから離れていた。夫婦は、ヘルパーを失いながら、育児を続ける。倒木などをねぐらに利用しながら、森の中を点々と移動を繰り返す。今回9匹の子供のうち、右足に白い模様を持つオスに注目した。好奇心が強く、色鮮やかな黄緑と赤、青色の羽を持つ小鳥の死骸を加えて、近くの木の裏へ運び、丁寧に土をかけた。獲物を独り占めするべく、隠しておいたのである。このちゃっかり者を、模様の色からホワイトソックと名づけた。ホワイトソックの行方を、背後からひときわ小さな子供が見ていた。2匹の兄弟でも体の大きさに差がある。小さな子供をリトルと名づけた。ちゃっかり者のホワイトソックと一際体が小さいリトルを中心に追跡取材を開始する。
ねぐらとして利用した倒木の周辺には、体調最大2mになるレースオオトカゲが潜んでいる。地上から木の上まで活動範囲が広く、舌を出し入れして、獲物の匂いをかぎとった。決して足は速くないものの、音を立てずにそっと忍び寄り、不意打ちをかける。
写真=レースオオトカゲ 掲載元 爬虫類図鑑より
https://hatyu.info/resuootokage.php
森の怖さを知り尽くすディンゴの両親は、活動範囲を広げ、ねぐらからねぐらへ渡り歩く生活を送った。デスアダーという猛毒のヘビに、ひとたび噛まれると、大人でも命を落とす可能性がある。か弱い子供は、数多くの天敵に目をつけられる。安全面を確保するため、両親と離れず、くっつくように移動をしていた。
不幸にも9匹のうちに、1匹は毒蛇に噛まれ、事故死した。残された8匹の子供のうちリトルは、じっとしていられず、しきりに落ち葉に鼻を突っ込んでいた。腐葉土に含まれる昆虫を食べる目的はない。毒蛇に噛まれた兄弟の死にショックを受け、心が落ち着かなくなっていた。ディンゴは、哺乳類の中では飼い犬と同じく、感受性が豊かな部類に入る。兄弟同士の絆も深く、仲間を失った悲しみも当然大きくなる。10年ほど前、ディンゴ自身の独特な行動が観察された。撮影された映像を見ると、落ち葉が積み重なった道を、子供を引き連れた母親が歩いていた。倒木を跨ぎ、子供の亡骸を加え、駆け足でその場から去っていった。背後の子供は、後を追うように走り出した。子供の亡骸を加えて移動した月日は3日なる。霊長類やイルカやクジラの仲間にも、同じように死んだ子供をあきらめられず、寄り添うような行動が確認されている。人間でも、我が子が事故死すれば、親は大きなショックを受け、外見では白髪が増える、頬がげっそりとやせこける、皺が増えるなどの老化現象が起こる。知能が高い動物ほど、我が子や両親、兄弟への思いが深い。大切なものを失った悲しみは当然大きくなる。
巨大な砂浜で形成された森は、湿気を帯びていた。幾筋もの小川が流れ、窪地に注ぎ、湖になる。本来砂の層はスポンジのように水を吸収し、池は干上がるはずである。フレーザー島の湖を支えるのは、植物である。砂の層の上に、枯れた植物が堆積した層が乗る。その枯れた植物からなる層の上に水が蓄えられた。次の疑問は、三日月型や菱形まで変化に富んだ湖の地形である。中でもマッケンジー湖は、透明度が高い。
写真=マッケンジー湖 出展: shutterstock.com 掲載元 TAVIZINEより
https://tabizine.jp/2014/10/12/21892/
砂地に不純物はなく、雨水を吸収する。地下でろ過され、窪地となる湖に流れ込む。島で大小あわせて約40個存在する湖は、砂丘次第で変化を続ける。風の力によって、砂丘は常に動き続けている。丸い形の湖に大量の砂が落ち込み、半分以上の面積を失っていた。やがて砂丘が移動をすると、湖は完全に埋まってしまう。砂の力は、樹木にも及ぶ。実際森の一角に、小高い砂丘がある。縞模様の風紋を刻む砂丘に、点々と枯れ木が聳え立つ。枯れた植物はリンや窒素になり、砂の中に残る。風で種が運ばれると、リンや窒素を楚に育つようになる。巨大な砂の島、フレーザー島は、風雨によって、地形が変わっていた。
島で子育てするディンゴ一家は、9匹の子供のうち1匹を失いながら、森と砂浜を行き来する。両親が狩で留守にする中、8匹の子供の前に耳にオレンジのタグがついたジョシュアが姿を見せた。本来オスは独り立ちするはずだが、娘レイラの急死を受けて、帰ってきたのである。これまでの研究によると、本土で観察された群れを含め、オスのヘルパーが確認されたのは2例目である。年下の兄弟に慕われ、皆と顔を合わせ、鼻先をくっつけ、挨拶をした。ジョシュア自身、年下の兄弟を育てるべく、狩に大忙しである。
写真左=じゃれあうディンゴの子供 掲載元 Pinterest
https://www.pinterest.jp/pin/429882726903277049
写真右=ズグロトサカゲリのペア 掲載元 タスマニア探訪記 2015年1月27日付
https://mustachio.exblog.jp/24061134/
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旅行者が偶然撮影された映像には、波打ち際でジョシュアが餌を巡って、他の群れのオスと噛み付き合う様子が写っていた。戦いで不利にたったジョシュアは、額に噛み傷が残っていた。怪我をしても休んでいる余裕はなく、浜辺で餌探しを行う。砂浜と森の丁度境界線となる小さな草むらに、ズグロトサカゲリの営巣地があった。産まれたばかりの雛鳥は、視力と脚力は備わっているものの、走ってはすぐに止まることを繰り返す。辺りをきょろきょろうかがい、恐怖を感じると、身がすくんで、動けなくなってしまう。無防備な雛鳥を防御しようと親鳥が立ちふさがる。金切り声をあげながら低空飛行し、ジョシュアの頭部をめがけて攻撃する。一端地面に降り立ち、断続的に声をあげ続けた。ジョシュアは、草にまぎれる雛鳥に気づきもしない。親鳥のすごい剣幕にたじたじして、その場を後にした。
写真=ズグロトサカゲリの親子 掲載元 ガラパイヤ 不思議の謎の大冒険より
https://karapaia.com/archives/52317605.html/k-4822fe75-j
餌探しの過程で、トラブルに巻き込まれてしまうこともある。今回、親鳥の攻撃を交わしたものの、手ぶらで巣に戻るわけにはいかず、日暮れまで獲物を探し続けた。
昼間ズグロトサカゲリの激しい反撃にあい、収穫を得られなかった。闇夜に爛々と輝く目から、獲物を見つけ出し、早速行動に移した。森の中に潜んでいた小型有袋類のバンティクートを加え、巣に運び込んだ。例え目が見えなくても、優れた嗅覚で獲物を追跡し、わずかな音を聞き取り、木の裏に潜むバンティクートを仕留めていた。近くの小川の中に入れて、窒息死させ、急いで巣に戻った。途中息が切れて、一端獲物を置いた。昼間から空腹を我慢していた分、食欲をそそられる。ジョシュアは子供のことを優先し、獲物を加えなおし、再び走り出した。一晩のうちに、獲物を4匹も運びこんだ。父と母に比べてもジョシュアの子育ては手厚かった。野生のディンゴ家族を密着取材した例は数少ない。本来オスは独り立ちすると、後から生まれる兄弟と顔を合わすことはない。ジョシュアが群れに残った分けは、同じ年の兄弟である娘レイラの死にある。こうしたヘルパー制度は、同じイヌ科でアフリカ大陸を中心に分布するセグロジャッカルも持つ。ジャッカルのヘルパー制度は、その年の気候によって変る。乾燥が一段と激しく餌不足の状況に陥ると、兄弟の間で最も強い個体が親元に残り、他の個体を追い出す。一方、餌に恵まれた年に独り立ちを迎えると、一番成長が遅れている個体が親元にとどまり、ヘルパーとして子供の面倒を見ていた。
ディンゴ社会では、ヘルパーとして残ると有利な面がある。ジョシュアは、両親と長い時間を過ごすと、夫婦間のコミュニケーションの仕方を習得する。兄弟の分まで餌探しに勤しむと、ますまず狩が上達する。一度子育ての方法を覚えると、独り立ちして、新たなパートナーを手に入れる際、大きく役に立つ。母親が子供達を呼び集めて、肉を吐き戻している間、ジョシュアは遠巻きに観察していた。母親が肉を運んだ直後、決まって授乳タイムが始まる。子供達は、仲間と競うように、鼻先をくっつけながら母乳を飲んだ。一際体が小さなリトルは、仲間の兄弟が離れた直後に、乳をもらう。他の兄弟より成長がやや遅れているように見えるものの、健康状態にはほとんど問題がなかった。人為的な影響が少ないフレーザー島では、食料に恵まれている分、餓死の心配は少ない。問題は毒蛇による被害や山火事である。
乾季に葉と葉がこすれ、自然発火の火事が起こる。一度火がつくと、消化できず、数日の間も燃え続けてしまう。数日後、雨が降り、火の手が収まった。ディンゴ家族が使っていたねぐらとなる倒木も炭と化していた。倒木の中は、余燼がくすぶり、小さな煙が吐き出されている。古い木々は倒れ、道を塞いでいた。逃げ遅れた動物達の亡骸が、灰まみれの状態で発見された。破壊された森は、間もなく再生される。
神秘!不思議な砂の島 フレーザー島
世界最大の砂浜が広がるフレーザー島は、高低差が激しい。こんもりと盛り上がった砂丘から、標高200mの低山まである。なぜ砂一色の島で、激しく地形が変化するのか、その成り立ちに迫る。南へ200km離れたシドニー近郊に、世界自然遺産に登録されたグレーター・ブルー・マウンテンズという砂岩で出来た森がある。雨水によって砂岩は浸食が進み、川となって海に注ぎ込む。貿易風に乗り、北へ運ばれると、岬に行く手を阻まれ、堆積したのである。はるか長い年月をかけて、膨大な量の砂がたまり、島と化した。風雨によって、今も形が変っている。以前森が広がった場所は、風の力によって内陸へ移動していた。最大毎年1mも動いているという。小さな砂粒が集積して、不思議な島に変った。
写真左=グレーター・ブルー・マウンテンズからスリー・シスターズと名づけられた奇岩 掲載元 sky ticket 2019年9月4日付 出典: www.shutterstock.com
写真右=フレーザー島内陸部の河川 掲載元 エコナビ
https://econavi.eic.or.jp/ecorepo/go/541

第3章 山火事発生!家族はどこへ
山火事は、数日たってようやく沈静化した。余燼がくすぶる森の中には、見る影もなく、古木が倒れていた。ねぐらの周囲に、右足に靴下模様を持つホワイトソックがいた。火事の際、家族を見失ったのか、たった一匹だけ取り残されていた。頼りとなるのは、家族がつけた匂いだが、火事の影響ですっかり消えてしまった。煤けた木の根元で体を伸ばし、ほえ声をあげる。森中に響く高い声は、家族の耳に届くはずである。返事は聞こえず、静寂に包まれていた。数日後、煤けた灰から新芽が芽吹きはじめていた。灰色と化した小さな塚から羽アリが飛び立っていく。ホワイトソックは、視線を落としたまま、匂いをかいだものの、さすがに食べる様子はなかった。今必要なのは、母親のミルクと、動物の肉である。右後ろ足で毛を研ぐと、その場から立ち去っていった。
森の中の植物が火事によって淘汰される中、ユーカリの木は被害を受けずに残っていた。一方、バンクシアの仲間は、逆に火事を利用して、繁殖活動を行う。表面が燃えると、実が弾け飛び、中から種がこぼれ落ちる。灰の中に含まれる肥料を楚に新芽が成長する仕組みだ。破壊と再生を繰り返す森は、火事に強いユーカリとバンクスマツが中心となる。栄養価が低いユーカリの木は毒素を含む分、免疫をつけたコアラ以外採取できない。フレーザー島では、大陸からコアラは渡ってこられず、無敵の存在となった。
写真左=2020年12月に起こった島の山火事の様子 違法なキャンプファイヤーが原因とみられる (Photograph by Matthew Abbott)掲載元 ナショナルジオグラフィック 2020年12月24日付け
写真右=オーストラリアの山火事から逃げるディンゴのイラスト
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山火事が収まって1週間後、煤けた灰から新芽が芽吹いていた。7匹の子供とヘルパーのジョシュアが顔を出した。火事の後、新たに巣を設け、周囲で餌探しを続けていた。ユーカリ林の中を歩き回った迷子のホワイトソックは、声を限りに叫び続け、ようやく家族と再会した。火事が収まり、緑が芽吹く頃、匂いを辿り、家族の居場所を突き止めたのである。他7匹の子供の安否確認がとれた。再会を祝い、頼りになるジョシュアに駆け寄り、前足を伸ばして、餌をねだった。ディンゴの子供の生存率は2割から3割といわれる中、大規模な山火事でも8匹の子供は怪我もなく、無事に乗り越えていた。遠吠えを繰り返して、離れた場所にいる両親にもアピールをした。
頼れる兄貴分として、ジョシュアは子供達を前に稽古の相手をする。餌がほしくて口元をねだる子供を、意図的に前足で倒した。他の子供にも前足で叩いて、反撃をうながす。倒れた子供には、降参を許さず、鼻先を突きつけて、刺激を与える。成長して狩に出る際、倒されてもすぐに起き上がり、駆け出さなければならない。七転び八起きの精神により、実際の狩りでもめげずに獲物を追い続ける。成長盛りの子供達同士では、互いにライバル心を持ち、肉を引っ張り合っていた。父親が、練習用として、かみ殺したバンディクートを放置していた。敏感な2匹の子供が気づき、餌を譲る様子はなく、激しく争ったのである。体が小さめのリトルは、おこぼれを狙おうと、背後から様子をうかがう。火事の中、迷っていたホワイトソックは、仲間がケンカをしているうちに、ちゃっかりと肉の切れ端を受け取っていた。仲間に背を向けて、一端藪の中に入った。そこには、空腹に耐えていたリトルが、待ち構えていた。ホワイトソックは、餌をもらう順位が低いリトルを哀れに思い、自分が確保した肉を、こっそり上げていたのである。同じ兄弟同士で助け合い、深い絆で結ばれた。ホワイトソックは、リトルの分まで餌を確保し、他の兄弟に内緒で差し出していた。
息子ジョシュアは、狩に精を出しながら子供達の遊び相手をする。頼れる兄貴として、小さい子供から信頼されていた。本来は子育てに参加する身ではなく、独り立ちを迫られる。ヘルパー役の兄弟レイラの死によって、代わりを引き受けるようになった。毛づくろいを受けている最中の母親に挨拶した矢先のことだった。これまでの労力に感謝されるどころか、すごい形相で追い返された。部外者のように唇をめくって、威嚇されたのである。子供達が巣から離れ、狩の現場に向かうようになれば、ヘルパーは不要になる。子育ての追い込みは、父親と母親が行う。ジョシュアは、兄弟の前から突如姿を消した。
10月、南極海への旅路の途中のザトウクジラの親子が、島沖合で観察された。夏の間、餌が乏しい赤道付近の暖かい海で、母親は絶食状態で育児をする。子供は、半年余り、母乳を飲んで栄養を付け、脂肪が発達すると、南極海へとつれられる。
ヘルパーとして役目を終えたジョシュアは、海岸線で新たなパートナーと共に小走りしていた。親元から離れて、放浪していた矢先、隣の縄張りに所属する年頃のメスと出会い、すぐに意気投合した。パートナーを決めれば、すぐにメスの妊娠が期待できる。いよいよヘルパーとして磨いた腕が発揮され、初の子育てに挑む。成長した今は、より責任感が強くなる。パートナーのメスの信頼を得るためにも、尿を振り掛けて、マーキングを行った。フレーザー島で、新たしい命が誕生しようとしている。
写真左=フレーザー島の砂浜で寄り添うディンゴのペア All About Fraser Island 2021年1月11日付け
写真右=ディンゴの赤ちゃん達 掲載元 X(旧twitter) 2016年7月4日付け SEKAINO NEWS (凍結されたアカウントと表示される)

世界最大の砂浜を持つフレーザー島は、緑豊かで、水に恵まれ、手付かずの自然が残されていた。大陸から渡ってきたディンゴ家族は、自然災害にも負けず、独自の暮らしを営んでいた。子供の数は平均8匹から9匹、1歳までの生存率は2割といわれる。子沢山の影響からか、両親の他にも、前の年に産まれたメスが、ヘルパーとして群れに残り、食料探しに勤しんでいた。今回取材した群れは、ヘルパーのメスの事故死を受けて、1歳のオスが代わりを引き受けていた。若くて、忠実で、年下の兄弟の面倒を見る。昼間の狩が失敗すれば、闇夜に紛れ、バンディクートをとらえ、巣に運び込んだ。子供達は、互いに競い合うように肉を食べて、体を大きくし、取っ組み合いの練習をした。月日がたつに従い、成長の差が顕著に出ていた。飼い犬や霊長類、クジラに負けないほど豊かな感性を持ち、仲間のことを気遣い、死を悼む。幾度も苦難を乗り越えて、大人へと成長する。隔絶された島独自の環境に適応し、今日も大地を闊歩している
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