【新宿武蔵野館】でアニメ映画『風が吹くとき』の吹き替え版を鑑賞したので、その感想。この感想はネタばれありです。
イギリスの片田舎で暮らすジムとヒルダの平凡な夫婦。二度の世界大戦をくぐり抜け、子供を育てあげ今は老境に差し掛かった二人。ある日ラジオから、新たな世界戦争が起こり核爆弾が落ちてくる、という知らせを聞く。ジムは政府のパンフレットに従ってシェルターを作り始める。先の戦争体験が去来し、二人は他愛のない愚痴を交わしながら備える…。そして、その時はやってきた。爆弾が炸裂し、凄まじい熱と風が吹きすさぶ。すべてが瓦礫と化した中で、生き延びた二人は再び政府の教えにしたがってシェルターでの生活を始めるのだが…。
(公式HPより)
レイモンド・ブリッグズの同名グラフィックノベル原作の映画で、本公開は日本では1987年だが、今回35年近くの時を経てリバイバル上映となった。
レイモンド・ブリッグズの作品は子供の頃から『ファーザー・クリスマス』、『スノーマン』とアニメ版で親しんでおり、『風が吹くとき』の原作も昔読んだことがあったが、あまりにも違い過ぎてショックを受けたものだ。
アニメ映画は見るタイミングを逃していたが、今回のリバイバルは良い機会だと思って映画館で鑑賞した。
上映館内は新宿武蔵野館で、この映画館を利用したのは2022年に上映した『シチリアを征服したクマ王国の物語』以来なので2年半ぶりである。
本編は冒頭が実際の記録映像と思われる軍事車両が道路を走る光景から始まり、それが図書館の新聞の記事と明かされる。
イギリスの片田舎で暮らす「ジム」と「ヒルダ」の老夫婦は穏やかな生活を送っていたが、ラジオで核戦争が近いと知ってジムは家の中にドアを壁に立てかけたシェルターを造る。
原作が40P弱のページ数なので、映画化するにあたってジムとヒルダの会話も映画オリジナルのシーンが追加されたり、ジムがロンドンで暮らす息子「ロン」に電話するシーンもあったりする。
この夫婦は先の大戦(第二次世界大戦)を経験しているので、当時を懐かしむシーンではリアルの記録映像も挿入されている。
基本、老夫婦の会話が主軸となっているが間にミサイル、爆撃機、潜水艦が写っていて戦争が刻々と近づいていると感じさせられる描写もある。
遂に核戦争が勃発してしまい、核ミサイルが着弾するシーンでは見開きで真っ白な光景を表現したのに対して、映像化するにあたって黒い爆炎が迫り、他の家が崩れ落ちたり、列車が橋の崩落で脱線する描写と恐ろしさが追加されている。
ジムとヒルダの家も被害を受けるのだが、破壊された室内はミニチュアや実写で再現していて、リアリティを醸し出している。
この作品の恐ろしいのは核攻撃が起きてからの描写で、二人は徐々に体調を崩していくがそれが観客は放射能による被ばくの後遺症と悟っているが、最初は眩暈や頭痛だったのが出血や脱毛と症状が悪化していく夫婦が気付いていないのもゾッとする。
核爆発後に雨が降り、ジムが雨を飲料用に溜めるにも背筋が凍ってしまった。
映画オリジナルの台詞でヒルダが外に出た時、焦げ臭い匂いを感じて「なんだか焼肉みたい」と言っていたが、それはもう何なのかを察してしまう。
体調が悪くなりながらも助けが来ると信じている夫婦は原作のラストと同じくお祈りをするが、徐々に画面が暗くなりラストは空に流れていく雲のシーンで締めくくっている。
原作が描かれたのは1982年と冷戦真っ只中で、発表当時は核戦争の恐怖がより現実味を帯びていたと思うが、今回の鑑賞でもその恐怖を鑑賞中に体感できた。
ホラーでないのに怖い映画とは本作みたいな話を指すのかもしれない。
最近放送していた『藤子・F・不二雄SF短編ドラマ』シーズン2の「マイシェルター」もそうだが、冷戦期に描かれた作品の映像版は今観ても世界情勢のきな臭さから色褪せることがないのだと改めて気付かされた。
自分は冷戦後に生まれた世代なので知識では理解していても、当時の雰囲気は感じ取れないと言った際にマイミクのとおるさんが例として取り上げたのが『風が吹くとき』だったので、今回映画館で鑑賞して正解だった。
吹き替え版での上映だがジムは森繫久彌、ヒルダは加藤治子と今は鬼籍に入られた名優の演技を堪能できた。ロンはチョイ役だが田中秀幸が担当していたのも驚いた。
主題歌「When The Wind Blows」を担当したのはデヴィッド・ボウイで、最近ボウイの評伝グラフィックノベルを読んでたのでタイムリーに感じた。
PS.
新宿武蔵野館の館内ではこの映画の書評やポスターも展示されていた。
リバイバル上映だがパンフレットも新板で発売されていたので購入。本公開時に小野耕世が監督のジミー・T・ムラカミにインタビューした記事や2005年のレイモンド・ブリッグスへのインタビューも再録されていた。
『帰って来たドラゴン 2Kリマスター完全版』も上映しており、主演の倉田保昭は最近は『やすらぎの郷』に出ていた(と言っても7年前)のを思い出したが、こっちの映画の方がメインだったな。

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