【ニュースよりショートショート】狩りガール

いつ頃からでしょう？「狩りガール」という言葉が注目されたましたね。
はい。私もそんな「狩りガール」の一人です。
元々は街で学んで、街で働いて、街で恋して。そんな普通の女の子だったんだけど、ひょんなことからこの小さな温泉宿で住み込みで働くようになったんです。
最初は嫌でした。好きで始めた仕事じゃありませんし。
朝は早いし夜は遅い。昼間も掃除や料理の仕込みやで休む暇もありません。
旦那さんは優しいけど、奥さんは初めから私を嫌いだったようです。
小さくなイジメをずっとされました。
それでも私、街での暮らしに疲れていたみたいで、だんだんとこの生活も慣れてきました。
何にもないけど、自然が私を癒してくれました。

忙しいと言ってもそれは繁忙期だけの話で、平日に訪れるお客さんもあまりありません。
自由な時間は多いんです。
私は山を歩きました。そして山の虜になってしまって。山菜やキノコを覚えました。
そしてエスカレートしちゃって。ついには、これです。「狩りガール」です。
銃免許を取得して猟友会に入会しました。
おじいちゃんばかりの会です。
みんな優しくて私を可愛がってくれました。
シカやイノシシ、カモがメインですが、クマも撃ちます。

初めてシカを仕留めた時の感触は忘れません。
「手ごたえ」って分かりますか？
引き金を引いて銃口から放たれた銃弾が獲物を捕えたその瞬間まで私の指に感触はあるんです。
銃弾が獲物の肉にめり込み。その急所を捕え、シュン。。。と命が終わる瞬間。
そこまでの感覚が伝わるんです。
不思議ですよね。私と獲物が一本の見えない糸で繋がったような。それが「手ごたえ」です。

それから旦那さん「狩りガールがいる宿」なんて宣伝を始めて。
ジビエ料理を中心に、ちょっと宿も潤ったんですよ。
私もみなさんに褒めてもらえるくらいに猟銃の扱いが上手になりました。

街にクマが多発しました。
日当8500円ですか？
猟友会のみなさんは「そんつぁ〜はした金でやってらんねろ〜」と警察からの駆除要請も辞退する方向だったんです。
でも、私はどうしてもやりたかった。
私にとってそれはお金じゃないですもの。だから参加したんです。
そして成功しました。

私は直ぐに見つけました。私、鋭いんです。女の勘でしょうか(笑)。
いつものように照準を合わせて、はやる気持ちを落ち着かせます。
いつものようにゆっくりと、しかし確実に引き金を引きます。
銃口から放たれた銃弾は狙い通りに真っ直ぐに命中しました。
銃弾が肉を破り、骨を砕き、心臓をえぐる手ごたえを感じます。
シュン。。。とその命が終えたその瞬間。
私とあの人は見えない糸で再び繋がったんです。


はい。
あの人を愛していました。
でも、あの人は私をオモチャにしました。
闇に売春をさせ、その金で酒を飲み、私を殴りました。
そしてボロボロになった私をこの宿に私を売り飛ばしました。

はい。
最初から私が狙っていたのはクマではなくあの人です。



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(TBS NEWS DIG - 05月23日 22:43)
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