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2024年05月22日19:22

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【拳闘】パラス×京口《壱》

IBF４位
京口紘人(日)30歳
19戦18勝(12KO)１敗
身長162cm
リーチ163cm

IBF10位
ビンス・パラス(比)25歳
23勝20勝(15KO)２敗１分
身長159cm
リーチ164cm

京口紘人は日本最速記録となるプロデビューから僅か１年３ヶ月で世界王座(IBFミニマム級)獲得。同タイトルを２度防衛した後WBAライトフライ級を攻略して２階級制覇。４度防衛した後、拳四朗との２団体統一戦に敗れて無冠となるが、３階級目を狙ってフライ級に進出。世界ランク10位のビンス・パラスとの10回戦に臨んだ。京口はミニマム級の防衛戦で同選手を判定で退けており、今回は６年振りの再戦。勝てばタイトル挑戦への道が開く大事な世界前哨戦である。
そうは言ってもノンタイトル戦なので、正直注目していなかった。試合の数日前に『これから韓国に向かいます』とか『今ソウルに着きました』なんて発言を目にして
『なんで韓国？』と不審に思ったが、大方アジアの適当な選手を噛ませ犬にするのだろう、程度に思っていた。自分がやり易い相手、相性が良いとか格下、或いは試合間隔が短く調整不足とか、自分が有利な相手と金の力で試合を組むのである。京口は勝てば戦績が伸びて世界ランキングも上がる。ましてやド派手なKO勝ちなどすれば注目され、世界挑戦のチャンスが近付いて来るのだ。
相手にしたってメリットはある。負けても失うモノは無いし、勝てば自らの評価が上がり丸儲けだ。

井上尚弥や武居由樹らの注目の試合が目白押しだったので試合は見ていなかったが、判定負けとの結果に少し驚いた。と同時に、結果に対する不満や批判が噴出し、『疑惑の判定』として大騒ぎとなった。京口本人も試合直後に
「結果は判定で負けました　は？ふざけんな」
と怒り心頭で、『ボクシングに向き合う自信が無い』と現役引退をも示唆するコメント。数日後には『暫く休みます』と自ら冷却期間を作り、そして１週間経っても『まだ再起する気が起きない』とショックの大きさを表していた。

ボクシングの『疑惑の判定』は珍しい事ではない。残念ながらホームタウンデシジョン(地元贔屓)も未だ色濃く残ってるし、そもそも人間が観て判定してるので判定がバラつくのは仕方がない。
それにしてもネットは大荒れだ。
『奪われた勝利』、『大誤審』、『ジャッジは何を見てたのか？』
興行主の伊藤雅雪が緊急声明を発表したが、『個人的には京口が勝ってたとは思ったが、この結果も有り得る』と、京口の言い分にも理解を示しつつも結果を肯定。また『判定通り(京口の負け)』を支持するボクシングファンも少なくなかった。
そんな訳で、遅ればせながら俺も観てみた。

１Ｒ
身長はデータでは京口の方が３cm高い。３cm高いとパッと見で判る程度の差となるものだが、リングで対峙するとパラスの方が逆に高く見える。体格も若干パラスが大きく感じる。
京口の動きは柔らかく滑らかで調子は良さそう。中盤で右のオーバーハンド、後半に左ジャブがクリーンヒットし、直後にワンツーも飛び出す。

京口10-９パラス

２Ｒ
パラスは左右の大きなスイングを振りながら攻勢に出る。左ボディがヒット。中盤では軽い右のスイング。
京口は左ジャブが鋭く、パラスの大きなパンチをダッキングで綺麗にかわす。

京口９-10パラス

３Ｒ
出会い頭の左ジャブが突き刺さりパラスが僅かにバランスを崩す。パラスは怒涛の連打を振り回すが京口はダッキングで綺麗に外し、中盤にワンツー。終盤にも左フックを引っ掛ける。最後は両者アッパー狙い。

京口10-９パラス

４Ｒ
パラスは左ジャブを突いて前に出るが京口の右クロスカウンター。
中盤にリング中央で打ち合いとなるが、京口は相手のパンチを掻い潜って細かいカウンター。
後半ではパラスの失速が目立つ。連打のスピードが鈍り、空振りで身体が流れる。

京口10-９パラス
京口39-37パラス

５Ｒ
両者頭を着けての接近戦。パラスの大きなパンチで京口の動きが止まる。ダメージは無さそうだが印象は悪い。京口は相変わらず小さなカウンターがヒット。パラスは見ようによってはグロッキーにも思える程。右オーバーハンド、左スイング、左アッパー全てが大振りで、やぶれかぶれみたい。

京口９-10パラス

６Ｒ
パラスが一瞬ノーガードになるが、これは疲れたか手詰まりか。どっちにせよ状態が良くないので展開や気分を変えたいのだろう。バランスを崩すシーンも散見される。京口は相変わらず教科書の様な細かいカウンター。

京口10-９パラス

７Ｒ
前半パラスが連打をまとめるが、京口は左フックのカウンター。
中盤ブンブン振り回すパラスに対して京口は小さいカウンターを合わせる。
後半も左ジャブのダブル、パンチ＆ロール、離れ際に左ジャブのヒット＆アウェイ。

京口10-９パラス

８Ｒ
パラスに押し込まれ後退する京口だが、いきなり踏ん張って左を刺し込みダブルから左フック。こうした緩急は試合運びの上手さだ。ロープに詰められた時は左肩口から飛び込み、タックルの様な形で距離を潰す。
パラスは左アッパー。

京口９-10パラス
京口77-75パラス

９Ｒ
前半、京口は右オーバーハンドから左ボディ。パラスは左目尻から出血。スリップもあったがスタミナは残ってそうだ。
後半に京口は逆ワンツー。出て来るパラスに左フックのカウンター。終了間際にもワンツー。

京口10-９パラス

10Ｒ
前に出るパラスに対して京口は左のトリプルを再三放つ。左リードを多用するのは素晴らしいが、それはあくまでも試合を組み立てる段階での話であり、最終ラウンドのアグレッシブさが無い。右フックでカウンターを取るも浅い。
中盤にも京口が左のダブル。
後半右カウンターでパラスが一瞬横を向く、右アッパーもヒット。

京口10-９パラス

京口97-93パラス
俺の個人的素人採点では４ポイントの差をつけて京口の勝利。
しかし実際の判定結果は97-93が２者、96-94が１者で３者共パラスを支持。０-３で京口の判定負けとなった。

結果を知ってからの観戦だった事もあり、観ながら『あぁナルホド』と思う所が少なからずあった。パラスの勝ちだとする意見も解らなくはない。
まず俺の見解としては、ボクシング技術は京口が圧倒していた。１枚２枚上手、程度の差ではない。『喧嘩自慢の素人を軽くあしらうプロボクサー』くらいの差がある。ただブンブン振り回すだけのパラスのパンチを、絵に描いた様に綺麗にかわすボディワーク。相手が踏み込む瞬間、パンチの打ち終わり、離れ際等の絶妙なタイミングで放つカウンター。正攻法だったり変則だったり、突然リズムを変える緩急つけた試合運び。
京口サイドから見れば『完封』と言っていい試合内容だった。ポイントリードしてると考えていたのも当然だろうし、京口本人も『100点満点の出来』くらいの手応えを感じていたかもしれない。だからこそ『は？ふざけんな』なのだろう。
だが見方を変えてみよう。確かにパラスは技術的に洗練されてたとは言い難い。しかし徹頭徹尾前に出てパンチを振るい続けた。途中若干のスローダウンやバランスを崩す場面はあったものの、最後まで戦い続けるに充分なスタミナと、何よりも諦めない強靭な精神力を見せつけた。その頑張りに心を動かされた者も少なくなかっただろう。ひたむきに何かに打ち込む姿を見れば、応援したくなるのが人情だ。『頑張れパラス。努力はいつか報われる。いつかそのパンチが当たるぞ』そんな心境になると、同じモノでも違って見える事もある。
『ガンガン攻撃し続けるパラスに対し防戦一方の京口。今のところはクリーンヒットはかわしているが、それがいつまで続くか？パンチを喰らうのは時間の問題。かろうじて生き延びてるだけに過ぎない』
こんな解釈もできなくはない。そういう角度から観てしまえば京口が劣勢に見えてしまうかもしれない。
プロのジャッジなのだから冷静な判断が求められるのは当然だが、しかしそこはやはり人間である。感情を完全に排する事は難しい。
しかも今回の舞台は韓国だ。この影響が大きいだろう。韓国ボクシングは今でこそ低迷しているが、昔はゴリゴリのインファイターを多く輩出した国。小手先の技より力と力の真っ向勝負を美徳とする土壌がある。つまり京口のテクニックより、パラスの突進を評価しても不思議ではないのだ。感情的な国民性も相まって、観客が異常に盛り上がった可能性も否定できない。試合後の伊藤代表の
『後で映像で見返すと京口有利にも思えるが、現地で生で観ていた時はパラスが優勢じゃないかと感じた』というコメントが、その答えではあるまいか。
更に、ジャッジ３人全員が韓国人だった。日本人に対する色メガネ云々と、そこまで言うつもりはないが、盛り上がる観客に囲まれ、その影響を全く受けないとも言い切れないだろう。
なので『パラス支持』は解らないではない。俺個人の意見は違えど『その見方もあるだろう』と一定の理解はできる。ただ、

その為の３人のジャッジ

である。
人間が主観で判定する以上、何処に重点を置くかは人それぞれ。だからこそ、複数のジャッジによる多数決を採用しているのだ。ところが、３人が全員共インファイターを評価する傾向が強いと思われる韓国人だった事。そして、俺が何よりも問題だと思うのが、３人のジャッジの見解が皆それぞれバラバラなのだ。３人の評価が一致したラウンドは４つしか無く、他の６つのラウンドは３者３様。これでは何を基準にジャッジしてたのか、まるで意味不明である。
例えるなら、野球で低めをストライクに取る傾向に強い国の審判が複数いたとして、全員が低めをストライクと判定するならいいだろう。ところが、最初の低めは審判ＡはストライクとしたのにＢはボールと判定。ところが次の低めの球はＡはボールと判定したがＢはストライクと判定する。そんな感じだ。判定基準がその場その場で変わってしまっては、ボクサーだってどう戦えばいいのか分からない。

因みにボクシングの採点基準は以下の通り決まっている。

① クリーン(エフェクティブ)ヒット
正しいナックルパートによる的確かつ有効な加撃。有効であるかないかは、主として相手に与えた効果に基づいて判定される。
※ 相手にダメージを与えたかどうかが判断基準となる。
肘がかすったとか裏拳等は当然評価されない。

② アグレッシブ
攻撃的であること。ただし、加撃を伴わない単なる乱暴な突進は攻撃とは認められない。
※ 相手の攻撃を潰す為だけの、例えばタックルみたいな攻撃は無効。

③ ディフェンス
巧みに相手の攻撃を無効ならしめるような防御。ただし、攻撃と結びつかない単なる防御の為の防御は採点されない。
※ 後ろに飛び跳ねる様に、ただ逃げ回るだけみたいな行動はディフェンスとして評価されない。

④ リングゼネラルシップ
戦術的に相手に優り、巧みな試合運びによって自らのペースにもっていくこと。

ジャッジはまず最初に①の『相手にダメージを与えたか』を比較検証する。ここで優劣の判断がつかなかった場合、②の『攻勢に出たかどうか』を見る。とにかく、相手を倒す為に頑張ったかどうかが重要って事である。
そこまででも優劣付け難い場合は③のディフェンスの技術。そこでも差が無いと思われた場合は④の主導権争いで比較し、出来る限り10-９で振り分ける。
難しいのは①のダメージングブロウだ。効いたかどうか本人に訊ねる訳にもいかないし、訊いた所で比較も不可能だ。顔が跳ね上がったとか明らかに動きが鈍ったとかで判断せざるを得ない。結局のところ今回のジャッジは、京口のパンチは相手にダメージを与えるまでに至らなかったと判断した様だ(それを言うならパラスの有効打も殆ど無かったと思うが)。すると②の『攻勢』を評価したって事だろう。しかし幾ら強いパンチが無かったと言っても、当たっていた事には違いないし、ヒット数の差も圧倒的だったと個人的には思う。

言い方を変えれば『気持ちが技術を上回った』とはこういう試合の事を言うのかもしれない。

最後に、ネットのボクシングファン達のコメントを載せておく。
『こういう技術がボクシング技術としてジャッジが全く観てないように思える』
俺も同感だ。言葉は悪いかもしれないが、ただがむしゃらに突き進む猪ボクシングの韓国ならではって気がする。しかも近年は世界戦線には全く届かず技術的にも衰退し、韓国ボクシング界全体の目が霞んでしまってるのではあるまいか。

『どっちもふらついてはないから、ブンブン振り回してる方が強そう、くらいの認識なのではないか』
これももっともである。素人の喧嘩じゃあるまいし、判り易い部分だけにフォーカスしてる様な気がする。

ダラダラと長く書いてしまったが、亀田史郎氏のコメントで最後をシメよう。
『京口も持ってる。ノンタイトル戦でこんなに盛り上がっている。もう１回やったら盛り上がるやん。逆にＯＫ、プラス思考で考えないと』
これは素晴らしい逆転の発想じゃなかろうか。本来あまり注目されないノンタイトル戦が、これだけ脚光を浴びたのだ。これで再戦となったら日本中のボクシングファンが注目するカードとなる。しかも２人は１勝１敗だから文字通りの決戦だ。京口は30歳。まだまだこれからひと花もふた花も咲かせられるチャンスがある。３度目のライバル対決でパラスに勝って、そして３階級制覇。こぉーんなにも大きなチャンスが目の前に広がっているではないか。殆どのボクサーは、そんな夢の扉の前に立つ事すら叶わないのだ。夢の扉に手をかけられるのは、ほんのひと握りの者だけである。
今はまだ気持ちの整理がつかないかもしれない。少し休んで、そして再び立ち上がれ。
大阪の星が再び空高く輝くのを、俺は期待しているぞ。

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