私の21歳の誕生日。
二人で初めてのディズニーデート。
私も彼もバイトして。この日の為にお金を貯めた。
いっぱいはしゃいだ。いっぱい笑った。
いっぱい並んだけどその時間も楽しかった。
いっぱい歩いてヘトヘトだけど一緒ならまだまだ歩ける。
安いビジネスホテルに泊まった。
彼は直ぐに寝ちゃって。私は彼の寝顔を眺めていた。
彼の頭にこっそりミッキーの耳をつけた。
「あっ。寝ちゃった。。。」と飛び起きる彼の頭にはそのままミッキーの耳がついていた。
彼は寝相がいい。
私の23歳の誕生日
彼が就職してはじめてのディズニーデート。
「今年は俺が全部お金出すよ。いいのよ。出させてよ。」
ちょっぴり彼は大人になった。
ちょっぴり疲れているのかため息が多くなった。
ちょっぴりふてくされる私に。ちょっぴり怒った。ちょっぴり喧嘩した。
やっぱり安いビジネスホテルに泊まった。
「今年は寝ないよ。」という彼に。
「これつけないとダメ。」と無理やりミッキーの耳をつけた。
二人でミッキーの耳をつけて抱き合った。
夜の彼は素直だ。仲直りした。
私の25歳の誕生日
結婚してはじめてのディズニーデート。
「すぐに独立してさ。いっぱい金稼いでさ。こうしてバカみたいに並んでいる連中を尻目にさ、すいすい入れるチケットで連れて来てやるよ。」
とっても彼は大きくみえた。
とっても毎日が忙しそうで。
とっても頑張っているのが分かる。
とっても幸せ。
とっても。
東京ディズニーリゾートホテルの素敵なお部屋に泊まった。
「今年はミッキーの耳はつけないぞ」彼は先に宣誓して私を抱きしめた。
それでも、二人でミッキーの耳をつけたまま抱き合ったあの夜を思いだして笑ってしまった。
私が笑ったから、彼も笑った。
笑っているうちに彼は寝てしまった。
彼は疲れている。
30歳の誕生日
彼が独立して初めてのディズニーデート。
「約束通りに今年は特別券(1デーパスポート:ファンタジースプリングス・マジック)ですいすいと回れる。」
やっぱり彼は大きい。
やっぱり毎日が忙しそうで。
やっぱり頑張っているのが分かる。
やっぱり幸せ。
やっぱり。
やっぱり。
東京ディズニーシー・ファンタジースプリングスホテルに泊まった。
一泊40万もするらしい。
彼は自らミッキーの耳をつけて私を抱きしめた。
「おい。ミニー。」
彼は私の鼻を突いた。
「おい。ミニーってば。」
彼は私の両方の頬っぺたを引っ張った。
「おい。ミニー。『どうしたの?ミッキー』って言ってくれよ。」
彼は私を抱きしめた。
彼は私を抱しめて大きなため息をひとつついた。
「俺のなにが悪かったのかな。。。。」
やっぱり私は幸せだった。
でも彼は疲れていて。
私も疲れていた。
それが最後の夜。
私が愛していたのは、貧しかったころの彼。
そして、貧しかったころの私。
ファンタジースプリングスホテルのアニメの中のような部屋。
その壁に、ミッキーの耳をつけた二人のシルエットが。
無声映画のように揺れていた。
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