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2024年05月15日04:01

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吸血鬼ですが、なにか?  序

序 


「彩斗!
 私達も弾切れよ!」

鐘楼の俺の横で奴らの大軍に撃ちまくっていた圭子さんが俺に怒鳴った。
圭子さんのSR−25にはもう弾丸が残っていなかった。
他の母親達も弾丸を撃ち尽くした様で弾切れのSRー25を握りしめて死霊屋敷に押し寄せる眼下の大軍を悔しそうに見つめていた。
その直後にインターコムで離れから撃っていた狙撃班Dからも弾切れと連絡が来た。
俺は圭子さんに叫んだ。

「圭子さん!狙撃班の皆を連れて巨石に!」
「彩斗!皆は巨石に向かわせるけど!
 私はまだ戦えるわ!」

圭子さんはホルスターのSIGに手を掛けた。

「圭子さん!巨石の結界は非武装じゃないと熊と鹿の番人に殺される!
 圭子さんは丸腰でもいざと言う時あの水牛に変化できる!
 最後の最後は水牛に変化して司や忍や!ユキや!子供達を!皆を守って!」

圭子さんが一瞬俺を見て唇を引き締めた。

「判った彩斗!」

そして圭子さんは残った狙撃班全員にインターコムで伝えた。

「狙撃班全員撤収!
 巨石の結界に逃げるわよ!
 急いで子供達の所へ!」

鐘楼にいた3人の狙撃班の母親達が弾切れの狙撃銃を置いて階段を駆け下りて行く。
離れの2階に陣取っていた狙撃班Dの母親達も窓から姿をひっ込めた。
狙撃班Dの母親の1人が窓から顔をひっこめる時に死霊屋敷前のバリケードに向かって悲痛な表情で『あなた!頑張って!』と叫んだ。
恐らく眼下のバリケード班に彼女の夫がいるのだろうか。

狙撃班の撤収を確かめた圭子さんが俺を見つめた。

「彩斗!何とか奴らを食い止めて!
 ワイバーンに幸運を!」

圭子さんが俺をきつく抱きしめると身を離し、階段を駆け下りて行った。
死霊屋敷の鐘楼は俺1人になった。
俺は第1バリケードを見下ろし、入り口ゲートに向かう奴らの大軍の列を見下ろし、先ほどのヲタ地雷の一斉爆破で出来た空間を再び奴らが埋め始めたのを見下ろした。
俺はインターコムで死霊屋敷守備隊に状況を伝えた。

「皆!全狙撃班撤収!
 鐘楼には俺1人になった!
 俺が死んだら明石が指揮を引き継ぐ!」

各部署からコピー!と返答があった。
俺は第2バリケードに後退した真鈴率いるバリケード班に第1バリケード前面のヲタ地雷を爆破する事を告げ、生き残ったバリケード班全員が第2バリケードの陰に身を屈めたのを見計らって第1バリケードのヲタ地雷の爆破を命じた。

クレイモア式のヲタ地雷は物凄い轟音と共に入り口ゲートから侵入して第1バリケードにとりついた奴らを血と肉の霧にして空中に消し去り凄まじい威力の数百の鉄球はそのまま直進して入り口ゲート前の道路の反対側の奴らまで引き裂いた。
100以上の奴らは始末しただろう。

一瞬、入り口ゲートの奴らは綺麗に掃除されたが入り口ゲートの障害物だったでかいアナザーの死体もきれいに掃除した。
そして、ガレージ側の明石達も後退をして守備線を縮小した。
これで少し俺達の守備線の密度が濃くなるが、攻撃地点間隔が狭くなった事で奴らも合流して密度も濃くなり集中してくることを意味していた。


「皆!奴らの密度が濃くなるぞ!
 猛烈な攻撃が来るから備えろ!
 皆殺しにしろ!
 死霊屋敷で食い止める!
 1匹も巨石に近づけるな!」

各部署からコピー!と返事が来た。
入り口ゲートの奴らが消し飛んだ空間をまた新手の奴らが埋め始めた。
塀の割れ目から侵入して来る奴らの波も依然として途切れず、遂に入り口ゲートの奴らと合流し始めた。

死霊屋敷に攻撃をかけている奴らはまだ1万はいるのだろうか…。
俺達、死霊屋敷に避難してきた人達の内の戦闘志願者を含めても100人にも満たない第5騎兵ワイバーンの戦力で絶望的な戦いを続けているが、誰一人弱音を吐かずにまだまだ希望を捨てずに奮戦を続けていた。

巨石の結界に避難している子供達やお年寄りを何としても守らなければ…ここで奴らを何としても食い止めなければ…。

双眼鏡を覗くと、四郎や栞菜、喜朗おじが真鈴達入り口ゲートバリケード班の援護射撃を受けながら奴らの海に飛び込んで奮戦している。
そして塀の割れ目の方向では明石とクラ、凛がガレージ守備隊の援護射撃を受けながら侵入する奴らを散々に斬り裂いているが、返り血まみれの四郎達の肩が激しい息使いで上下しているのが見えた。

四郎達はどこまで戦えるのか…。

そう思った瞬間にインターコムから松浦の警報が聞こえた。

「ミサイル!ミサイル!
 鐘楼に飛んでゆく!
 彩斗!逃げろ!」

俺が双眼鏡から目を外した途端に光の尾を引きながら真っすぐこちらに向かってくるミサイルが見えた。

くそ!奴らはまだミサイルを持っていた!

俺は慌てて階段を駆け下りようとした。
が、一瞬遅かった。
鐘楼に着弾したミサイルが派手に爆発し、とんでもなく大きな巨人にビンタを食らったような衝撃を感じて俺は粉々に飛び散る鐘楼の破片と共に投げ出されて落ちて行った。
俺の身体の部品があちこち千切れ飛んでゆくのを感じながら、俺は落ちて行き、地面に激しく叩きつけられた。
気が遠くなった。
俺は真っ暗な闇に落ちて行った。

「彩斗!彩斗!」

誰かが俺の頬を叩いて俺は目が覚めた。
身体中に激痛が走っているが、もう、痛みに悶える事も苦痛の叫びをあげる事も出来なかった。
返り血で真っ赤な四郎の顔が目の前にあった。
四郎の左こめかみに凄い傷がついているが、アナザーの四郎は徐々に出血が治まり再生し始めていた。
相変わらず戦いの騒音が辺りに満ちている。

「四郎…俺は…。」

四郎が俺の身体を見て残念そうに顔を横に振り俺の耳に口を近づけて優しく囁いた。

「彩斗…われの恩人、われの親友、われの兄弟…お前はもう…助からない…。」
「そうか…。」
「お前が…死ぬ時の約束…あれに変更はないか?」
「四郎…俺の…胸ポケット…に…メダルが…。」

そこまでやっと呟くと俺の視界が暗くなり始め、体が無性に冷えて来て…俺は暗い暗い暗い闇に沈みこんで行った。

四郎に初めて会ったのはいつだったのかな…四郎と真鈴に明石や栞菜達と初めて会った時はいつだったのだろうか…俺の意識が薄れながら暗い暗い闇に溶けていった。

四郎と真鈴とともにチキンガンボを食べながらチーム結成のお祝いをした…。

のちに死霊屋敷と呼ばれる南部アメリカ様式の大きな屋敷で齢1000年を超えるはなちゃんと出会った…。

無抵抗の四郎の左腕を明石が斬り落とした…。

ログハウスの地下で子供達と動物たちの身体で作られた身の毛もよだつおぞましく恐ろしいオブジェを見た…。

土砂降りの雨の中、加奈は凛を殺せず、膝から崩れ落ちて号泣した…。

自衛隊の大型ヘリに乗り富士樹海地下に『戦争』に行った…。

明石が死んでしまった圭子さんを抱きしめて、涙声で二人きりにしてくれと言った。

ジンコが地中に飲み込まれて行きながら、気丈に笑顔を浮かべてワイバーンに幸運を!と叫んだ…。

月が自転速度を変え、その裏側を地球に向け始めた…。

死霊屋敷で四郎とリリー、明石と圭子さん、クラと凛の合同結婚式を行った…。

地下ガレージのディスコでユキとチークダンスを踊っていて、ホイットニー・ヒューストンが突然だったと歌っていた…。

加奈がショットガンで心臓を吹き飛ばされて倒れた…。

ユキが…俺とユキの赤ちゃんが出来たと微笑んだ…。

混乱を収め、『清算の日』の進行をとどめ、愚かな戦いを終わらせようと岩井テレサの組織はその力を総動員して全世界同時一斉にメッセージを発信しようとしていた…。

闇の奥から…こんな事態になるまでの長いような短いような、おバカと恐怖が入り混じった様々な記憶が押し寄せてきた。





俺もアナザーに…吸血鬼として……。



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