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2024年02月15日07:46

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鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

先日、月曜のレイトショーに行くという馬鹿げた選択をしてまで見てきました。
近場(チャリ圏内)でやっているのを知って、仕事も早めに切り上げられたタイミングだったのでどうしても行きたくなってしまったのですよ。
公開から数ヶ月経て、依然人気が衰えていないと聞いてはいましたが、さすがに平日最終回ともなると他の観客ゼロの完全貸切状態でした。

今作は『ゲゲゲの鬼太郎』のオリジンとも言うべき『墓場鬼太郎』からさらに遡り、後に鬼太郎を育てることになる男・水木と、目玉の親父(当時はまだフルボディ親父)ことゲゲ郎との出会いの物語。

以下、ネタバレは極力しない形で感想を書いていきます。
先に言っておくと評判の高さも納得だし、凄く面白かったので今さらなんて言わずに是非多くの人に見てもらいたいです。
巷では最新シリーズの鬼太郎第6期第1話と、墓場鬼太郎第1話を事前に見た方が良いとするコメントがチラホラ見掛けられますが、個人的には予習無しでも大丈夫だと思います。
鬼太郎を一度も見た事ないなら別ですが。



〜あらすじ〜

廃虚となった哭倉(なぐら)村に鬼太郎と共にやってきた目玉おやじは、70年前に起きた出来事を思い出していた。
昭和31年、哭倉村は政財界を裏で操る龍賀一族に支配されており、鬼太郎の父は失踪した妻を捜しに村に足を踏み入れたのだった。
一方、血液銀行で龍賀製薬を担当する水木は、龍賀一族の当主・時貞の死に伴い、ある密命を帯びて村を訪れるが、そこで一族の者が惨殺される事件が起こる。






さて、見終わってしばらく経ってもこの映画のことをついつい考えてしまいます。
何故こうも人々を惹きつけるのか、自分には特にどこが刺さったのか、どうメッセージを受け取れば良いのか…等々。

というのも、そもそも今作は抱えている要素がとても多いのです。
箇条書きにしていくと、


・因習村サスペンス要素
・昭和再現要素
・立場の違う男二人によるバディもの
・妖怪バトルアクション
・戦争史観
・主人公誕生譚


ざっと挙げるだけでもこんなところです。
細分化すればもう少し増えそうだけど。

これら一つ一つは決して真新しいものではありません。
因習村サスペンスとしての要素は100人中120人が「犬神家っぽい」と感じるところだし、主に女性陣から絶大な評価を得ているバディものとしての良さは、それ自体が一大ジャンル化している所以でしょう。
ただ、それら多くの要素が見事に絡み合っているため、他では見たことのない独特な感動を生み出していたように思えます。
どれか一つでも抜けていたら今作のクオリティは担保出来ていなかったのではないでしょうか。

一個ずつ挙げていくとキリがないのでいくつかピックアップしていきます。
まずは昭和再現要素なんですが、Always的な「あの頃は良かった」感ではない、今と比べて明らかに駄目な部分を見せつけてくるのが凄く新鮮でした。
具体的に言うとタバコ描写。
ジブリの風立ちぬが健全に見えるほど、受動喫煙に対して徹底して無頓着なのです。
いやいや、そこに煙で咳き込んでる子どもがいるでしょ…と。
でもそれに対して誰も・何も気にしていない。
誰もその異常性が目に見えていないのです、目に映ってるはずなのに。
これ、単純に「昭和って狂ってんなぁ」という話だけではなく、今だってきっと同じですよね。
目に映ってはいても、そこに問題意識が働かないなんてことは自分にだってあるはずです。
「見えていないだけで妖怪は存在する」という、鬼太郎で何度となく繰り返されるテーマとも重なるところだなと、個人的には感じました。


そして今回一番の肝だと思ったのが因習村サスペンス要素。
ここが物語の中心に据えられていることで他の要素が上手く機能していたように感じました。
外界から隔絶されているが故に救いの手が入る余地が無いし、排他的な村だからこそ一度支配構造が出来上がってしまえば歯止めが効かない。
そして、その構造に全乗っかりしているのが今作で描かれる悪の存在。

これが本当に容赦がない。
華もない。
憧れるようなカリスマ性もない。
ただただ悪い。
そして胸糞悪い。
つまるところ最悪としか言いようがない。

ふと、ジョジョにおける悪の定義が思い起こされたので列挙してみます。


第3部
『悪』とはてめー自身のためだけに弱者を利用し踏みつける奴のことだ!(承太郎)

第5部
吐き気をもよおす『邪悪』とはッ!なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ!!自分の利益のためだけに利用する事だ!!(ブチャラティ)

第6部
お前は自分が『悪』だと気づいていない、もっともドス黒い『悪』だ。(ウェザーリポート)


…これら全部、見事に該当してますな。
特に「吐き気をもよおす『邪悪』」はドンピシャな表現だと思います。

この映画はPG12指定なので12歳以下が見るには保護者の助言・指導が必要なのですが、いや、この地獄に対してどんな助言をしろと言うのか。
具体的なことは伏せておきますが、絵としての直接的なグロ描写ではない、内側から滲み出るグロさが最高に最悪で、正直R指定でも不思議では無いと思いました。

さらに恐ろしいのは、今作の悪のあり方自体は全然ファンタジーじゃなくて、あらゆる時代において連綿と繰り返されてきたということ。
そしてこれからも、形が変われど繰り返されるであろうことは想像に難くありません。


その辺が上手く関連付けられているのが、主人公の一人であり原作者と同じ名の男・水木を通した戦争体験描写です。
言うまでもなく、ここで描かれているのは原作者・水木しげるの戦争体験をもとにしたエピソードです。
部下に死ねと命じておきながら自分だけは生き延びようとする上官の浅ましさを目の当たりにし、「弱い人間は踏み躙られる、それは戦争が終わろうと変わりはしない」という結論に至った水木(劇中の人物)の心中は察するに余りあります。
そんな水木がゲゲ郎との出会いを経て、そしてこの世の悪と対峙することでどう変化するのか、というのが大きな見どころになっていると思います。



…というわけで、他にも魅力的な部分は色々ありますがひとまずこの辺で畳んでおきます。
最後にもう一点だけ、今作が特別に思えた点を挙げると「犠牲になったという事実は絶対に覆らない」、それをまざまざと見せつけられたのが大きかった気がします。
これも具体的には伏せますが、幽霊・妖怪を扱ってはいても、事件の犠牲者が都合よく蘇る展開は今作にはありません。
ただ、幽霊・妖怪を扱うが故に供養することで成仏させてあげることは出来るし、あるいは仇を打つことで恨みを晴らすことは出来るかも知れない。
しかし、奪われたものは決して戻らないし、その時の怒りや悲しみ、苦しみや悔しさは決して無かったことにはならない。
その当たり前でありながら非常に重い現実を突きつけられたことで、忘れ得ぬ経験ができたと実感しました。
それを踏まえた上で物語の最後に、結末であり始まりでもある「鬼太郎誕生」が描かれることで、新たな希望が如何に美しく尊いものか、ということも知ることができた気がします。
(この映画の結末はシニカルで人間を嘲笑う『墓場鬼太郎』の鬼太郎誕生ルートを避ける物語にもなっています)


以上、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の感想でした。
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