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2023年03月04日09:28

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本 ”一人称単数” 村上春樹

“一人称単数” 村上春樹

本屋に行ったら、ポップなイラストの表紙で大量に平積みされていたので
ついつい買ってしまいました。
好きな作家ではありますが、長編は ‘06年に”アフターダーク”(文庫)、
短編は’07年に”東京奇談集”(文庫)以来新作は読んでいないという、
ダメなファンです。(その間、”ロンググッドバイ”、”ティファニーて朝食を”
”さよなら愛しい人”などの訳書は読んでいます)
ということで、久しぶりに村上ワールドを味わってみることに。

昔、不思議な人にあった、不思議なことがあった、そして今もその謎は解けない。
そんな話が八作(’18-‘20年に”文学界”掲載、単行本’20/7月刊行)、相変わらず、
明確なオチや謎解きがなくても、物事や他人を一歩引いた目で見る、
それをおよそ対象とかけ離れた例えをする、
そんな語り口を楽しませてもらいました。
ああ、これこれって感じで。
さすがに、やれやれ、はありませんでしたが。

今回、久しぶりに読んで今までと違ったのは、
数年前からTOKYO FMで始まった”村上レディオ”の作者本人の声で、
文章が頭の中に響くこと。

あの番組での氏の喋りすぎず余韻を残した温かい語り口と
ほんのりとしたユーモアのおかげか、不思議でオチのない話も、
その話を語り終えた後に、どう、不思議でしょ? 
とラジオのように同意を求めるような親しみのある表情を想像して、
今までより面白く感じます。
決して読者を置き去りにしてるわけではなく、
あざとかったり、気取ってるわけでもなく、
本当に不思議なんだよな〜、っていう。
やはり、あのラジオは氏にとって、イメージアップにつながったのではないか、
と思います。たまにしか聞きませんが。

特に、今回の作品には、関西弁を主人公や相手が喋ったりするから、
余計そう感じるのかも。といっても、氏の出身の神戸エリアのあっさりした
関西弁ですが。
あと、その神戸を舞台にしてたり、高校時代を振り返ったりするのも、
大好きな初期の短編”中国行きのスロウボート”に似ていてよかったです。

以下、各短編の備忘メモ。ネタバレ注意。
石のまくらに:昔、一度関係を持ったバイト先の女性の短歌(石の枕に)を、
今も思い出す。 
クリーム:昔ピアノを一緒にならってた相手から六甲の山の上での
ミニコンサートに誘われ向かったが、誰もいなくて担がれたのを知る。
近くの公園で見知らぬ老人に頭は難しいことを考えるためにあり、
それが人生のクリームになる、と教えられ、今も思い出す。 
チャーリーパーカープレイズボサノバ:架空のレコード評を同人誌に掲載すると、
のちにNYでそのレコードが売られていた、が次の日に行くとなかった。
その後、夢に本人が現れ感謝される。 
ウィズザビートルズ:高校で一度だけ会ったビートルズ好きの女の子がいた。
その後に付き合った女性と記憶が飛ぶその兄、三十年後その兄と渋谷で再会し
彼女が自殺したのを聞く。今まで記憶に残るのはビートルズ好きの女の子と
その彼女だけ。 
ヤクルトスワローズ詩集:神宮球場でヤクルトを応援するのが好きだ、
そしてヤクルトを応援する楽しさを綴った詩集を作った。
外野の守備の時のラインバックの尻の形が綺麗だ。負けに備えつつ、
今日も応援しよう。 
謝肉祭:醜いが頭も趣味がいい女、シューマンの”謝肉祭”で意気投合、
しかし投資詐欺犯だった。
品川猿:ひなびた温泉で人間のように喋る猿と出会う。好きな女性の名前の一部を
盗んでしまったと告白される。数年後、品川で打ち合わせ中、相手の女性が突然
自分の名前がわからないと言い出した。果たして、、、。
一人称単数:久しぶりにスーツを着て見知らぬバーに行って、
見知らぬ女に以前酷いことをされた罵倒される。誰か別の俺が、、、。
俺を名乗る一人称が複数いるのか?

ベストを選ぼうとしても、どれも味わいがあって粒揃い、
久しぶりの村上ワールド、堪能させてもらいました。
そういえば、四月に新作が出るとか。
本業といいラジオDJといい、まだまだエネルギッシュなのが素晴らしいです。
見習わなければ。

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