11年ぶりに復活した"マツダの魂"「新世代ロータリーエンジン」の全貌！
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ロータリーエンジンってのはドイツか何処だかで、理論だけはとっくの昔に完成してたんだよね。小型、軽量、低振動、低騒音、高回転、高出力って、内燃機関として理想的なエンジンにも関わらず、世界中の誰も作る事ができなかった幻のエンジン。
マヅダが社運を賭けて開発に乗り出し、開発に成功するんだけど、まだまだ実用化には程遠い。そのテストを兼ねてル・マン24時間耐久レースに出場した。この過酷なレースに勝てば市販車のエンジンとしても合格と言えるだろう。
ル・マンには何度か出場するが、何も途中リタイヤ等で思わしい成績が残せない。そんなこんなしてるうちレースのレギュレーションが変更され、ロータリーエンジンはこの年が最後。翌年以降は参加できなくなってしまう。
マヅダは最後のレースに挑戦した。
好調のマヅダは首位をキープ。優勝候補と目されたジャガーも早々に脱落した。しかしもう１台、喰らい付くクルマがいた。ベンツである。レースはマヅダとベンツの２台で独走状態となる。
このまま仲良くワンツーフィニッシュとなれば良いのだが、そうは問屋が卸さない。２位のベンツがスピードアップしたのである。
ル・マンは名前の通り耐久レースだ。マシンのスピードも重要だが、何よりも、その高速度域での長時間(24時間)走行の耐久性能を競う。どのクルマも限界ギリギリで走っている。スピードを上げようと無理をすれば、故障してリタイヤとなる危険とは常に隣り合わせだ。
各チームは自分のところのクルマのラップタイムは勿論、ライバルチームのクルマも見張っている。ベンツの巡航速度が僅かにアップした事を、マヅダのスタッフは見逃さなかった。ベンツの速度を計算すると、レース終盤にベンツがマヅダを追い抜く。つまりベンツは２位に甘んじる気等さらさら無く、あくまでも優勝を狙って来たのだ。
ベンツの動きを見たマヅダもスピードアップ。ベンツの宣戦布告に対して真っ向から受けて立つ。
それに対してベンツは更にスピードを上げる。
それを見たマヅダも更に増速。
両者の激しいチキンレースは一体何処まで続くのか？
やがてマヅダのエンジンは設計上の限界を迎える。これ以上の増速(回転数アップ)は想定されていないのだ。機械は普通多少の余裕を持って設計されるので、設計上の限界値を超えたからと言って即壊れる、なんて事は少ない。だがレースの為、贅肉を削りに削ったエンジンだ。その余裕は限りなく少ないし、場合によっては目算誤り、既に限界に達してる可能性すらある。マヅダもベンツも、次の瞬間にはエンジンブロウする危険がある、そんなギリギリの綱渡り。
マヅダのロータリーエンジンは今年が最後のチャンス。このまま安全運転で行けば『準優勝』だ。表彰台に立てるなら、成果としては充分である。しかし優勝を狙ってムリな増速を続ければ、いつかは故障する。リタイヤすれば結果は『ゼロ』だ。『ロータリーは完走できなかった』って事実しか残らない。
ベンツが先にへたばればいいが、こちらが先かもしれない。よしんばベンツには勝ったとしても、共倒れになる危険だってある。チーム内でも堅実な安全策を推す空気もあった。そこで監督はエンジン担当の設計チーフに訊ねるのだが、その時チーフは
『俺達が作ったエンジンは絶対に壊れない』
と胸を張って高らかに言い放った。
この技術屋魂には心が震える。
監督のゴーサインにより、設計限界値を超越するマヅダ。そしてそれを追うベンツ。
スピードメーターの針が進む程、自らの身体を削り取る様な過酷なレース。日独の２台は狂った様に加速し続ける。
何処までも続くかと思われたチキンレースだが、ベンツが突然白い糸を引いた。それはみるみる濃く太くなり、モクモクと真っ白い煙となる。スピードを落としたベンツは、やがて力無くコースの端に停まり、そして二度と動く事はなかった。
ロータリーエンジンは、エンジニアなら誰もが思い描く理想にして究極の内燃機関だが、開発、実用化に成功したのは全人類の歴史上マヅダだけだ。そしてベンツやジャガー等、名だたる名車達と死闘を繰り広げ、世界一を勝ち取った。
この話は何度思い出しても胸が熱くなる。
ロータリーエンジンはマヅダの魂であり、日本の技術力の証明でもある。形は変われど、その命脈はいつまでも生き続けて欲しいものだ。
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