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2022年11月16日14:51

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本 ”デンデケ・アンコール” 芦原すなお  

”デンデケ・アンコール” 芦原すなお

1991年に直木賞&文藝賞を獲った”青春デンデケデケデケ”、
1968年ごろの田舎(香川県)の高校生のベンチャーズやビートルズとの出会い、
ロックとギターへの憧れ、バンド仲間との友情を描いた青春小説の名作でした。
本作はその後約五十年の作者のロックに取り憑かれた半生を描いた、
まさに音楽的、ロック的自伝。去年の十月に刊行されたものを図書館にて。

主人公であるチッくん(竹良)は前作の最後で高校を卒業し、
東京の”都の西北”にある大学に入り、一人暮らしを始める。
ギターの腕を活かしてバンドを始めたいが、軽音サークルを見学して回るも、
高校時代の仲間を超えるようなメンバーには出会えず。ならば一人で曲を作り、
ロックスターになれる術がないかと夢想する毎日。
しかし才能の無さを自覚した時に、トーマス・マンの”魔の山”に衝撃を覚え、
文学の世界を追求することに。大学院に進み、なんとか文学部の講師となり、
十年以上がすぎ、その間に結婚と離婚、再婚を経験。
そして40歳目前で自らのロックとの出会いを書いた小説が直木賞をとり、
専業作家の道へ。そんなある日、店頭に展示してあったギターを衝動的に
買ったことにより、忘れていたギターそしてロックへの情熱が、、、、。

高校の時に出会ったロックそして、ギターへの思いが溢れる物語でした。
そこには、才能の限界への悩み、仲間が見つからなくても一人でも自分を
高めようとする強い意志、好きなことを好きであり続けることの素晴らしさ
なども詰め込まれていて、そんな作者自身の葛藤や生き方にすごく共感しました。

作者だけでなく、ギターを再開した後に出会ったバンドメンバー三人の、
これまた作者に負けず劣らずのロックに取り憑かれた、同じく孤高の半生も
描かれていて、いわゆるロック第一世代のそれぞれの人生模様も興味深く、
面白かったです。

作者の音楽的趣味全開な文章で、聞いたこともない60年代のロックやポップスの
タイトルがたくさん出てくるし、その曲やアーチストの蘊蓄、ギター演奏法や
その音色の解説、さらには若い頃に作ったオリジナル曲の歌詞(英詞)などが、
盛りだくさん。なので同世代とか同じジャンル好き、ギタープレイヤーには
たまらない内容だと思います。(そうでない人には少しまどろっこしいかも)

けれどもそういう知識や興味がなくても、当時のモテない、自信や野望はあるけれど、
それを表には出せない悩み多き小心者の大学生の青春、
そして中年になって、再び熱中できるバンドという趣味そして無二の音楽的同士を
見つけた親父バンド青春物語として純粋に楽しめます。

何と言っても、作者のファンとしては嬉しいのは、登場人物たちの会話の面白さです。
真面目な話をしていてもついついチャチャを入れてしまう、そんな友人同士の
気の置けない会話がとても心地よい。まさに芦原小説の真骨頂、長編小説としては
九年ぶりに楽しませてもらいました。

ちなみに、芦原氏は早稲田で村上春樹と文学部の同級生で、
当時から面識はあるようですが、この作品の最初の妻との別れの場面では、
なんとなく会話の感じが、村上的な噛み合っているようで噛み合っていない
可笑しみがありました。
当時の学園紛争華やかし頃、集団心理に乗った声高な人たちの欺瞞を
冷ややかに見ていた、他人に流されずに自分の価値観で生きてきた人に共通する
ユーモアなのかも。

ベンチャーズやビートルズに衝撃を受けた日本のロック第一世代は、
娯楽が少なかった頃だし、ロックがまだ細分化される前で、
インストもポップなのもブルースもカントリーもアートなのもハードなのも、
少しジャンルが違っても貪欲に幅広く吸収した世代なんでしょう。
なのでバックグラウンドが共通していて、その連帯感の強さを、
この本を読んでいてひしひしと感じます。

我々、ロック第二世代?はそれまでのロックに加えて、パンク、NEWWAVE、
ヘビメタ、産業ロックと細分化されていき、
前の世代のように満遍なくロックを吸収していません。
だからこそ、この物語に出てくる登場人物たちが好きな音楽を熱く語る姿、
ちょっとしたセッションですぐに意気投合できる楽しさ、
完全に理解し合えるバンド仲間に出会う奇跡、
それらが作者の思い入れたっぷりに熱くイキイキと描かれていて、
本当にうらやましい。

素晴らしいロックな半生、音楽的にも人生の見本としても、
楽しまさせてもらいました。
作者の文章から溢れ出るユーモアと音楽への愛、
人生、歳をとっても楽しめるというメッセージ、
あらためていい作家だなと思いました。

若い頃に、それぞれの”デンデケ”に衝撃を受けた、
全てのロック好きな人にオススメしたい物語です。
自分自身の”アンコール”を見つけるためにも。
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