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2022年10月20日19:39

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竜とそばかすの姫

今更ながら細田守監督作品「竜とそばかすの姫」を見たので、ネタバレ込みで感想をしたためようと思います。
結論から言うと自分はこの作品が嫌いで、
人生ワースト作品「バケモノの子」とどちらが上(下?)かな、と悩んでいるところです。


〜以下公式あらすじ〜
自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・内藤鈴(すず)は、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。
母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。
曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。<U>では、「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。
数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。
(この後もう少し続くけど省略)



もう公開から一年以上経っていて、評判の悪さも散々見聞きしていたのですが、自分の想像を遥かに超えるレベルのキツさでした。



自分が今さらあーだこーだ言うより、エガちゃんのYouTubeチャンネルをご覧頂く方が100倍分かりやすいと思うので、未見の方は是非そちらをご覧下さい。

https://m.youtube.com/watch?v=ssf_2fx5zoE&t=804s

主に問題点として挙げられるポイントは以下の通りです。

・虐待をテーマにしていながらまともな虐待描写が皆無
・インターネット上で身バレを強要するイケメン幼馴染のクズっぷり
・高知から東京まで単身虐待を止めに行こうという女子高生を止めもしなければ同行しようともしない役立たずな大人たち
・女子高生に見つめ返されただけで弱々しく狼狽える虐待親父の記号的なリアクション
・「僕も戦うよ」という誤った結論への着地


細かい欠点は他にも色々ありますが、この辺(クライマックス)は否定的意見が上がる際に大体共通しているとこだと思います。
レビューを漁ってみた感じだと、褒めている人であっても終盤の展開の不自然さは認めているように感じました。

逆に誰もが圧倒されるのが歌の演出で、何度か挟まれる歌唱シーンでいかに感動し、貯金出来たかによって最後に残る残金=感動が人によって変わるのだと思います。
自分も劇中歌は大好きです。
というか、中村佳穂の声が歌に限らずとても良かったと思ってます。

しかし、それでも自分の中の感動貯金は乱高下を繰り返し、遂には破綻、最終負債額は5億…といった感じでフィニッシュでした。

ラストの展開が常軌を逸しているのは言わずもがな、自分がまずこの映画で躓いたのはタイトルにもなっている「竜」が現れたところです。

登場時点で正体不明である竜は、仮想空間Uの中で忌み嫌われた存在であることが示唆されます。
その理由というのが

・ある時Uの武術館に突如現れ、連勝記録を塗り替え続けてる
・しかしファイトスタイルが最悪で試合を台無しにする
・データが壊れて使用不可になるまで攻撃してくる

ということだそうです。
ここで言う武術館というのが何なのかは一切描かれていないのですが、恐らくAs(アバター)同士で格闘を繰り広げる場なのでしょう。


はて。
単なる1アカウントであるはずの竜が「データが壊れて使用不可になるまで攻撃」とは何なのでしょう。
世界中で50億ものアカウントを誇る仮想空間の仕様として、一般ユーザーが他者のデータを破壊出来るようにするのでしょうか。
そんなことが普通に出来る仕様なら、そんな仕様を放置している運営に責任があるはずですし、竜に限らず似たような案件はいくらでも出て来るはずです。

それからファイトスタイルが最悪って何?
やたら煽るとか、負けそうになると回線切断するとか、逃げ回るとか、強行動を押し付けてくるとか、そういうこと?
そうだとして…もしくはそれを遥かに上回る嫌がらせ行為があったとして、繰り返しになりますが仕様としてそれが出来る環境にあるならば、50億のアカウントの中で何故竜だけがヘイトを集めるのでしょうか?

端的に言って、そんなことあるわけねーだろ。

嫌われ者が嫌われる所以(特にオンライン上での嫌われる所以)としてはあまりに弱い。
これでは嫌われ者を描こうという気が全く無いようにしか思えません。
そもそも劇中「醜い」と連呼される竜ですが、アバターとしてこの外見が選べるなら(設定上、本人の生体データからAIが自動生成するらしいけど提示されたものを拒否することも出来るようなので、多分ある程度は自由が利くものと解釈しました)、この外見を選ぶ人全然いるでしょ。
ちょっと悪っぽいだけでむしろヒロイックですらあるよ。
醜いってのはこれくらいやってから言うべきですよ。

https://jp.ign.com/street-fighter-6/63058/news/6


外見のことで言うと「竜の背中には無数のアザがある」と言及されるのですが「竜が身に付けてるマントの背中の部分に染みみたいなのが無数にある」が正しいところで、何であれがアザだということで共有されているのでしょう?
脚本の都合にしか見えないのですが。


この辺の嫌われ者描写が皆無な竜の現状を、百歩譲って「些細な過ちであってもネット上で一旦悪認定されるともう取り返しがつかない」ということを描きたかったのだと忖度するにしても、何一つ悪行を目の当たりに出来ないのでは全然説得力が無いです。


あと、あらすじ読むと「乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に」って書いてあるんだけど、これそんな展開でしたかね。
乱暴者が突如乱入して暴れて台無し…ではなく、自警団から追われた挙句にコンサート会場に逃げ込んで、そこでバトルが起きた結果コンサートが中断されただけですよね。

そしてこの自警団「ジャスティス」も(こんな名前付ける時点で既に悪者として描く気満々なんですが)、大人数で一人を包囲して、その上で負けると「なんと酷いことを…」とか「自分さえ良ければいいのか!?」とかよく分からない主張をして、それに対してコンサートの観客達が一斉に「そうだそうだ!」と呼応するのですが…えーっと、ネット上の連中は皆これくらいバカだ、と言いたいのでしょうか。

何でしょうね、まだ序盤のうちからして何がしたいのかよく分からなくなりました。

とにかく竜絡みの展開は「美女と野獣」と「虐待問題」に無理やりブリッジさせるためだけの強引なものに見えてしまったので、全体を通して「〜ごっこ感」が強調されてしまっていたように感じました。
インターネット空間を使った舞台立ても、別にこれまでの集大成としての必然性があったわけじゃなく、色々有耶無耶に出来る(監督にとって)都合の良い空間ってだけで大した必然性はなかったんじゃないでしょうか。

だって、問題意識が全くアップデートされてないのですから。
そんなんだからクライマックスでの解決策が「信用を得るためには(たとえ50億人の前で身バレして日常が崩壊しようが)顔を晒して歌うしかない」なんて結論に至るのでしょうよ。
いやいや、歌の力を信じるのは構わないけど、そんなことより50億の中の好意的なアカウントの中に状況を打破できる現実の人物がいくらかはいるんじゃないか、とか考えなかったのでしょうか。
もしくは直接助けを求めるとか。
そっちの方がネットの希望の側面を描けた上に展開にも無理がなかったんじゃないでしょうか。

でもそうはしない。
この物語のネット民は一斉に涙を流すことはあっても、それ以上の役割を担わせてはもらえません。
50億の中からたった1人を見つけるという超困難な状況は、主人公周りの10名程度が知恵を絞るだけで打開出来てしまい、その上冒頭に挙げたとおり女子高生1人を単身危険な現場に放り込むという、どうかしているとしか思えない馬鹿げた状況をさも感動げに描いてしまっています。
いい加減にしろよ、と。

千歩譲って、虐待親父が女子高生の眼差しだけでヘナヘナと脱力して逃げ去るようなことがあったとして、その結果虐待を受けていた兄弟が戦うことを決心したとして、彼らは同じように(精神的に)父親を屈服させることが出来るのでしょうか。


ちょっと話は逸れますが、昔読んでいた「スポーン」というアメコミの中にこんな話がありました。

魔界の尖兵たるスポーンことアル・シモンズは、戦いの中で深手を負い、生き倒れてしまう。
そんなアルを救ったのは偶然出会った年端も行かない兄弟。
彼らにかくまってもらうことになったが、その家に住む父親は酒と薬に溺れ、彼らに暴力を振るっていた。
アルは助けてもらった恩を返すために、彼らの父親を魔界の力を使って恐怖のどん底に叩き落とす。
もしまた幼い兄弟に虐待を加えるようなら今度こそ葬り去る…父親に忠告を残し、アルは兄弟の前から姿を消す。
平穏を取り戻したかに見えた兄弟だったが、アルが去った後、父親は逆上して一層暴力が激化。
命の危機を感じた兄弟は最終的に自らの手で父親を殺害してしまう。


…エンドロール中、こんな展開が頭に浮かびましたよ。
いや、全然あるでしょ、みっともない姿を見られた挙句の逆上なんて。
行きずりの善行ではなく、行政による真っ当な対応に帰結させるのではダメだったのでしょうか。
少なくとも自分には、グロ描写満載で胸糞悪い顛末のスポーンの方が扱う事象に対して遥かに誠実な語り口だと思いましたよ。



で、ここまでボロクソ言ったじゃないですか。
「匿名で陰口叩くより顔晒して動けや」みたいなことを打ち出してる映画に対してネットの、誰も見ない路地裏みたいなmixiで今更悪態ついてるじゃないですか。
こういうリアクションに対して劇中「嘘のない賛否両論が本物を鍛え上げる」みたいなことを言うわけですよ。
それもまた良し、的な雰囲気を一応醸してたんですよ。


でもこれ、本心なのでしょうか。
というのは、もう色々モヤモヤし過ぎて映画見た翌日に原作小説読んでみたのですよ。
すると多分映画では言及されてない地の文でこんなことが書いてありました。



『Uは嘘のニュース、悪意や偏見、わざと過激に見せる意見などにユーザーが左右されず公平に意見を見られるように、既存のsnsサービスにはない独自の強力な検証システムが実装されている』



…だそうです。
それが証拠にベルは登場してすぐの間は結構叩かれていたのが、次第に批判的な声が消えていったとか。

つまりベルへの批判は「嘘、悪意、わざと過激に見せる意見」としてUに処理されたわけです。
『既存のsnsは公平に意見が見られていない』…間違ってたらごめんなさい…自分にはこれが、現実のネットでボロクソ言われてる監督の本音としか読み取れませんでした。




さて、そろそろまとめたいと思います。

これだけの文量を書き散らすほどに突き動かすものがあったとしても、そのために小説版を読んでみたとしても、「賛否両論がハッキリ割れて激論が飛び交う映画は良い映画」と言われたとしても、開始15分くらいで主人公がトラウマに苦しみ嘔吐するシーンで心を鷲掴みにされたとしても、クライマックスの歌唱シーンに心を震わされたとしても…どうあっても私はこの映画のことを好きになれませんでした。
「時をかける少女」の頃は心底感動して興奮して、大好きだったはずなのに、スタジオ地図のロゴ…空に飛び立つ真琴のシルエットを見るたびに後ろめたさを感じるようになってしまったのは本当に残念でならないです。
自分の中の細田守観が何かの拍子にひっくり返ってくれることを願ってやみません。

一つ提案なんですが、

・監督
・脚本
・夏休み公開
・ファミリー志向
・入道雲
・クジラ

この中の一つや二つを封印したら、きっとガラっと何かが変わりそうな気がするのですけれど、どうでしょう。

というわけで、竜とそばかすの姫の感想でした。
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