7月16日、土曜日。
午後からシネ・ヌーヴォへ。
【上野�胸屐慍�昏映画館』（国書刊行会：刊）刊行記念上映会】として開催されている、＜上野先生が推す監督1人につき1作品を厳選上映。20人＝20作品という布陣＞という内容の特集上映【上野�胸屬砲茲覦柬討瞭�本映画史 「黄昏映画館」】で『UNCHAIN アンチェイン』を。それと別に『シネマスコーレを解剖する。〜コロナなんかぶっ飛ばせ〜』を鑑賞。偶然にもドキュメンタリー揃いとなった格好。
●『UNCHAIN アンチェイン』
フィルム上映。スタンダード。
【リングネーム＜アンチェイン梶＞としてプロ・デビューし、目の負傷により7戦0勝6敗1分の戦績で引退したボクサーの人生を追ったドキュメンタリー。引退後はバンド活動をしたり、「とんち商会」というなんでも屋会社を立ち上げて手配師の仕事をしていたが、やがて、浴びるように飲む酒によって彼は精神の均衡を崩していく。そして、ある日、頭から黄色いペンキを浴びた姿で、釜ヶ崎のあいりん労働センターに殴り込むなど、奇行が止まらなくなり、遂に精神病院に入院する事になった。そんな梶の姿を、彼を取り巻く友人たち（ガルーダ・テツ、西林誠一郎、永石磨ら）へのインタビューを織り交ぜながら語る】という作品。
好きな作品だ。ビデオ等で3度程鑑賞している。スクリーンでの鑑賞は今回が初めて。
監督・撮影は、『青い春』、『泣き虫しょったんの奇跡』等の豊田利晃。贔屓の監督だ。ナレーションは千原ジュニアこと千原浩史。音楽はソウル・フラワーユニオンが担当している。
アンチェイン梶やガルーダ・テツとは、彼らが飛田東映＆トビタシネマで働いていた頃に何度も対面しているはずだ。（特段、会話を交わした事は無いが）
豊田利晃は＜はみだした者＞を描く映画監督だ。そのスタンスは、監督デビュー作の『ＰＯＲＮＯＳＴＡＲ ポルノスター』から一貫している。上記作品だけでなく、『ナイン・ソウルズ』も、『空中庭園』も、『蘇りの血』も、『モンスターズクラブ』も、『I'M FLASH!』も、『クローズＥＸＰＬＯＤＥ』も、『破壊の日』も、皆、同じくだ。（『狼煙が呼ぶ』と『全員切腹』、『戦慄せしめよ』のみ未見） そして、本作も同じくである。アンチェイン梶は、紛れもない＜はみだし者＝トンパチ＞だ。（←それが悪いという訳では無い）
本作は、唐突なラストを除けば正攻法のドキュメンタリーだ。手に汗を握る試合シーンも、インタビュー場面も、どちらかが歪に浮き上がる事無く融合している。久方振りに再見したが、やはり優れた作品だ。
鑑賞後、アンチェイン梶と永石磨の舞台挨拶が有った。アンチェイン梶の頭髪に、かなり白いものが混じっていて、20年の歳月を経た事を実感。現在、就労にはドクターストップが掛かっており、バンド活動を生活の主軸にしているそう。ホームグラウンドは、西成区にある難波屋とか。ああ、あの肉豆腐が美味しいお店ね。
●『シネマスコーレを解剖する。〜コロナなんかぶっ飛ばせ〜』
【1983年に映画監督の若松孝二氏が創立した51席のミニシアター＜シネマスコーレ＞。木全純治支配人が見出したインディーズ映画やアジア映画を一つの核として、＜37年間、一日も休まずに上映してきた映画館＞である。映画ファンはもとより、映画人にもファンが多いコヤだ。近年は坪井篤史副支配人が仕掛ける独創的なイベントで全国的に名前を知られるようになった。しかし、新型コロナ禍で、開館以来、初めて休館の休館に追い込まれた上、高額な映写機が故障する等のトラブルに見舞われた。そんなシネマスコーレの様子を、木全純治支配人に密着しつつ捉えた作品】である。
ノーマークだったが、『キネマ旬報』最新号における特集記事を読んで鑑賞意欲を掻き立てられた次第。
2021年3月に中部地区で放送した『メ〜テレドキュメント 復館 〜シネマとコロナ〜』（ギャラクシー賞 奨励賞受賞）に、未公開シーンや継続取材した映像を加え、劇場用に再編集したもの、だそう。＜劇場用メ〜テレドキュメント＞としては第２弾作品となる。第1弾の『劇場版 シネマ狂想曲〜名古屋映画館革命〜』は、坪井篤史副支配人を中心とした作品で、これは2017年の公開時にシネ・ヌーヴォＸで鑑賞済。
さて、本作。
木全純治支配人（現社長でもある）は働く。休館時も舗装・補修等で忙しい。コロナは確かに大打撃をもたらしたけれども、2008年に若松孝二に対して社長を降りてもらう話をした時の方が大変だったと言う（若松監督の社長退陣直後に起こったリーマンショックの方が経営的には大打撃だったそうだ）
一地方都市のミニシアターとしての姿が存分に織り込まれているのは貴重と言える。但し、開館までの道程から、若松孝二色に溢れた初期を経て、現在のコロナ禍までを連綿と綴った構成は、やや焦点が散ってしまっていると感じた。映画館内の換気設備が行き届いたものである事を示した功績、名古屋における文化発信施設としてのステータス等、敬服する点は多いのだが、それらの一つ一つが箇条書きとして呈示されているように思え、一体感に乏しい。見るべき点は多いのだが、映画作品としての強度は高くない。
それにしても、今回のコロナ第7波を受けて、先々週辺りから、全国の映画館で動員が落ち込んでいるらしい。これからどうなるものか？ 長い闘いだ。
鑑賞後、木全純治支配人と。製作総指揮を務めた村瀬史憲による舞台挨拶が有った。
村瀬史憲は、生前の若松孝二とレバノンに行った事があり、その際に若松監督が口にした言葉が忘れられないという。
曰く、【ニュース、報道は権力が作り出した物だ。それを鵜呑みにする事無く、自分の眼で現実を確かめる事が大事だ】との事。至言である。
といったところで以上である。
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