M先生は、うちの塾のエースですが、元々は中学の時塾に通っていた生徒でもあり、私は下の名前Yと呼んでいます。
だからうちの塾で指導したのは高校受験だけなのですが、これには訳があって、高校に入るとすぐに江戸川区の方に引っ越したからなのです。
私は、頭も良く、人当たりも良い彼を、いずれ講師にと思っていたのですが、引っ越しをしてしまって難しくなったなと当初は考えていたのです。
それでも卒業後も時々連絡をしていたのですが、大学に入学すると、意外にも講師の話を快諾してくれて、バスで時間をかけて通勤してくれるようになりました。
彼は今大学院1年生となり、研究で忙しい日々を送っていて、さらには昨年、さらに遠い千葉県の方に引っ越してしまっています。
それでも、今度は長時間電車とバスを乗り継いで講師を続けてくれていて、本当に足を向けて寝れないような存在です。
彼が、こんなにまでして塾の仕事を続けてくれているのは何故でしょうか。
もちろん、うちの塾が好きだとか、慣れた仕事だということもあると思いますが、もう一つ大きな理由があるようです。
実は彼は、高校時代もアルバイト経験は豊富で、勉強や部活動に忙しい中、アルバイトもやっていました。
アルバイトと言っても、働けばそれは嫌なこともあり、特にコンビニのアルバイトでは、面倒なお客さんに絡まれるのが大変だったそうです。
要するに、うちの塾の仕事は、他のアルバイトに比べてとても楽だということを彼はよく分かっていて、遠くから通うだけの理由が十分にあることを実感しているということだと思います。
うちの塾は、生徒達のカリキュラムは全て私が決めており、講師はそれに従って教えるだけです。だから直前に来れば準備などしなくても授業ができますし、そういう態勢を作っているのです。
そういう仕事環境を作っているにも関わらず、募集をかけても応募はほとんどないわけですから、どの業界のアルバイト市場も深刻な人手不足なのは火を見るよりも明らかです。
しかも、こういううちの塾のようなところでも、辛い、厳しいと言ってやめていく子がいるんですから、これからの日本はどんどん悪い状況になるのではないでしょうか。
今は、様々な要因が重なってたまたま若い人がもてはやされ、気を遣ってもらう存在になっていますが、いつまでもこんな時代は絶対に続きません。
そう遠くない将来、日本社会は非常に厳しい事態に直面し、若い人の優勝劣敗はもっと顕著になるでしょう。
私は、自分の子供にも多くは望みませんが、社会に居場所を作り、やりたいと思ったことは大抵やれて、あまり我慢をせずに生活できるくらいにはしてあげたいと思います。
自分の子供だけでなく、生徒にしてもアルバイトの講師にしても、関わっている若い世代の人達全員がそのような状況になって欲しいと切に願って接しているつもりです。
若い人達の価値が高まる時期は決して長くありません。その時期に何を授けられるかが全てです。
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