mixiユーザー(id:429476)

2022年05月07日17:24

235 view

最後の浮世絵師 月岡芳年展

実家の超近所に芳年がやって来た!!!吃驚仰天。てなワケで、八王子市夢美術館で開催中の月岡芳年展に行って来た。どれくらい近所かと言えば、余裕で徒歩圏内っていう(笑)。

公式HP↓
https://www.yumebi.com/exb.html

フォト フォト

フォト

GW中でも空いているのは、東京都下のマイナー美術館(ごめん)の特権だと思う。だってこれ、原宿の太田記念でやったら、そこそこ混むやつよ?それが、超快適なほぼ貸切状態で観られてしまうこの贅沢さ。いや、美術館としてはもっとお客さん入った方が良いのでしょうけれど。

今回は芳年の晩年の作品にスポットを当てた展示。なので、英名〜のような血みどろ芳年はありません。だからファミリー層にも良いかと。武者絵コーナーでは、鎌倉殿〜でお馴染みの面々も観られるし楽しいと思う。あと、美人画が多い!

今回面白かったのは、作品の解説。展示作品全てに解説がついてて、これを読むだけでも楽しい。“冷静なイケメン(八幡太郎義家)”だの“劇画以上の迫力ではないか!”だの、“ここにみかんがあったらと思う人も多いだろう(あつたかさう)”だの、キュレーターさんの愛情がひしひし伝わる面白コメント。作るの大変だったと思うのだけど、こういう姿勢は推していきたい。

芳年。1839年〜1892年。幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師。因みに歌川国芳の弟子。「最後の浮世絵師」とも言われるし、「最初のイラストレーター」とも言われる。その意味は展示を観れば分かる。彼の中には、懐かしき江戸と、近代明治が入り乱れる。そして、今観ても絵が古くない(これ凄い)。22歳で画業が本格化、英名〜を描いたのは28歳の時。

まずは武者絵。
一魁随筆からは、“西塔ノ鬼若丸”と“山姥 怪童丸”を私は推す。前者は、赤い化鯉にしがみ付く鬼若丸(弁慶の幼名)。構図は国芳を踏襲してるのかな?赤がとても鮮やか。でも、この頃(明治5〜6年)芳年は神経衰弱になっていたらしい。
後者は、聖母のような山姥。山姥に「お母ちゃ〜ん」と縋りつく怪童丸も、何か幼子イエスっぽいし。陰影があるので、西洋画風にしてみたんだろうね。

芳年の武者絵は、菊池容斎の人物画像“前賢故実”から図様を借用した作例もあるのだそうな。それに詳しいともっと面白く観られるかもね。そういや、福富太郎コレクションの時、容斎の絵、結構観たな。

私の好きな『芳年武者无類』曽我兄弟の絵は、山本タカト氏の絵を彷彿とさせた。いや、逆なんだけど。山本氏が芳年リスペクトなんだろうけれど。でも「あ、タカトさんがいる」と思った。構図もポージングも古くなってないんだね、止める五郎丸の半分顔の表情も良い。
推しは“八幡太郎義家”と“日本武尊 川上梟帥”。
前者は、義家が恋仲になった女性の館へ行く。ひらりと塀を飛び越えるも、いつもの着地点には碁盤があった。咄嗟に義家はその障害物である碁盤の角を切り落とす。まさに、この切り落とした瞬間を描く。この浮遊感!ひらりと優雅に飛ぶ構図。そして今の人が見ても「イケメン」と分かる顔(笑)。着物の模様や碁盤の模様にも注目して欲しい。解説には「冷静なイケメン」とあった(笑)。
後者は、日本武尊が熊襲を討伐に来たところ。熊襲の胸倉を掴み、日本武尊は今まさに剣を熊襲に刺そうとしている。取っ組み合う図なので迫力もある。武尊は女装してるのだが、朱の布が妙にエロティックで官能的。そういや、古事記には、熊襲と日本武尊の場面“たわむれまさぐる”って書いてあったな…と。何故まさぐって男と気付かない、熊襲!(苦笑)

次は歴史画。大日本名将鑑には、皇国史観による日本正史確立を感じたり、他、歌舞伎や浄瑠璃、軍記物等からのモティーフも多い。江戸の終わりに講談等で怪談が流行したらしく、怪談モノも。

“新撰東錦絵 田宮坊太郎之話”このシリーズは、冷たい怒りや静かな恐怖を表現していると解説にあった。この絵。坊太郎は病で言葉が話せないふりをしたまま寺へ預けられた。乳母は断食し、彼の病気平癒を願う。その場面。井戸から釣瓶を引く乳母。病気平癒の水行してるのかな?右にそれを見上げ座る坊太郎。周りには蓮の花も咲き、極楽浄土のよう。芳年の優しい1枚。

“高島大井子の話” 大井子は平安時代の剛腕女性。越前の国の力士が都での相撲節会に招かれ行く途中、水汲みをする美女に出会う。力士が美女の肘に手を伸ばすと、彼女は逆に腕を挟んでくる。力士は「おお目がハート」と思い、ニヤニヤしたのもつかの間、そのままずるずると家まで引きずられてしまった。力士の腕を挟んだ大井子ちゃんは勝ち誇った顔。対する力士は「ええ〜!ちょっと、何?これ何?」と困惑顔でへっぴり腰。力で負けるワケないと思ってた力士の惨敗場面(笑)。

『新形三十六怪撰』が結構来ていて嬉しい。このシリーズも好き。幽霊や妖怪が沢山出て来る。解説には、この頃になると、あからさまな洋風表現や大袈裟な人物描写はなりをひそめ、景物を整理した寡黙な画面になったとあった。
“老婆鬼腕を持去る図”。渡辺綱に斬られた腕を取り返しに来た老婆に化けた茨木童子。右手に腕を持ち「イヒヒ、上手くいったわい」の顔。薄墨の影…雲かな?…の表現は不穏さがあって良い。老婆だが足は鉤爪。鬼感もあるね。

“源頼光土蜘蛛ヲ切ル図”。土蜘蛛を斬るべく刀に手をかける頼光。流し目で土蜘蛛を見上げる頼光が色っぽい。そして土蜘蛛が可愛い(笑)。この土蜘蛛怖くないよね?ゆるキャラみたいで可愛いよね?目玉クリックリだし。

“清盛福原に数百の人頭を見る図”。福原で清盛が骸骨の亡霊を見ている。怯え構える清盛。しかし、良く見れば、目は襖の取っ手だし、骸骨の輪郭は襖絵の月。騙し絵の要素も入ってる。

“布引滝悪源太義平霊討難波次郎”。怒りの形相の悪源太。竜巻の黒雲の中から地上めがけ手を翳す。後ろにあるのは炎なのか?悪源太は義朝の子の義平のコト。斬首されたので、その恨みなのだろう。これもポーズと浮遊感!この恰好良さな。

“清玄の霊 桜姫を慕ふの図”。襖に人型のしみ。これは清玄の姿。死んでも尚、桜姫恋しさのあまりストーカーをしている。桜姫は怯え、袖で顔を覆い体を伏せている。囲炉裏の白い煙も清玄の魂のようで怪しげ。桜姫は、清玄が好きだった美少年の稚児の生まれ変わりなんだけど、そんな記憶がない桜姫にとってはいい迷惑!オッサンにストーキングされただ怖いだけだ。

“平惟茂戸隠山に悪鬼を退治す図”。私のこのシリーズでの一推し。この絵大好きなんだ。テーマも好き。惟茂は戸隠山の山中で美女の一団に出会う。酒宴を行い酔って寝るが、目を覚まし、フッと盃を見ると、そこに映る美女はなんと鬼の姿。惟茂は頬杖をつき、盃の中の鬼を見ている。手は刀にかけ、斬りかかる準備。横に立つ美女は妖しく微笑み惟茂を見ている。「うまくいった」の顔なのだろう。紅葉が茶色なのはわざとなのかな?惟茂の座ってる水玉模様の敷物がお洒落だと思う。美女の髪型は兵庫曲?

次は続き物。錦絵には二枚続、三枚続の絵がある。ワイド画面ポスターみたいな感じか。
“芳流閣両雄動”。私の部屋に、この絵のポスターが貼ってある(笑)。南総里見八犬伝の名場面。捕り物の名手犬飼見八が犬塚信乃を屋根の上に追い詰める場面。縦三枚続。屋根上で刀を構え威嚇する信乃。下で十手を口に咥え信乃を睨む見八。飛ぶ鳥もアクセント。

“平清盛炎焼病之図”。中央に高熱で悶え苦しむ清盛。片手を空に突き上げ苦しそう。彼の後ろには閻魔。閻魔は恐ろしい形相だ。獄卒達も迎えに来ている。心配して祈るのは時子かな?お経らしき物を読む人も描かれる。この絵、炎の描き方がとてもデザインチックなんだ。苦しむ清盛が大仰なのに、このデザインチックなスッキリ炎のおかげでくどくならない。これって、芳年本人の発案?版元や彫師がこうしたの?

“全盛四季 冬 根津花やしき 大松楼”。大松楼の3人の遊女。中央で雪うさぎを持つ幻太夫は、芳年が客として通っていた遊女らしい。彼女の赤い着物の模様は、猫を組合わせた髑髏。思わず「国芳!師匠のじゃん!」と小声で言ってしまった(笑)。国芳リスペクトなのか、幻太夫が猫好きだったのか…。

“五世尾上菊五郎”。『一ツ家』の鬼婆の姿をした菊五郎。おそらく、その公演をやって、それに合わせて描いたんだろう。包丁を持ち目をカッぴらく。菊五郎の顔なのに、しぼんだ乳房があるのが妙に面白かった。
因みに、このコーナーには、本家本元の安達ヶ原の鬼婆の絵もあるよ。妊婦の逆さ吊りのやつね。

次は芳年の妖と艶。美人画特集ですね。因みに私は、芳年の美人画ってあまり魅かれないんだ。この人、仙女や妖怪等の人外の美女を描くととても色っぽくてエロくて良いのに、普通の人間の美女を描くと何故かありきたりでつまらなくなると思うの。でも、今回、こうやってまとめて美人画を観たら、風俗三十二相は、アイディアに富んでて、なかなか面白いと思えた。

まずは『東京自慢十二ヶ月』シリーズ。実際の芸者さんや遊女がモチーフで、今ならアイドルポスターですかね。
“七月 廓の燈籠 仲之街小とみ”。軒先の燈籠に目をとめ振り返る小とみちゃん。その燈籠の絵がお化けつづらの絵なのだが、何がそんなに気になったの小とみちゃん!お化けに老婆が吃驚してひっくり返ってる絵なのに!(笑)

“十月 滝ノ川の紅葉 日本橋八重”。真っ赤な紅葉の背景。里芋を食べようとしてる八重さん。これ、皮つきの里芋なのね。このまま食べないよね?皮を剝くよね?滝ノ川は、王子にあるそうで、紅葉の名所だったらしい。瓢箪もあるのだが、お酒が入ってるのかな?

『風俗三十二相』これ、結構楽しかったよ。
“にくらしさう 安政年間名古屋嬢の風俗”。「もう!や〜ねえ!」と相手を軽く叩こうと手を上げる娘。叩く相手は、ちょっと良いなと思ってる男性なのか、女友達に何かからかわれたのか?でも、彼女の口元は微笑んでいてまんざらでもない様子。ちょっと気になってる男子にデートに誘われたのかも。髪型は京阪風というらしい。横に鬢が張り出してるのかな?因みにどの辺りが名古屋かはよく分からないらしい。名古屋巻なら分かりやすかったのに!(笑)

“あつたかさう 嘉永年間町家後家の風俗”。こたつに入って本を読む眉剃りの未亡人。こたつの上には猫も暖かそうに丸まっている。この解説に「ここにみかんがあったらと思う人も多いだろう」と書いてあり、確かに!と思った(笑)。

“いたさう 寛政年間女郎の風俗”。腕に恋人の名を彫る遊女。手ぬぐいを噛み、痛さをこらえている。徒っぽくて、表情もちょいエロで良いですね。腕には「さま」と彫ってある。権八さまとか、平助さまとか、そんな感じだね。「他の男に体は開いても、心はアナタだけのものですよ!」と。女郎の意気地ってやつだろう。

次は報道。錦絵新聞。情痴事件や珍談奇談、今でいうとワイドショーみたいなモノ。スポーツ新聞の三面記事とかね。
郵便報知新聞の記事の“親子孫、三組の同時祝言”の絵が面白かった。後妻の不倫の清算の為、お金と引き換えにその後、妻と連れ子と実の父をまとめて相手に引き取らせての祝言。左端で天を仰ぎ「あーあ」と言ってる男が引き取った人かな?老婆の白無垢がちょっと面白い。

最後は『月百姿』。晩年の8年に渡って描いた100枚。派手な色使いはコントロールされたと解説にあった。月がテーマだから静かな印象のモノが多いかな。
“つき百姿 盆の月”。お月様のもとで盆踊り。列は曲線を描き、踊る人達は皆笑顔で楽しそう。小袖や髷は元禄風だそうな。腰のくねらせ方も良い。

“つきの百姿 たのしみは 夕顔たなの ゆふ涼 男はてゝら 女はふたのして”。久隅守景の国宝の屏風絵でもお馴染み、夫婦のまったり夕涼みの図。
夕顔棚の下、夕顔の実もなっている。褌姿の男と、腰巻姿の女。2人揃って夕涼み。幸せな光景。後ろ姿で背を見せる女性が若干ぽっちゃり系なのも良いんだ。普段は家事に育児と大忙しのおかみさんなのだろう。夕方、たまには旦那とまったり夕涼み。

“つきの発明 宝蔵院”。胤栄は、宝蔵院流槍術の始祖。この流派は、十文字槍が特徴らしいのだが。川を覗く胤栄。槍の影が水面に浮かぶ三日月と重なり十文字槍を作り、そこで槍を十文字にするコトを思いつく。この絵では、水面ではなく、天空の三日月と胤栄が持っている槍が重なり十文字になっている。彼は水面を見てるけどね。

“賊巣の月 小碓皇子”。先ほどもあった日本武尊の熊襲退治の場面。こちらは、女装姿の小碓皇子(日本武尊)が、酒宴の様子を覗き見ている。松明のオレンジの炎と小碓が着ている水色の着物とのコントラストも綺麗。松明の色は袴の色とも呼応してるのかな?

“月明林下美人来”。うっそりと微笑む人間離れした美女。彼女は梅の精。口元に袖口をやりとても妖しく美しい。

“嫦娥弄月”。私の推し絵。夫が西王母から授かった不老不死の薬を盗み出した嫦娥が、月へ逃げ去る場面。嫦娥は「してやったり」の顔。右手に薬壺を持ち雲に乗っている。後ろには大きな桃色の月がある。

“朱雀門の月 博雅三位”。笛の名手源博雅。朱雀門で男と出会い、そこで笛の即興セッションが始まった。最後、彼らは意気投合し笛を交換するが、博雅が出会ったその男は実は鬼。正面を向いているのが博雅だと思う。鬼は後ろ姿で顔は見えないが、きっと美男なのだろう。このエピソード自体が私は大好き。

摺違いのモノを並べての展示もあった。卒塔婆小町や四条納涼等。四条納涼は、後摺り(かな?)の方が、彩度が暗めだったり。摺りながら「こっちの方がいい」となったんでしょうかね?
“朧月夜 熊坂”は、背景の色が全く違う。薄い灰色のモノと濃い藍色。ここまで違うと別の絵に見えてしまう不思議。濃い藍色の方が画面は締まるが、重く感じるのね。

“舵楼の月 平清経”。清経が寂しげに船尾の櫓の上で笛を吹く。「もう追い詰められた、覚悟は決まった。」そんな感じだ。敗走した平家。この後清経は柳ヶ浦で海へ飛び込む。アニメ『平家物語』を観ていたから、この場面の悲しさが倍増。アニメのびわ同様「清経ーーー!!!」と心の中で叫んだ。顔が本当に寂しげなんだ…。

“五条橋の月”。牛若丸がひらりと宙に舞い、下にいるであろう弁慶に扇を投げつける。後ろには月。芳年は、本当に浮遊感を出すのが上手い。人が飛んだその一瞬の浮遊感を彼以上に上手く絵にする浮世絵師を私は知らない。この展示、最後は美少年で締められた。これまた、芳年らしい。

月百姿は好きだが、金太郎の絵とか「これ、月いるか?」みたいなのもあって、それも又面白かった。色々アイディア考えたんだろうな。

図録(書籍?)もあったが、流石に芳年関連の図録や画集を10冊程所持している身としては、買うのに躊躇してしまった(^_^;)。でも、ここでお金を落とさないと、もう、芳年来てくれないかも…と思い、グッズを購入。

フォト
メモ帳。絵葉書。そして面白かったのが、大判のステッカー。使用例としては、クリアファイルに貼ると、オリジナルファイルが出来上がるという。ノートの表紙にもサイズ的にも丁度良さそう。

美人画好きなら、芳年美人画の団扇もありました。2200円なので、ちょいお高目ですが。あと、色紙もあった。
グッズが結構充実してて感動した。いや、芳年のグッズってあまり作ってもらえないからサ…。北斎や歌麿、広重は沢山あるのにね!

こんな感じでした。血みどろのない芳年展、それでも十分楽しめました。「芳年観てみたいけど、血がちょっと…」という人にも、今回の展示はお勧めです。
3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する