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2021年06月21日19:54

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閃光のハサウェイ

機動戦士ガンダム・閃光のハサウェイが度重なる公開延期を乗り越え、遂に上映がスタートしました。
劇場版はまだ未見なのですが、これを機に原作を改めて読み直してみましたので、その感想とかを綴ってみようかと思います。

物語はいわゆるファーストガンダムから26年後の宇宙世紀105年、前作である「逆襲のシャア」で地球の存亡を賭けた戦いに巻き込まれたハサウェイ・ノアのその後を描く物語。

そもそも原作が刊行されたのが1989年、恐らく私が初めて手にした文庫本だったんじゃないかと思います。
アニメ作品の続編となる小説となると今で言えばラノベの範疇に入りそうなものですが、小学生だった当時の自分には到底ライトなものとは思えず、上・中・下巻のうち上巻を読み終えた時点でギブアップしてしまったのを覚えています。
とにかく難しかったのです。
最初に挑戦するには相手がデカすぎました。

そして齢40を迎えようという今になって再挑戦したのですが、結論は変わりませんでした。
やっぱ難しい。
というか、読みにくい。
読みにくい割に頑張って読んでも全然絵が浮かんでこない。
さらに言うと誤字脱字も多いし(自分が読んだのは初版)、明らかに文章の演出が間違ってる箇所もあります。
具体的に挙げますね。
この物語の主人公はタイトルにもなっているハサウェイ・ノアという青年で、そんなことは読者の99.9%が承知で読んでいるのですが、序盤からしばらくは「青年」としか記されていません。
そして序盤のシークエンス、ハイジャック犯に襲われた機内で、物語的には初めてそこで素性が明らかになるのですが、それより前の時点、まだ事件が動き出す前の何でもない地の文で唐突に「ハサウェイのシート」という文言がブチ込まれてしまっています。
これはどう考えてもおかしなタイミングです。
百歩譲ってそのタイミングだったとしても、
「その青年…ハサウェイ・ノアのシート…」という表記になるはずです。

あと頻繁に「……!?」という心情のビックリ表現が出てくるのですが、ビックリマークの前後、どっちにビックリしてるのかが分かりにくいし、別に無くても良くない?と、劇中キャラがビックリするたびに思ってしまいました。

まぁ、そんなことはどうでも良くて、問題はここからです。
現在、際限なく広がり続けるガンダムの世界線において、原作者であり監督でもある富野由悠季の作品でありながら、この作品はこれまでアニメ化されることがありませんでした。
ゲームとかフィギュアにはなってましたけど。

この物語が30年間一度もアニメ化の機会がなかった理由、それは恐らくカタルシスの無い展開とその先にある衝撃的な結末をエンターテイメントとして昇華出来る見込みがなかったからなんじゃないかと、改めて読んでも思わざるを得ませんでした。

というわけで、この先は結末を含めたネタバレをします。知りたくない方は以降を読むのはお控え下さい。
ただ、自分はその結末を知った上で読み進めましたし(シリーズファンの中では超有名エピソードですし)多分知らないで読むより知って読んだ方がより楽しめるのではないかと、実感としてあります。
もちろん、知らない状態には二度と戻れないので知らないままその衝撃を味わったらどうなっていただろうか、という興味はあるのですが。

以降、ネタバレ






















はい、じゃあ進めますね。

ハサウェイは「逆襲のシャア」の時に恋した相手を戦場で失い(小説版では自らの手で撃墜、当時まだ13歳)、その後心のケアを受けながらも腐敗しきった地球連邦政府に鉄槌を下すべく、テロ組織を率いる立場になります(ちなみに父・ブライトは地球連邦軍の軍属)。
25歳の「青年」は、登場した時点で既に政府高官を次々と粛清していた「マフティー・ナビーユ・エリン」その人である…というのが物語の大前提です。

地球連邦軍のベテラン艦長を父に持ち、連邦のエースパイロット・アムロと親交を持ちながら、地球に巨大隕石を落とすことで強制的に人類を宇宙へ引き上げようとしたシャアの思想を受け継いだ青年、それがハサウェイ。

そんな生い立ちからして危うさを内包している彼が主人公なわけですから、最新モビルスーツ・Ξ(クスィー)ガンダムを駆使して憎き特権階級をバッタバッタと成敗していく痛快な物語になるわけがありません。

ザックリ物語の流れを示すなら、

・ガンダムを地上で受け取る
・ガンダムに乗って議会を襲撃する
・ガンダムを撃墜され身柄を拘束される
・銃殺刑になる

以上です。
この物語を語る上で必ず話題に上がるのが結末の「主人公が死刑に処されて終わる」という点で、今回の劇場版も果たしてこのまま突っ切るのか、それともアナザーエンドを用意するのかについて注目を集めています。

非常に衝撃的な結末なのですが、改めて読んで思ったことは、いくら結末が衝撃的とはいえそこに至る過程が非常に淡々としているな、ということです。
例えばΞガンダムと対になるようなモビルスーツ・ペーネロペーとの決戦も、ビームバリアというよく分からない兵器に誘い込まれたΞガンダムがビリビリやられて落とされるという、何とも盛り上がりに欠ける終わらせ方になっています。

3巻通して言えるのは、ハサウェイがヒロイックに活躍するのは冒頭のハイジャック犯を撃退するところくらいで、全体的にパッとしないというのが正直なところ。
そう考えると、現在公開中の劇場版第一話が全体で言うと一番アガっているところで、劇中のセリフで言うところの「これからが地獄だぞ」というやつです。

ハサウェイはどこかで死を受け入れているように見えます。
自ら手にかけたクェスが、ハサウェイを死の世界に呼び込もうとする悪夢を見てしまうあたり、むしろ死を望んですらいたのかも知れません。
テロという手法の正しくなさを自認していたが故に、いつかは報いが訪れることを覚悟していた節もあります。

では、彼はどうすれば良かったのでしょう。

マフティーとしてアデレードの議会を標的にしたのは、そこで議決される法案が「連邦の意思如何によって地球で生きる権利を剥奪されてしまう」というもので、無理矢理にでも止めねば取り返しがつかなくなるものでした。
そこに至るまでに、地球は既に利権を握る一部の人間の所有物となろうとしており、そこにハサウェイ達の意思は介在しようがありません。
今を生きる若者達が、生まれるずっと前から決められていたルール…それも恐らく決定的に間違ったもの…を変えるにはどうすれば良かったのでしょうか。

こうするしか他に道はない。
明日をなくした自分にしか、この道は選べない。

ハサウェイを追い詰めた自責の念と、時代の大き過ぎる闇とが、非情な結末へ導く死神となって物語を緩やかに押し進めていきます。
自分がこの物語をネタバレした上で読んだ方が面白いだろうと感じた理由がここにあります。
物語を読み終えることはすなわちハサウェイの命が尽きることを意味しているので、ページをめくる度に彼が死の淵へ近付いていることを意識せざるを得ません。
残りのページの厚みが命の厚み…その認識が緊張感と共感を高めていくのです。

ギギ・アンダルシアという抗いようのない魅力を持った女性と出会い、別れ、そして再会したにも関わらず、最後に交わす会話は観念的な頭でっかちなもので、求め合うことも自ら遠ざけ、死地へ向かってしまう姿があまりに哀しい。

「死ぬぐらいはみんなやってきたことだ。僕にだってちゃんとできるはずだ」


死を前に、ハサウェイは自らの運命を嘆くこともなく『ちゃんと死ぬ』ことを考えます。
最後に遺した言葉も、マフティーとしての意思表明は終えたということ、これまで関わってきた人々への感謝、いつかは健やかな精神が地球を救うという希望…一個人の遺言としては綺麗に整い過ぎているように思えます。

しかし、心の内では叫び出したい衝動に駆られているのを必死に押し殺している、ということが心の声として描かれていて本当に容赦ない。
恐らく自分でも無意識のうちに父親のことを最後の瞬間まで求めていたということも仄めかされており、その後の連邦軍のあまりに人道に反した事後処理と相まって、非常に嫌なものを胸中に残して幕は降ります。

繰り返しますが、カタルシスはありません。
よくぞ映像化にゴーサインを出したものだと心底思います。
しかし、間違った手法であっても理不尽なものを理不尽であると叫ぼうとする意志の力は、もしかしたら30年前よりも今の方がより身近に感じられるのではないでしょうか。
単に自分が歳を取ったからでしょうか。
少なくとも、今現在の色んなことに照らし合わせて考えると、この「閃光のハサウェイ」が打ち出していた問題意識というのが普遍的なものであり、残念ながら今でも全然当てはまってしまっていることに疑いの余地はなさそうです。

以前、テレビシリーズの最終回で精神崩壊した「機動戦士Zガンダム」の主人公・カミーユを、映画で再編集した際には結末を変えて救ったことがありましたが、恐らく閃光のハサウェイで同じことはしない気がします。
監督=原作者ではないので、そこまで踏み込んだことは流石にないであろうと、個人的には思いたいです。
何故かと言うと、時にフィクションであっても登場人物の意思を尊重することは、原作者のそれを尊重することと同義なんじゃないかと感じたからです。


というわけで「閃光のハサウェイ」、おすすめはしないけど面白かったです。
あとなんか無性にガンプラ作りたくなりました。
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