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2021年01月07日23:52

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2020年映画ベストテン【外国映画編】

 すっかり遅くなりましたが、勝手に毎年恒例でやっている映画ベストテンの発表です。
2020年に映画館で見た本数は外国/日本/旧作、全部合わせて192本 。例年250本ぐらいは見ているので、今年はかなり減ったことになる。200本以下の数字になったのは、なんと今のように映画狂になる前の1991年以来だから…29年ぶり! これは私にとってかなり異常なことなのでした。
 これにはTOHOが一カ月フリーパスサービスをやめたことも理由の一つかと思うが、やはり新型コロナ禍の影響が大きいかな。4月の緊急事態宣言で、すべての映画館がひと月近くも休業するなんて誰が予想できただろうか。私も50年以上生きてきたが、こんなのは前代未聞である。さらにハリウッドを始めとするメジャー系の外国映画がほとんど公開されなかったことも大きい。これに関しては最後に記録として詳細を書きます。
 まずはベストテンから。

■外国映画
1:パラサイト 半地下の家族(ポン・ジュノ監督)
2:シカゴ7裁判(アーロン・ソーキン監督)
3:鵞鳥湖の夜(ディアオ・イーナン監督)
4:ジョジョ・ラビット(タイカ・ワイティティ監督)
5:ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密(ライアン・ジョンソン監督)
6:Mank/マンク(デヴィッド・フィンチャー監督)
7:チャンシルさんには福が多いね(キム・チョヒ監督)
8:異端の鳥(ヴァーツラフ・マルホウル監督)
9:エマ、愛の罠(パブロ・ラライン監督)
10:アングスト/不安(ジェラルド・カーグル監督)
次:ブリング・ミー・ホーム尋ね人
以下、ハッピー・オールド・イヤー、燃ゆる女の肖像、ヒルビリー・エレジー郷愁の哀歌、羅小黒戦記

 1位は、自分で選んでおいて何の面白味もないのだけれど、しょうがない。韓国映画なのにアメリカのアカデミー賞を獲ったぐらいだし、実際それくらい優れていると思う。同じポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』あたりと比べると落ちる、という意見もあったが、うーん、私は同じくらい面白いと思うけど…。今、これほど見事に、笑わせたり、ハラハラさせたりしながら格差社会の現状を風刺できる監督がどれくらいいるのかと思うと、いないよね。

 2位は1960年代後半、ベトナム反戦運動で逮捕された扇動者たちの裁判を通して、国家の横暴と民主主義のあり方を問う物語で、もちろんこれは2020年5月に起きたミネアポリス反人種差別デモに対してトランプ大統領が陸軍を出動させる発言に対する非難と牽制の意味合いがある。ラストの「世界が見ているぞ」というコールは明らかに現政府に向けて放たれた言葉だろう。このタイミングでこういう内容のものを上映するNETFLIXはやはり侮りがたし。しかし私が評価したいのは、この映画が全編にわたっていかにもアメリカンな反権力スピリッツが敷き詰められていたことだ。どんなに法廷侮辱罪を重ねようが、どんなに政府側に汚い手を使われようが、絶対にあきらめず、ジョークや軽口を武器に最後まで闘う。そしてたとえ立場が違っていても、痛めつけられている隣人(ブラックパンサー党)には優しい言葉をかける。これはもちろんモデルになった当時の政治活動家アビー・ホフマンやジェリー・ルービンらがそういう人物だったからに他ならないが、今の閉塞的な世の中、こういう人間くささこそ必要ではないか。最後、エディ・レッドメイン扮するマジメ青年が、権力側に対して、してやったりの大逆襲をするオチは、近年の映画で久しく見ていない痛快さであった。あまりに痛快すぎてボロボロと涙がこぼれているのに気づかないほどだった。

 3位は趣向を変えて、中国製フィルムノワール。この監督、前作の『薄氷の殺人』はそれほど凄いと思わなかったけど、今回はそれをさらに推し進めて、ついに独自の美学を形成するまでに至った。時代が過去の中国なのか、それとも発展から取り残された地方が舞台なのか、まるで昭和の時代の、寂れた観光地を思わせる怪しさ満点の世界観。そこへ警察と仲間から追われた主人公が迷い込み、さながら悪夢を見ているかのような様相を呈する。古くて新しい摩訶不思議なハードボイルド。クライマックスのスラムアパートでの銃撃戦も迫力があった。

 4位は第二次世界大戦下のドイツで母親と二人で暮らす軍国少年ジョジョの話。母親が屋根裏部屋に匿っていたユダヤ人の年上少女との淡い恋を描くことによって、人種差別の無意味さを描いた。ホロコーストを茶化しているという批判もあったが、ナチの選民思想をもっと現代的に解釈を広げて、インターネットで行われる特定民族へのヘイトスピーチなどを射程に入れているように思われる。それはそれで有効だろう。少年を取り囲む登場人物たちの造型がうまく、コメディアン出身である監督のブラックな笑いも効果的だった。

 5位はダニエル・クレイグ扮する名探偵が、著名なミステリー作家殺害事件の真犯人を推理する、クリスティー系の本格的ミステリーかと思いきや、反則スレスレの人を喰ったヒネリがあって、驚かされた。ミステリーの世界もたいがいのことは先にやられていると思うのだが、ウソの絶対つけない容疑者とか、探偵と○○がコンビとか…ちょっと新しいのでは? 少なくとも私はビックリした。ライアン・ジョンソン監督のオリジナル脚本とのことで、最後には『パラサイト』と同じく格差社会の問題が浮かび上がってくるところも凄い。

 6位もまたNETFLIX作品。『市民ケーン』の脚本家ハーマン・J・マンキーウイッツがどのようにしてかの作品を書くことになったのかを描いたバックステージもの。『市民ケーン』で描かれるチャールズ・フォスター・ケーンのモデルは、新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストであり、彼はマンキーウィッツと親しい間柄だったにもかかわらず、ある怒りからハーストの内面を映画で暴き立てた。その怒りの内容が、現在のトランプ政権と符合してくる仕掛けがまた巧い。凝り性のフィンチャー監督は全編をモノクロにするだけに飽き足らず、『市民ケーン』で使われた撮影法やフラッシュバックの多用を本作にも採用。結果、物語はわかりにくくなったものの、映像は近年の映画にはないモノクロ撮影の美しさを堪能できることになった。それにしてもハリウッドの大手映画会社でこんなマニアックな企画が通るわけがない。今、アカデミー作品賞を獲って、登録者を増やそうという魂胆のNETFLIXだからこそ実現した映画だといえる。まあ、映画館で上映してくれる限り私はついていくよ。

 7位は大阪アジアン映画祭で見た韓国の愛すべき逸品。ホン・サンス監督の映画を長年にわたってプロデュースしてきたキム・チョヒの初監督作品で、内容は自身をそのまま反映。映画プロデューサーのチャンシルは長年支えてきた映画監督が急死したことにより(殺すなよ、笑)、失業。40歳すぎにしてふと今までの人生を振り返る。ずっと映画一筋でやってきたので、結婚もせず、子どももいない寂しい独り身。けれども映画仲間が心配して訪ねてきたり、親しい女優がお手伝いとして雇ってくれたり、と信頼は厚い。やがて女優のフランス語教師をしていた男性と出会い、ほのかな恋の予感が…。映画ネタが盛りだくさんで、チャンシルは小津映画好きだが、男性はクリストファー・ノーラン好きで好みが合わないとか具体的で面白い。中でも『おらおらでひとりいぐも』や『私をくいとめて』じゃないけど、チャンシルにしか見えない相談役(幽霊?)としてレスリー・チャンが出てくるのには笑った。チャンシルは学生時代ミニシアターに通い詰めたのだが、彼はその頃の憧れの男優だったのだ。ところがこれが服装や髪型は確かに『欲望の翼』の彼なんだけど、中身は似ても似つかないずんぐりむっくりのダサ男。いつも突然現れる彼に、場内はクスクスと笑いが漏れる。作風は師匠譲りのミニマムな日常世界だが、そこにチャーミングな女性視点が加わっている。こんな面白い映画、映画祭だけで終わらせてしまうのはもったいない、と思っていたら年明けから一般公開が決定した。

 8位の『異端の鳥』は『ジョジョ・ラビット』と違って、正真正銘のホロコーストものといえるが、ずっと一人の少年視点のロードムービーになっているのが変わっている。そもそも最初はいつの時代とも、どこの国の話なのかもわからないままスタートするので、ホロコーストものとは思わない。世界情勢や歴史など関係なく、本当に少年から見ただけの主観世界なのだ。少年は行く先々でいろんな大人たちと出会い、恐ろしい出来事に遭遇する。少年自体がひどい目に遭わせられることもあるし、他の人たちが虫けらにように殺されていくこともある。やがて少年は生き延びるために知恵をつけ、不道徳なことも平気でやるようになる。それを淡々と描く。面白いのは、少年の体験するエピソードにいろいろな動物や生物が絡んでいるところ。人権が一切無視され、人一人の命も軽い時世では、人間も限りなくケダモノに近づくのだとこの映画は言っているように思えた。けっこう豪華キャストだが、二枚目スターだったジュリアン・サンズが子どもに虐待を行う小児性愛者を演じていてビックリ。

 9位は脚本のとんでもない先鋭さ、燃える信号機やレゲトン・ダンスを捉えたヴィジュアルのカッコよさ、そしてヒロイン、マリアーナ・ディ・ジローラモの美しさに尽きる。ネタバレすると意味のない映画なのであまり書けないが、ファムファタールの話ではなく、実は母性の話だよね。話題を別に振れば、2020年は私好みのクール・ビューティーにたくさん出会えてよかった。『ハッピー・オールド・イヤー』のチュティモン・ジョンジャルーンスックジン、『燃ゆる女の肖像』のノエル・メルラン、そして本作の彼女。

10位は1983年の旧作だし、レンタルビデオで昔リリースもされていたらしいが、まあ、日本での劇場公開は初めてということでベストテンに入れた。一人の頭のおかしい殺人狂が行き当たりばったりに人を殺していく様子をひたすら追いかけるいう実験的というか、何というか、変な映画で圧倒された。殺人狂を演じたアーウィン・レダーという人の怪演もさることながら、ズビグニェフ・リプチンスキの撮影が独特で、今でいうところの自撮り棒のカメラを付けたまま俳優が演技している主観映像は平衡感覚を狂わされるような奇妙な感じに襲われるし、ドローンもない時代にどうやってこんな高い位置から撮影したのかと思うような上空からの長回しもビックリであった。身障者を容赦なく殺したり、もの凄く不快な暴力描写がたくさんあるので、万人には勧められないが、それでも一見の価値ありとしておく(笑)。

次点以下は省略。

 最後に新型コロナウィルスが映画界に与えた影響について書き記しておく。
 2020年に公開予定だった『007』も『トップガン』も『ブラック・ウィドウ』も『キングダム』も…すべて今年に延期。特筆すべきはディズニー系の作品(『ムーラン』や『ソウルフル・ワールド』)で、いずれも劇場公開を見送り(2021年正月現在)、自身のネットチャンネルでの配信を初公開とした。映画館の興行収入より、配信での収入の方が大きいと踏んだわけである。
 私個人としてはメジャー系の作品がなくても見るものは多く、さほど困らなかったが、やはり映画館にとっては手堅く動員が見込めるディズニー系作品をあてにしていて、経営のことを考えるとなくてはならないものであったようだ。事実、世界規模で映画館やシネコンが潰れるというニュースが幾度も耳に入ってきた。元々、ネット配信は映画館にとって興行を左右する脅威の存在であったが、新型コロナによる外出自粛の影響がネット配信の後押しをする形になってしまった。ネット配信普及率もコロナ感染拡大以前と以後とでは大幅にアップしているとのこと。
 こうなってくると、2021年の映画館興行は今後ネット配信に取って代わられるのか、と心配してしまうが、その行方のキーを握るのがアメリカのアカデミー賞である。以前、アカデミー賞はNETFLIXなどの配信作品に対し、映画館で一日3回以上、一週間の上映をしていなければ賞の対象にしない等の規定を課した。そのため、NETFLIXの賞狙い作品はわざわざネット配信前に、一週間の限定上映をしているわけである。では、昨年のディズニー作品はどうなるのか。例えばピクサーの作品はアニメ部門の常連だけど、『ソウルフル・ワールド』は間違いなく映画館では上映していないぞ。これがノミネートされるようであれば、はっきりいって映画館興行の雲行きは今後怪しくなるといって間違いない。さて、どうなるだろうか。

 …と締めくくりたかったのだが、実はとっくの昔に(昨年の4月末に)結果は発表されていた。2020年は新型コロナ感染拡大のため、特例としてネット配信サービスだけの作品もノミネートの対象にするとのこと。「特例」とあるけど、そのままなし崩しでずっと承認され続けないこと祈る。

 日本映画編につづく・・・

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