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2020年11月22日14:02

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11月に見た映画 寸評(3)

●『ジオラマボーイ・パノラマガール』(瀬田なつき)
岡崎京子の原作マンガは1989年発行というから私が大学一回生の頃か。読みはしなかったが、当時岡崎京子はトレンディーなマンガ家として人気を博していたのは覚えている。タピオカドリンクとか台詞に入れているところを見ると、現代風にアレンジしているのはわかるが、しかし、あのバブリーな時代に流行していたものが現代で通用するとは思えない。パルコや村上春樹の『パン屋再襲撃』などの単語は明らかに浮いているし、ニュアンスも今では変わっていると思う。古びている感じがした。
ロケ地はタワマンが立ち並ぶ江東区豊洲のあたりかな。私は大阪もんなのでちょっとわからないけど、同じ岡崎京子の映画化である行定勲監督の『リバーズ・エッジ』や、山戸結希監督『ホットギミック ガールミーツボーイ』などにも出てきたような。東京湾岸で遠くには工場も見えるガラーンとした人口的都市空間が独特なのはわかる。同じ瀬田監督の『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』も調べたら浦安とのことなんだけど、やはり港近くで土地開発中のガラーンとした空間だった。こういうのが好きなんだろうか。人工的殺風景の中での青春、というのを狙っているようだが、私には縁がないからか、あまりリアリティが感じられない。なので、このフワフワしている高校生たちの青春を見ても何も感じられなかった。
ヒロインの山田杏奈はパツンパツンの揃った前髪が可愛かったが、映画の主人公としては魅力不足。男の子役の鈴木仁も同様。二人とも薄っぺらい(それが狙いだと言われたら困るけど)。
鈴木仁を虜にする年上の女を演じた森田望智(もりたみさと)の方がはるかに魅力的で存在感があった。ネットドラマ『全裸監督』で黒木香を演じて評判になった女優さんらしいが、さもありなん。上手い。強く印象に残る。
平日の昼間の回を見たが、観客はなぜか私も含めおっさんばかりだった。この映画の本来のターゲットと思われる若い男女はいなかった。岡崎京子のネームバリューももはや通じないように思う。
<テアトル梅田 劇場2 F−6>

●『夜の悪女』(村山新治)
何の前知識もなく見たが、面白かった。意外な掘り出し物と言っていいかもしれない。
物語は、観光旅行社を装った会員制テレフォンデートクラブ(売春斡旋業)の話で、のっけからその手口を瓶底メガネで学生服姿の梅宮辰夫が紹介してくれるので興味津々。昭和40年当時の風俗産業の勉強になる。デートクラブといわれても今ではピンとくる人も少ないかもしれない(って私もよく知らないが)。昔、西原儀一監督の『桃色(ピンク)電話』(1967)というピンク映画があって、たぶんそこで描かれていたものと同じだと思う。
彼らの根城となる会社はアパートの二部屋を改造した小さな事務所なのだが、そこの社長の座を狙って、売春やくざの内田良平と、その部下の梅宮と、NO.1デート嬢の緑魔子の3人が、狐と狸の化かし合いみたいな駆け引きをして互いに出し抜き合う。3人ともはまり役で素晴らしい。
緑の役どころは田舎で義理の父親(?)に強姦された過去(この回想場面、陽気な音楽を流してしんみりさせない演出がお見事)を秘めつつも、基本的にはクールでドライな性格。左卜全と浦辺粂子の田舎夫婦が靖国神社を参拝する場面では彼らを「バッカみたい」と思うくだりがあり、戦争を知らない世代だとわかる。このあたり、中島貞夫監督の『893愚連隊』(1966)と通じるところがある。
他にも荒木一郎が緑に童貞を奪われるポン引きバイト学生の役で出ていたり、潮健児が緑に振り回される土木作業員の客を演じていたりで、いろいろ楽しい。しかし一番の好演は、一見すっとぼけていて、実はキレ者である風紀課刑事を演じた大坂志郎で、語尾に「なるへそ」という癖があったり、売春料金をステテコ何枚分で換算したりするのが面白い。最初は囮捜査でいかにもスケベ親父風だったのに、身分を明かしてからはスーツ姿でばっちり決め、どんどんカッコよくなる。この大坂の芸達者ぶりを見るだけでも価値がある。
解説によると本作は「夜の青春」シリーズの5作目だそうで、他の梅宮&緑がコンビを組んだ『ひも』『いろ』『カモ』『赤い夜光虫』なども見てみたくなった。
<新世界東映にて鑑賞>

●『妖艶毒婦伝 お勝兇状旅』(中川信夫)
宮園純子が(今風に言えば)バトルヒロインを演じる「妖艶毒婦伝」シリーズの3作目にして完結編。もっともシリーズものといっても繋がりはないようだし、妖艶毒婦といっても男をたぶらかす悪女ではなく、まあ、女剣士だとか女侠客だとかいったニュアンス(?)だろう。昭和の大衆演劇の女剣劇は、着物姿の女性がアクションをしているうちに服が乱れ、次第に肌が露わになってくるのを、男性観客が喜んで見る一種のキワモノ劇であったとどこかで読んだことがある。本作は東映東京作品だが、このタイトルには大蔵新東宝的キワモノ趣味が反映されているように思う(監督のせいか?)。
物語そのものは悪辣な家老一味に両親を殺された娘の復讐譚で、ありふれたものである。しかし監督が怪談映画の中川信夫だという先入観があるせいか、ちょっと悪人の描き方が普通のこの手の映画より、極悪非道すぎる気がする。ご禁制のたばこを作るのに、何の罪のない百姓を働き手として無理やり連れ去り、さんざんこき使ったあと、情報漏えいを防ぐためかバサバサと斬り捨てていく。それを幕府への告発書から知った大納戸役が正義感から悪の家老に詰め寄るも、逆に捕まって、告発書のありかを聞き出すために拷問を受ける。この拷問シーンが徹底していて、水車に括り付けられて顔面を水面下に沈められるのだが、本当に大納戸役の河野秋武が一定時間、逆さで水に浸かっている。ご丁寧なことに水中カメラまで使って、河野が水中で苦しそうに息を止めているところまで撮影されている。中川監督、容赦なしか。しかも本人への拷問が効かないと分かると、納戸役の妻と娘(宮園)を連れてきて、目の前で囚人たちに凌辱させるという残虐さ。しかしこういう悪人の描き方は中川監督の新東宝時代の憲兵ものや怪談映画にも共通するものである。
東映任侠映画で最後高倉健らにドスで刺されて死ぬ安部徹の死に方も、少しいつもと違っていて、宮園を狙った拳銃の弾が彼女をかばった自分の娘に当たり、それから宮園に斬られるという流れ。撃ったのが娘だとわかったときの、あの安部の動揺した表情。こんな安部は珍しい。明らかに因果応報が強調されているのだ。
ラスト、たばこ工場の外にある不気味な高台の死刑場(悪人たちが役に立たない働き手をここで殺していた)で宮園はついに親の仇を討ち取るが、この死刑場のセットが『東海道四谷怪談』や『地獄』にも出てきたような、汚水の溜まった気味の悪い独特のイメージで印象に残る。復讐する幽霊が、復讐する女剣士に変わっただけのようでもあるが、やはりこの監督、一味違うなと思う。ただこの監督のフィルモグラフィーの中ではかなり落ちる。
<新世界東映にて鑑賞>
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