mixiユーザー(id:453082)

2020年11月06日00:58

42 view

10月に見た映画 寸評(3)

●『本気のしるし<劇場版>』(深田晃司)
名古屋のTV局が作った全10話の深夜ドラマ(30分枠)を再編集して<劇場版>と銘打ち、公開したもので、232分の長尺となった(途中インターミッションまである)。TVの編集版は昔から劇場用アニメによくあり、あまりいい印象を持っていないが、監督の名前を信用して、試しに見てみたらこれがめっぽう面白い。
玩具会社で働くサラリーマンの主人公・辻(森崎ウィン)は、仕事には真面目だが、会社の中の複数の同僚女性に手を付けまくっている一面も持っていた。そんな辻が、ある夜、踏切の中で立ち往生している車に出くわし、間一髪で助ける。車に乗っていたのは浮世(土村芳)という女性で、一緒に警察に取り調べを受けることになるが、警官の「運転していたのはどっち?」という問いに、浮世は辻が運転していた、と嘘をつく。初対面で、命の恩人ですらある辻に罪を擦りつけようとするのだから、これは相当ヤバい女だ、とわかる。もちろん辻は否定し、何とかその場は収まったが、その出会いをきっかけに、以降浮世が絡んだ厄介ごとが次から次へと辻に降りかかってくることになる。
この映画がまず面白いのは、辻がどんなに浮世に迷惑をかけられても、決して断らないところだ。レンタカーの修理代やら、彼女の夫の作った借金やら、雪だるま式に浮世への尻拭いは増えていく。そのたびに憤慨しながらも辻は、彼女を助けてやる。一方の浮世の方は最初こそしおらしく「すみません、すみません」と謝っているのだが、時にヘラヘラ笑って余裕を見せたり、実は辻に助けてもらうのを前提でやっているのではないかという不気味ささえ漂わしている。またお礼するにはそれしかできないからと浮世にセックスを持ちかけられても、辻は「そんなんだからダメなんだ」と説教したりする。会社で同僚に手を出しまくっている男がなぜこの女とは寝ない? と疑問に思う。
この映画を見ていて思い出したのは、大映時代の増村保造監督の諸作品だ。どうして主人公はこういう行動をとるのだろう? このヒロインはいったい何を考えているのだろう? そんなことを思いながら見ているうちにぐいぐい物語に引き込まれていく。最終的に浮かび上がってくるのは、人の心の不思議さである。
脇役も手抜きがなく、個性の強いキャラクターばかり登場する。会社ではカタブツそうなのに辻との肉体関係を楽しむ同僚女性(石橋けい)、その関係を知り嫉妬から二人の関係を会社にバラす若い同僚女性(福永朱梨)…中でも辻と浮世の行く末を観察して楽しんでいるヤクザ幹部(北村有起哉)の造型が面白い。
後半はさらに視点の転換が起こり、弱かった浮世が、ある目的に向かってどんどん強くなっていくのが素晴らしい。クライマックスはまるで時間が巻き戻っていくかのような奇妙な感じがあって、これも長尺のなせる技かもしれない。
最後に。本作は最初にも書いたように、TVドラマを編集して公開したものだが、見事カンヌ国際映画祭のオフィシャル・セレクションに選出される栄誉に輝いた。TVの総集編でも捨てたものではない。そういえば先日見た黒沢清監督の『スパイの妻』も元々はNHKのTVドラマだったがヴェネチア映画祭の銀獅子賞をもらった。もうとっくの昔に映画とテレビの境界などなくなっているのだから、こういう現象も驚くにはあたらないかもしれない。後にはNetflixをはじめとするネット動画配信会社の進出も控えているし、今後もこういうことは増えてくるだろう。
<シネ・ヌーヴォ 座席G−1にて鑑賞>

●『空に住む』(青山真治)
私は青山真治の作品は苦手で、その良さがよくわからない。今回はその作品の中でもまだ比較的面白く見られた『東京公園』に近い雰囲気の作品だとポスターから判断して見たが、やはり以前と同じく、何が面白いのかさっぱりわからなかった。
両親を事故で亡くし、叔父夫婦(鶴見辰吾、美村里江)の所有するタワーマンションに住むことになったヒロイン(多部未華子)が、同じマンションに住むアイドルスター(岩田剛典)と知り合い、関係を持つようになる。最初はこういう甘い少女マンガみたいな話なのだが、この岩田が多部との肉体関係を明らかに遊びと割り切っていて、多部もそれを承知で付き合うのだから穏やかではない。他にも多部の同僚の岸井ゆきのが不倫でできた子どもを身ごもっていたり、子どものいない美村がその寂しさから多部のところを訪ねてくるのを疎ましく感じていたり…とドロドロした関係が明らかになっていく。普通の映画であれば、そういう群像劇が有機的に作用し合って、メインとなるヒロインの物語のクライマックスになだれ込んで昇華されるのだが、この映画はそうではなく、どれもそのまま投げっぱなしな感じである。ひょっとしたら飼い猫を火葬する場面でペット葬儀屋(?)の永瀬正敏が言う、平行線が宇宙でいつか混じりあう、とか何とかいうセリフに集約されるのかもしれないが、そんなわかったような、わからないような説明でまとめられてもなあ、と思う。お前はクリストファー・ノーランか。
そもそもヒロインが何を考えているのかよくわからない。親切な叔父夫婦のおかげでタワマンに住めているのに、恋人を優先して、居留守を使って関係を絶つか? 会って説明すればいいのに。岩田はただの軽薄な奴にしか見えないし、彼の哲学とやらもそんな本にするほどのような深さがあるとは思えない。インタビューを終えた後、多部は彼にキスするが、何に感激してキスしたのか、さっぱりわからない。もうわからないことだらけである。
これはたぶん作り手の青山が、観客にはっきりわからせないことは何か高級なことだと勘違いしているか、それとも単に観客に伝える能力が低いか、どちらかである(私は両方だと思う)。それでいて、タワマンの縦の構造と職場の横の構造がどうとか、タワマンの外景がないとか、気付いたシネフィルを喜ばせるような仕掛けを入れたりしているが、そんなのは物を語ることの基本ができてからにしてもらいたい。私はそういう青山真治のこざかしさにいつも不快感を覚えている。
<神戸国際松竹 シアター4 I−2にて鑑賞>

●『ストレイ・ドッグ』(カリン・クサマ)
ニコール・キッドマンが荒み切った女刑事を演じるというハードボイルドもの。冒頭、美貌をかなぐり捨てた、凄まじいまでにやつれ果てたニコールさんのドアップから始まるのでびっくりする。ニコールさんも撮影時50歳くらいだからこれはノーメイクで?と思ったら、特殊メイクを施したとのこと。これは失礼! しかしニコールさんが若い頃の場面もあって、そちらも特殊メイクなのでは? <コラコラ!
内容は『ハートブルー』と同様、銀行強盗団の中に潜入捜査した刑事の話ではあるが、それはあくまでも回想場面であって、時制をいじって、そこから17年後の現在の復讐ものにしているところがミソ。
ヒロインが自動ライフル片手に銀行強盗犯を追いつめる場面は臨場感があってなかなかの迫力だし、その後のバーガーショップでのキャットファイトも面白い。個人的に好きなのは、地味ながら、敵地に乗り込んだヒロインが腹を殴られ、ゲロを吐き、トイレに押し込められる場面。そこで一度ぐったりしたヒロインが鏡で自分の顔を見て、もう一度起き上がり、大理石の入れ物を武器に反撃に出る。その一連の流れがすごくイイ。
しかしヒロインを母親に設定したので、娘との和解のドラマが入ってきて、そこだけ急に湿っぽくなる。やはりどうしても女性らしい要素は入れてしまうのだなあ。ハードボイルドになり切れてなくて残念。
<シネリーブル神戸 劇場2 F−4にて鑑賞>
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する