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2020年10月23日03:33

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10月に見た映画 寸評(1)

またチョロチョロと書いていこうかと思います。

●『スパイの妻<劇場版>』(黒沢清)
30分前に行ったら、もう前の方しか空いていない。最終的には年配者で満席になった(私も含む)。ここはジジババの『鬼滅の刃』か(笑)。正直、ヴェネチア映画祭銀獅子賞をナメていた。『散歩する侵略者』なんかガラガラだったのになぁ(個人的には本作よりずっと好きなんだが)。相変わらず日本人は海外映画祭のお墨付きに弱いなあ、と思った次第。
黒沢清作品初の歴史サスペンスということだが、基本的にはやっぱりいつもの黒沢清タッチ。濱口竜介らが書いたひねりのある脚本をうまく自分の世界に取り込んでいる。この監督の得意とする、何が起こるか先の見えない不穏な感じが至るところで炸裂している。
とりわけ質屋に行くあたりの街頭場面が凄かった。軍隊の行進が、高橋一生の横を通り、遠ざかって行ったかと思えば、また戻ってきて(?)前を通り、最後はカメラの前を横切るように通っていくのを長いシークエンスで見せる(ワンカットだったかどうか覚えていない)。こういうのは初期の『勝手にしやがれ!』シリーズでもよくやっていた。今回はこんな大掛かりな場面でやるのか、と驚かされた。
さらには照明の感じが明らかに変わっている夢の場面や、ノートを隠す場所として廃墟が登場するのも黒沢作品のトレードマーク。また満州から持ち帰ったフィルムがどう見ても不穏な代物で、フィルムの映写がヒロインを狂気へ導くという展開が黒沢清的…というよりも、かつて黒沢が哀川翔主演で作っていた『復讐』シリーズの脚本家:高橋洋の世界という感じで、実は裏で糸をひいているのでは、と思ったぐらい(笑)。ラスト近くの、空襲直後の焼けた風景も『カリスマ』を思い出させた。実はけっこう原点回帰的な作品かなあ、とも思う。いずれにしろ、この監督ならではの、映画ならではの面白さが随所にある。
ただ私が最終的に本作に乗れなかったのは、申し訳ないけど、蒼井優がミスキャストではないか、という疑いが拭いきれなかったというのがある。若い奥さんという設定なのだし、彼女もいい年齢になってはいるのだろうが、私にはこの役を演じるには彼女は幼いように見えた。戦時中の女性はもっと実年齢より老けていたのではないか。また内容的にもツンと澄ましたような、クールビューティ的な女性の方がいいように思う。そういう女性がどんどん恐ろしい目にあって、最後は動揺の極限にまで達するわけだから、そこが最高の見せ場になる。蒼井優ではそういう色気に欠ける。本作はスパイものということで、ヒッチコック映画を彷彿したのだが、そのヒロインたちを思い出すとそんな不満を持ってしまうのだ。では今の日本映画界で誰がいいのかと言われれば、見た目が幼く見える女優が多くて困ってしまうのだが…。
ついでに書いてしまうが、黒沢清は大人の女性を描くのが、あるいは恋愛ものが苦手だと私は常々思っているのだがどうだろうか。
<シネリーブル梅田、スクリーン4にて>

●『真夏の夜のジャズ』(バート・スターン)
1958年にアメリカ、ロードアイランド州ニューポートで開催されたジャズ・フェスティバル(とヨットレース)の模様を、写真家のバート・スターンが独自の視点で記録したドキュメンタリー作品。1960年の日本初公開以降何度もリバイバル上映されている有名作だが、残念ながら見たことはなく、今回の4Kデジタルでのリバイバル(といっても例によって日本の映画館では基本2K上映だろうけど)で見ることにした。
冒頭の波間の揺れにクレジットがかぶさるタイトルロールからいきなりお洒落。本編も随所で画面の切り取り方がレイアウトされていて当時のセンスの良さを感じる。
また独特なのは、壇上の演奏者だけを映すのではなく、集まった観客の方にもカメラが向けられているところ。うだるような夏の暑さの中、バカンス気分で集まった人々の中には、本を読む人、カップケーキみたいなのを食べる人、真剣にジャズに耳を澄ます人、逆に退屈そうにしている人…といった姿が次々映し出される。こういうスケッチを見ていると、60年前のニューポートの観衆の中に、自分も一緒にそこにいるかのような気分になってくる。
そしてそういった観客たちを、アニタ・オデイがスキャットの歌声で徐々に盛り上げ、魅了していく一部始終がしっかり記録されているのが素晴らしい。もちろん編集も入っているだろうから、必ずしも真実の記録とは言いきれないかもしれないが、後半の、子どもがサッチモの演奏に魅了される様子などを見ていると、やはり顔がほころんでしまう。
初公開は東和配給だが、原題に「夜」なんて入っていないのにシェークスピアの戯曲に擬えたかのような邦題にしたのもセンスがいい。
<第七藝術劇場にて>

●『小説の神様 君としか描けない物語』(久保茂昭)
文系学科卒業者としては、文芸部や小説家志望の若者を描いた映画が気になってつい見てしまう。近年この手の映画が増えているような…『響 HIBIKI』とか、ちょっと違うが『氷菓』とか。なんだったら『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』も入れていいか(笑)。で、本作も気になってチェックしていたのだが、やっている劇場が少なくて見るのに苦労した。本編を見てみたらその理由がわかった。これ、配給が東宝でも松竹でも東映でもないんだ。橋本環奈主演だからてっきり東宝あたりのメジャー映画かと勝手に思い込んだんだな。
監督は私の知らない人で、『HiGH&LOW』シリーズを作った人とのことだが、ヒドい。冒頭からモノクロ映像。モノクロって普通、深みがあって美しいのだけど(先日見た『異端の鳥』とか)、これはカラーで撮ったのを後から編集で安易にいじったような感じ。初めからモノクロを意識して撮影したとは思えない。またこのモノクロ部分がかなり長く、もう少しで映写ミスでないか確認しに行くところだった(笑)。
もちろんカラーになってからも映像に深みはなく(緑とか彩度をいじりすぎ)、演出も薄っぺらい。主人公たちが感情を表すと挿入歌がいちいち流れるのなんか、ミュージカルじゃないんだからと呆れてしまった。主人公の学生作家の意気込んで書いた小説が、内容はいいけど今風じゃない、もっとライトにしないと売れない、と編集者から突き返されるエピソードがあるが、皮肉にもそれを地で行く映画になった。編集者の指導通りに作ったらこんな映画になりましたって感じ。
内容も生意気ヒロインが実は難病で…といったそういうパターンのバリエーションで、先が読めてよろしくない。「それでも小説は書き続けるしかない」という結論は悪くなかったけど…。しかし、小説って基本的に一人で書くものだしなあ。
あ、こういうネットの中傷で、傷ついてもう作品が作れなくなった…なんて言うのはカンベンして下さいね、関係者各位さま。
<梅田ブルク7 シアター4にて>

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