飲み友達・・・

　僕には女性の飲み友達がいました。
　年齢は僕の11歳下で、埼玉県のある市に住んでいて勤務医をしていました。
　若い頃に離婚していて、娘さんが２人います。
　彼女と知り合ったのは、2016年３月の事でした。
　出会い系サイトではありませんが、ネット上で知り合いました。
　最初に会った時に、いきなり居酒屋に連れて行かれました。
　それまで硬い表情だった彼女が、酒が入ると気分がリラックスする感じで、
　にこやかな表情になってとてもチャーミングだと思いました。

　彼女は当時空手をやっていて、その外、茶道、ピアノも習っていました。
　週６日働いていて、その内の１日は当直もあり、とにかく忙しい人でした。
　絵を観るのも好きだったので、
　観たい絵画展があって時間が取れる日があると、僕の所に連絡が来ました。
　絵を観て、その後はどこかの居酒屋で飲むのがパターンになっていました。
　どちらが主目的だったのかは、彼女以外分かりません。
　数えてみたら、この４年間で十数回は飲んでいました。
　とにかく話が面白くて、彼女と飲むのは楽しかったです。

　過去形で書いているので、不審に思われる方もいるかもしれませんが、
　彼女が自死したとの連絡を受けたのが、先月の初めでした。
　彼女との連絡用だったラインで、一緒に住んでいた次女の方が知らせてくれました。
　葬儀も教えてくれたのですが、たまたまその日が数少ない仕事の日だったので、
　残念ながら葬儀には行けませんでした。
　娘さんに、少し落ち着いたら、お別れに行きますと言っておいたので、
　昨日、行って来ました。

　長女の方は結婚していて、最近お子さんが生まれたばかりなので会えませんでしたが、
　次女の方に案内され、初めて彼女の家を訪問して
　まだ納骨前でしたので、お別れして来ました。
　飲み友達はカソリックだったので、線香をあげるとも言えませんので、
　やはりお別れなのでしょう。
　遺影は、娘さんたちと海外旅行した時に、ある空港の乗り継ぎの待ち合わせで、
　ビールのグラスを持ってニッコリしている姿でした。
　僕は何かの折に、その写真を見せてもらった事があるので、
　この写真は知っていると言ったら、娘さんが驚いていました。
　アルコールが入っていますから、リラックスしたにこやかな表情で、
　とても良い写真だと思いました。

　遺書などはなかったとの事で、発作的な事だったのかも知れません。
　娘さんも困惑している感じでした。
　すぐに帰るつもりだったのですが、思い出話が弾んでしまいました。
　突然母親を失って、まだ学生でもある娘さんは本当に大変だったと思うですが、
　キチンと育てられたのでしょう、しっかりと色々な事を処理されているようでした。
　天国に行けばお母さんに会えるかなと言うので、チョッと心配になって、
　貴女が生きている限りは、
　心の中でお母さんは生きていると言っておきました。
　これは、僕が同居人に先立たれた後、知っている人から言われた言葉です。
　昨夜帰宅したら、娘さんからメールが来て、
　お礼と併せて、僕の言った事を受け止めてくれた事が書いてあったので、
　少し安心しました。

　女性と２人で何回も飲んでいて、口説かなかったのかと思う方もいるかも知れません。
　彼女は、他の人には優しかったのですが、自分には厳しい人だったと思います。
　言い寄る人もいたのかも知れませんが、全てはねつけていた感じです。
　下手に口説いていたら、こんなには続かなかったと思っています。

　今年２月に行き会って、東京の上野の居酒屋で飲んだのが最後になってしまいました。
　その後、行きたいと思った美術展があるけれど、
　新型コロナウイルスで無理ですね、とのメールが来た事がありました。
　病院に勤める医療従事者は、
　普通の人よりもさらに厳重な注意が必要な事を彼女も承知していました。
　彼女の自死の理由は、軽々には判断できませんし、もう分からないとは思いますが、
　新型コロナウイルスによって、鬱々とした気分になった事もあるのかも知れません。
　大切な友達を失ってしまったなぁとの思いを強くしています。