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2020年08月26日08:08

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(転載)中国・チベット女子一人旅−32


10月8日 昌都脱出
何としても、今日でここ昌都を最後にする決意で、また暗く寒い中を、重たい荷物と体とを引きずってバスステーションに向かう。
昨日、回族の男に部屋を突き止められているので、これ以上ここに居るのは危険な気がした。
昌都からは、ラサまでの1000kmを3〜5日間で一気に走破する車が出ているはず。

バスステーションに佇む事、三時間以上。
時刻表も無く、そもそもラサ行きの車があるという確信さえ無い中、ひたすら待つ不安には、相変わらず慣れる事ができない。
しかし、溶け込むつもりがむしろ目立っていた、私のいでたちが効を奏した。
二日前にもここで何時間も車を探し、そこらじゅうの人に「ラサに行きたいんですけど」とふれ回っていたので、
そのときに私を見かけていた中国人が、「あんた、ラサに行くんだろ?そこの車がラサに行くよ。」と教えてくれたのだった。
やった。
早速、まさにお荷物な、この大荷物を、座席に置かせてもらうとする。
4〜5人乗りの、中国製ジープだ。
この車で、この先1000Kmの山道を行く事をイメージしてみる。
後部座席のクッションは悪いが、まぁ、寝れるかな。途中でエンストしなければ、3日くらいでラサに着けるかもしれない。
これならそれほど高くはあるまい、と思ったが、一応聞いてみる。
「6人乗れば、一人500元(約8000円)」。
ちなみに、500元あれば、昨夜泊まっていた宿で一ヶ月暮らせる。
しかも、「6人集まれば」、って このぼろジープに、運転手除いて6人も乗れたら、上海雑技団入れるかも。
つまり、結局は「いや〜人数集まらなかたねー」なんて言って、1000元くらいはふんだくろう、っていう算段みえみえ。
その手に乗るかっての。
だがしかし、日本人的にやんわりと断る言葉が見つからなかった。
その状況を見ていたのだろうか、チベタンのおじさんがやおら近づいてきた。やはり二日前に私がふれまわっていたうちの一人だ。
「ラサ行きの車あるよ。100元で、行ける。」
100元ということはつまり、トラックの荷台だ。
さすがチベタン。ブラボーチベタン。私が何を所望かよくぞご存知で。
ジープの客引きの中国人は、「今日はトラックはないよ」なんて言って自分の車に乗せようとしていたのだった。このうそつきー。
ジープの中国人は、客をチベタンに横取りされそうになって怒っていた。
私には聞き取れない早口で、「おめーそりゃねーだろ!こいつはウチのもんだ!」みたいな事を言っているのを無視して、
私はいったん後部座席に置いた大荷物をそそくさと取り、「すいませんね、あっちに乗ります」と、去ろうとした。
ジープのおじさんは、「ホントにトラックに乗るのか?すっごく揺れるし、雨が降ったらずぶ濡れだぞ?」などと悪あがきを始めた。
私が「そんな事は構いません。」と言うと更に、
「チベット人達に混じっていくのか?あいつらは旅館には泊まらないんだぞ。トラックの荷台で寝るんだ。それにメシだって喰わない。
(器を手でかき回す動作をして)アレだけだ。それでもいいのか?」と、たたみかけてくる。
おじさんが言った「アレ」というのは、「ツァンパ」という、日本でいえばまさに米で、
気候の厳しいチベットでは小麦がとれないらしく、大麦を挽いて粉にしたものを、大昔から変わらず彼らは今でも主食にしている。
食べ方がこれまた超シンプルで、お茶碗に粉をどっかと入れ、お湯かバター茶を少量注いで、団子状になるまでせっせと手でこねて、おしまい。
そんなものだから、まぁ、美味しいとは想像しがたい。味の方も超シンプル、良く言えば素朴、という前評判は聞いていた。
だけど、チベットについて多少の予備知識をつけてきた私にとっては、最もメジャーな、一度は頂きたいチベタンフードには違いなかった。
ジープのおじさんの、「チベット人はアレしか食わねぇんだよ」という嘲笑まじりの言葉に、ちょっとむかっときた私は、
わざとらしく無邪気に、ワクワクした様子で、
「ツァンパですね?!わぁ〜、アタシ一度食べてみたかったんですよぉ♪」と、はしゃいで見せたもんだから、
ジープのおじさんはちょっとやっきになった風で、
「あんなもん、食べられたもんじゃないさ!それに、チベット人達は臭いぞ。」
・・・私、本当に、このジープに乗ることにならずに済んで、良かった。
心から、そう思った。

おお。
トンプウだ。
トラックと言えば、圧倒的なシェアを誇る中国製「東風」。ディーゼルエンジン搭載の、このワイルド極まりないトラックは、
その轟音、乗り心地、性能、どれをとっても、旅行者からは悪評しか聞こえない。
しかし、ヒッチハイク旅行者にとっては無くてはならない有り難い存在なのだ。

私の胸の高さほどもあるタイヤに足を掛け、へりにしがみつき、やっとの思いで荷台へよじ登ると、歩く人を見下ろす高さ。
もうすでに十数人のチベタンが、各々のスペースを確保し、持参のフトンや、大きな荷物を敷き詰めた上に、自分の快適空間を作り上げていた。
私も、これから5日間の長旅を過ごすための、落ち着ける場所(と言ってもしょせん荷台だが)を探さなきゃ。
とりあえず、真ん中だと落ち着かなそうだし、揺れたときに掴まる場所が欲しいよな、と思い、
一番後ろの端っこ、ベストポジション(と、この時は思っていた)をキープ。
私は当然、座るためのフトンなど持ち合わせていない。泣く泣くズタ袋(でも中身はぴかぴかのバックパック)の上に腰を下ろした。
ちなみに、のちにトラックを降りてバックパックの中を見てみたら、ヤフオクで買った電子辞書は割れて(!)、カップラーメンは粉と化していた。

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