映画　”コリーニ事件”

”コリーニ事件”

先日、自粛明け映画再開を”デット・ドント・ダイ”（6/12日記）でしましたが、
恒例の父（87歳・ドイツ関連の仕事をしていました）と映画＆ご飯の再開もせねばと、
早速例によってドイツ映画、”国家”を揺るがした世界的ベストセラーの映画化、
”コリーニ事件”を観に行ってきました。

この作品は弁護士でもある原作者フェルディナント・フォン・シーラッハの
2011年に発売された同名小説の映画化で、この小説によって語られた
”重大な法の落とし穴”によりドイツ連邦法務省が過去再検討委員会”を立ち上げた、
というまさしく国家を揺るがしたいわくつきのもの。

新米弁護士ライネンは、ある殺人事件の国選弁護人に任命される。
だが被害者は少年時代からの恩人だった。
動機について一切口を閉ざすイタリア系の老人である被告人コリーニだったが、
事件を調べるうちにドイツ史上最大の司法スキャンダルへと発展――。
ドイツ国民誰もが知りたくなかった真実に向き合うことになる。
公式HPより

過去のナチスの犯罪を年数が経って断罪する映画をたくさん見てきたので、
被告人が語らない動機については観る前から大体想像がつきました。
なので”重大な法の落とし穴”がどういうもので、どんな風に糾弾するのか、
とい点に興味を持って観ました。

なので法廷シーンが中心で小難しい作品になるのでは？　と勝手に思っていたのですが、
予想以上に主人公を取り巻く設定が多彩だったり被害者の動機の解明とかが、
ドラマチックに描かれ、そして終盤のグイグイと相手側を追い込む法廷シーンが見事で、
色々と盛りだくさんに楽しめる作品でした。

映画の中の事件は2002年ぐらいに起こったことで、
その犯罪の動機の重要性が裁判の争点となります。
ライネンの懸命の調査により被害者の過去が次第に明かになりますが、
そこに1968年に制定されたとある法律（簡単にいうと、
戦争時の指揮命令による犯罪の情状酌量とその時効）が立ちはだかります。

その法律の重大な落ち度をライアンが見事に暴き、すごくカタルシスを得るわけですが、
70年以上前の歴史的過ち、その過ちをなきものにするような50年前の法律、
それらを見過ごさず、風化させることなく、
きちんと厳しくこういった小説や映画で反省し続けるドイツという国を
あらためて尊敬します。

しかも原作者の祖父はドイツの年配者なら誰でも知っている、
ナチスの青少年最高責任者（ヒトラーユーゲント）という一級の戦争犯罪人。
そういう出自の人間が自ら（身内の）過去と向き合い反省し、
正義を貫くことの大切さを強く訴えているというのが素晴らしい。
過去の加害を矮小化しようとする今の日本の一部の風潮、
そしてあの人（A級戦犯被疑者）の孫である責任感のないあの政治家とは大違い。

父は映画を見る前に原作を読んでいて、かなり原作と設定が違うと言ってました。
確かにライアンがドイツではマイノリティなトルコ系だったり、
被害者の孫娘とは幼馴染＆元恋人で、久しぶりの再会でいい仲になったり、
被害者側弁護人が元恩師だったり、母と自分を捨てた父との確執とか
観ながらめっちゃ話盛り込んだなと思った設定が、結局、映画用の設定だったようです。
しかし、まあ地味な法廷ものにならないように、話を盛り上げるといった点では
アリだったと思います。

そんな感じで、ナチスの犯罪という問題だけでなく、
弁護士としての正義と弁護士になる切っ掛けを作ってくれた被害者への恩義との葛藤、
移民問題、戦後復興した世代とその恩恵で豊かに育った若い世代の意識の違い、
親子の邂逅、恋愛と仕事、新米弁護士の奮闘といった沢山のテーマを盛りこんだ、
ドラマチックな作品になっています。

あと特筆すべきことは、若かりし頃マカロニウエスタンで有名だったフランコ・ネロの
中盤まで一言も発しない重厚な演技、素晴らしかったです。
それと時折折り込まれる、ドローンを使った見事なカメラワークによる
美しいドイツの森や湖の映像が緊張を和らげるいいアクセントになってました。

法の落とし穴は露わになりましたが、最後のオチは個人的には若干モヤッとしました。
とはいえこの作品のメッセージは十分伝わったし、全体的にとても楽しめる映画でした。

五ヶ月ぶりの映画に父も満足そうで、しかも自粛疲れもなく元気そうで何よりでした。

https://www.youtube.com/watch?v=pd_E2vNfGKw&feature=emb_logo