物言わぬ、最愛の人

コロナの影響で飲食店も大変な時ですが、
不景気な時こそ、リピーターのお客さんが大切ですから、
お店では集客のアイデアを色々考えますよね。
やはり、何かを無料サービスというのは喜ばれますから、
『ドリンク一杯無料』なんてのは王道ですよね。


以前、東京のカレー屋さんが面白い企画を考えましてね。
それは『彼女と来店したらドリンク一杯無料』というものなんですが、
この『彼女』というのが、生身の女性ではなく『フィギュア』なんですね。
自分の彼女だと言い張れるフィギュアを持参すればサービスを受けられるというわけです。


ですから、お気に入りのフィギュアをカバンに入れてお店に行き、
店内でフィギュアを取り出して、テーブルの上に置くんですね。
すると店員さんが、ニヤッと笑ってドリンクを一杯持ってきてくれるわけです。
女性が『彼氏』のフィギュアと来店しても大丈夫だそうですが、
店内にフィギュアが並ぶ光景は、胸が熱くなるというより、背筋が寒くなりますけどね。


こんなところに、うっかり生身の彼女を連れていったら冷たい目で見られるんでしょうね。『・・・あいつ、人間の女の子連れてるぜ』なんてんで、
ほとんど変質者扱いじゃないかと思いますね。


席に着いて、カバンからフィギュアを出してテーブルに置いたら、
隣の人と全く同じフィギュアだったりしたら、
「・・・お前、二股かけてたのか！？」
なんて怒号が、店内に響くんでしょうかね。


それならまだいいんですが『彼女』と呼べるほど大切なフィギュアなのに、
カバンから出してみたら、腕が一本もげてたりしてね・・・
せっかくサービスしてもらったドリンクも、
涙で味が判らない状態になってしまうんじゃないですかね。


フィギュアが彼女として認定されるのなら、
他の物も彼女だと思い込む人はいるんじゃないですかね。
カバンを彼女と言い張る人とかね。
「このカバン、俺の彼女なんだけど、可愛いんだよ。
いつも一緒に旅行に行ってるんだけどね。
俺の私物を完璧に管理してくれるし、何よりも口が堅いんだよ。チャックが付いてるから」


あるいは、マクラを彼女だと言い張る人もいましてね。
「このマクラと付き合いだしてから、毎晩ピロートークばかりしてるんだ。
いつも一緒に抱いて寝てるんだけど、ボクと同じにおいがするんだよね〜」
なんてんで、ここまで来ると、もう住む世界が違う気すらするんですけどね。


微笑亭さん太