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2020年03月27日01:44

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2月に見た映画 寸評(5)

●『キャッツ』(トム・フーパー)
 ブロードウェイはもちろん劇団四季の舞台すら見ていない上での鑑賞。本国イギリスでは大コケ、アメリカではラジー賞九部門ノミネートにもなっていると聞いたが、前半、見ていてすぐにその理由がわかった。舞台のオリジナルでも同じなのかわからないが、前半がけっこうグロいのだ。ジェニエニドッツ(レベル・ウィルソン)という金持ちの家に飼われているデブのおばさんネコのナンバー。このネコ、いきなり大股びらきでアソコを見せるポーズから入り、「毎日ヒマなのでネズミに歌を教え、ゴキブリにダンスを仕込んだ」という内容の歌を歌う。もちろん内容どおり、映画はCGを使って彼女の成果を再現する。ネズミもゴキブリも人間(前者は子ども、後者は女性たち)が演じているのだからリアルではないのだが、それでもそれなりに気持ち悪い。特にゴキブリは隊列を組んで大行進するのだから、インパクト大。その行進の中からジェニエニドッツはひょいと手を出して二回ほどゴッキーをつまみ食いする。ゴキブリを食べるだけでもおぞましいのに、ゴッキーの中身は人間なのでネコが人食いの怪物にも見える。私は趣味が悪いので大笑いして見ていたが、生理的に受け付けない人もいるだろう。さらにその後にバストファー・ジョーンズ(ジェームズ・コーデン)という金持ち紳士の扮装をしたグルメなデブネコが登場する。グルメとは聞こえがいいが、これが残飯漁りの楽しさを歌ったナンバーなのである。もちろん絵面はゴミバケツから出した様々な残飯をバイキングよろしくネコたちが次々たいらげていく姿。何なのだ、このミュージカルは(笑)。ジョン・ウォーターズ監督が喜びそうなバッドテイストである。このあたりはミュージカルを見る客層(上流家庭や家族づれ)には嫌がらせとしか思えない内容で、それゆえに大コケ+ラジー賞候補なのだろう。/もちろんその2曲が下品なだけで、あとはまあ、ちゃんとした(?)いい歌、いいダンスが揃っている。ただ気になるのは例によって、カットを割りすぎるところ。この映画、前述したとおりCG技術がふんだんに使われている。なのでゴキブリの行進も可能なのだが、それ以外にも、屋敷に忍び込んで破壊の限りを尽くす泥棒ネココンビや鉄道ネコのくだりなどはCGの力が遺憾なく発揮されていて、舞台では絶対できない舞台変換をやっていて素晴らしい。しかしそれはそれとして、ダンスはできるだけカットを割らずに見せてほしかった。ダンサーが長年の鍛錬を積んで習得した技術を総動員して、生身の身体で踊っているのに、カットを割ってしまったら台無しである。本作に限らず、近年のミュージカル映画は平気でカットをバンバン割る。CGを使うこととダンスをちゃんと見せることは別モノなのにそれをわかってない監督が多すぎる。/最後に出演者のネコ姿だが、これが賛否両論である。これは出演者の全身にマーカーを付けて演技させ、後からマーカーからの情報に合わせてCGでネコの肉付けをしていくパフォーマンス・キャプチャーの技術をおそらく使っているのだと思う。なので、着ぐるみとかではなく、本当にそういう姿をした生き物に見える。人によってはそれがネコ人間に見えて気持ち悪いとのことだが、私はそれほど気にならず。むしろ耳やシッポ、ヒゲなどが状況に合わせて動いたりするのが楽しい。また身体やお尻のラインが浮かび上がり、奇妙なセクシーさすら感じる。案外「ファーリー(けもの萌え)」の人たちに喜ばれる作品になるかもしれない。ジュディ・デンチやイアン・マッケランといった大物名優もちゃんとこのネコ姿にされているのは、ちょっと感動的である。
<2/16(日) MOVIX京都、シアター6にて鑑賞>

●『ワイルド・ボーイズ』(ベルトラン・マンディコ)
 京都のみなみ会館で行われた「映画/批評月間〜フランス映画の現在〜Vol.01」という特集上映の中の一本。実はこの企画は昨年大阪でも開催され、本作も上映されたのだが、そのときはスケジュールの都合で行けず。今回京都で再上映すると聞いたので、いい機会だと足を運んだ。/個人的に、昔から性転換する物語に興味があり(たぶん手塚治虫の影響か?)、そういう小説を書いたりもしたが、本作もそういう題材を扱っているというので見た。物語は20世紀初頭。名門学校に通う5人の非行少年たちが女教師をレイプし、殺してしまう。5人は問題児更生のプログラムとして荒くれ船長に預けられ航海の旅に出る(戸塚ヨットスクールみたいな感じか?)。ところが船は嵐で座礁し、謎の無人島に5人はたどり着く。そこで奇妙な植物を食べて生活しているうちに少年たちは女性に変化する…という展開。/木の幹から生えた男根型の管を咥えて出てくる液体を飲んだり、白いネバネバの蜘蛛の巣みたいなのに引っかかって身動きできなくなったり(小便をかけると溶けて解放される)、女性器型の植物とまぐわったり…これでもか、というくらいわかりやすいメタファーが、ノンCGの作り物丸わかりの造型で描かれる。ちょっと初期クローネンバーグの変態映画を見ているような感覚。とりわけ女体化する場面は衝撃的で、波打ち際で立ち小便していたら、ポロリとイチモツが落ち、必死で波をかきわけて自分のソレを探す。男性ならちょっとしたトラウマ映像である。この女体化のクライマックスで、少年たちはわざわざ裸になって本当に胸が出て、男根がないのを観客に見せる。一瞬どうやったのだろう、とビックリするが、よく考えたら少年たちは女優が演じていたのだ。演技や喋り方はもちろん髪型やメーキャップ等ですっかりダマされた(モノクロなのもそのためか)。前半のレイプ場面では彼らの男根が映っていたと思うのだが、それも偽物だったのか。なかなか周到である。ビジュアル面もモノクロ映像にときおり妖しいカラー場面が挿入され、訳の分からないキラキラしたドクロのイメージが出てきたりして、凝っているのはよくわかる。/ただ単純な物語を無理して複雑・難解化しているようなところがあるし、前述したような凝った映像や創意工夫が前に出すぎてて、登場するキャラクターにほとんど魅力を感じない。カイエ・デュ・シネマ誌の2018年のベストワンに選出されたとのことだが、そこまでいいとは思わなかった。
<2/16(日) 京都みなみ会館、スクリーン2にて鑑賞>

●『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(ライアン・ジョンソン)
 探偵役が007でおなじみのダニエル・クレイグだというので見に行ったら、これが大当たり。亡くなった有名ミステリー作家(クリストファー・プラマー)の遺産相続のために屋敷に集まった人々を前に、名探偵がその死の真相を推理していくというアガサ・クリスティー系映画の典型パターンを踏襲しながらも、どんどんその枠組みから自由に飛躍していく展開が素晴らしい。何しろ死んだミステリー作家の世話をしていた介護人の女の子(アナ・デ・アルマス)が、「嘘をつくと嘔吐する体質」という設定がスゴい。本当にそんな精神疾患が実在するのかどうかは知らないが、ミステリー史上こんなフザけた設定はないよね、たぶん。クレイグ探偵が一族の誰かの都合の悪いことを訊くと、彼女は否定するやいなや速攻で嘔吐(笑)。自分が苦しい目にあってまで一族をかばうってことは間違いなく善人だし、こうなれば容疑者一人一人に訊くより、彼女に訊いた方が早いというわけで…クレイグ探偵は彼女を助手として採用する。しかし実は…その直前に、映画は介護士の回想場面に入り、彼女がミステリー作家を殺していたことを観客に知らせる(不慮の事故でだが)。つまり、そこからは物語は突然彼女が主人公になり、『刑事コロンボ』に代表されるような、犯人視点から描いた倒叙型ミステリーに変わる。かくして名探偵と真犯人がコンビを組んだ捜査が始まるが、探偵の行く先々で、彼女は自分の残した証拠を隠すという健気な行動をすることとなる。この映画がいかに人を喰った話か、これだけでもよくわかると思う。そしてこんなのはまだ前半の序の口で、さらに二転三転と予想外の展開や仕掛けが用意されている。/監督のライアン・ジョンソンは『ターミネーター』もどき映画『LOOPER/ルーパー』や、言わずと知れたメジャー作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』の監督で、てっきり私は「SF方面の人」だと思っていたが、実は出発点は「本格ミステリーの人」だったようだ(長編デビュー作の『BRICK/ブリック』は未見)。冒頭場面から『探偵/スルース』のミステリー作家の屋敷の小道具を彷彿させたので、これはたぶんそうじゃないかな、と思ったのだが、本編を見て「やはり」と確信。エッジの効いた物語展開は先に書いたとおりだが、全体的にブラックユーモアを漂わせ、映画においては退屈になりがちな推理ものを、アップデートしたミステリー・エンターテインメントに仕上げたのは筋金入りミステリーマニアの証左だろう。さらに最後のベランダ越しの構図などは、本年度アカデミー作品賞を獲った『パラサイト』と同じく格差社会の問題に照準が合わさっていることは明らかだ。オリジナル脚本賞は『パラサイト』に持っていかれたが、脚本の優秀さに関しては本作の方が上だと思う。
<2/20(木) TOHOシネマズ梅田 別館シアター10にて鑑賞>

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