ヒットしている、という噂を信じていたら、次週には早朝かレイトショーにシフト。
「こらアカン」と慌てて観に行ったモータースポーツ大作。
2時間33分の長尺ながら、名優二人の役者力と的確な演出で、緩さは全く無し。
殊にクリスチャン・ベイルの、エキセントリックなキャラキターを演じる迫力には圧倒された。
骨太なアメリカン・コンストラクターを貫いたマット・デイモンも見事。
マーケティング上の戦術として大レースの勝利を目指すフォードと、レース活動そのものがレゾンデートルであるフェラーリの直接対決に至るまでの、肥満した会社組織に巣食う「身内の敵=プラグマティスト」とマイルズ&シェルビーの「エンスージャスト組」の暗闘が実にリアルだった。
1966年ル・マン24時間は、フェラーリに代表されるヨーロッパ的価値観が、アメリカの巨大資本に屈した歴史的なイベントだった。
スクリーンに迫るフォードGTとフェラーリP3の並走は、両者の価値観の違いを象徴している。
正面から見ると、フォードGTは６角形を平らに潰した、フロントエンジンなのかミッドシップなのか分からない不細工なもの。
対してフェラーリP3は左右のホイールアーチがコクピットのキャノピーを挟み、三つの曲線が連なる優美なもの。私の大好きなポルシェ907ももちろんそうだ。
７リッターのプッシュロッド・エンジン（レッドゾーンは7000rpm,とマイルズのセリフ）で直線勝負に出たフォードと、伝統のV12気筒を9000rpmまで回し、コーナリングの優位は揺るがなかったフェラーリ。
この時、6�辧福�）のミュルサンヌ・ストレートのあったコースでは、最高速で30��/hものアドバンテージがあったフォードの優位は明らかで1・2・3フィニッシュを決めた。
不細工なマシンでも「勝てば官軍」のプラグマティズムの圧勝。
エース・バンディーニのP3は屈辱的なメカトラブルででリタイア。
11歳からのポルシェファンの私でも、最も美しいプロトタイプ・レーシングカーと言えばP3・P4を真っ先に挙げざるを得ないが、美が蛮に蹂躙されるのは世の常だ。
エンスージアズムは引かれ者の小唄に成り果てたか。
マイルズとタッグを組んだデニス・ハルム、今もF−1のメジャー・コンストラクターであるマクラーレンの創始者ブルース・マクラーレン、アメリカンヒーロー：ダン・ガーニー、無冠の帝王クリス・エイモンetc.
私がモータースポーツにのめり込んだ中学生時の記憶がない交ぜになって、妙にノスタルジックな気分に陥ってしまった。
珍しくパンフレットを買った。
その中に「ポルシェが初優勝を果たすまで20年を要した」という記述があった。
嫌な年寄りの私は呟いた。
「ル・マンには性能指数賞と熱効率指数賞があって、総合優勝と同等に賞賛されてたんや。ポルシェもアルピーヌもこれを狙て出てたことも知らんねんな‥」
まあ、エンツォ・フェラーリも本田宗一郎も、部外者から見れば単なる独裁者だったろう。
でなければ、あんな狂気のレーシング・カンパニーは生まれなかっただろう。
民主主義の限界もこの辺りにあるのかも知れない。
因みにフェラーリは、2年連続で世界で最も強力なブランドに選ばれたそうな。
“Brand Finance Global 500 2020”でWorld’s Strongest Brand、つまり世界で最も強力なブランドとして1位。なお、2018年に続き2年連続だそうだ。次点はディズニーが並び、コカ・コーラやロレックスがこれに続く。
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