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2020年01月12日23:31

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魔法少女の系譜、その110

 今回の日記は、断続的に連載している『魔法少女の系譜』シリーズの一つです。前回までのシリーズを読んでいないと、話が通じません。

 前回までのシリーズを読んでいない方や、読んだけれど忘れてしまった方は、以下のシリーズ目録から、先にお読み下さい。

魔法少女の系譜、シリーズ目録その1(2014年01月22日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=25849368&id=1920320548
魔法少女の系譜、シリーズ目録その2(2018年12月24日)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969682470&owner_id=25849368

 今回も、前回に続いて、『ザ・カゲスター』を取り上げます。口承文芸や、先行する類似作品と比較してみます。

 『ザ・カゲスター』は、カゲスターとベルスターとの男女ダブル主人公の話です。このことだけで、伝統的な口承文芸からは、遠く隔たっていることがわかります。伝統的な口承文芸には、血縁関係にない男女が、ダブル主人公で活躍する話が、皆無に近いほど、少ないからです。
 『ザ・カゲスター』が放映された昭和五十一年(一九七六年)ともなると、テレビ番組は、ほとんどのものが、口承文芸の範囲から離れて発達していました。

 『ザ・カゲスター』は、口承文芸より、先行する特撮(実写)番組や、アニメや、漫画からの影響が大きいです。
 前回にも触れましたとおり、男女ダブル主人公という点は、『ウルトラマンA【エース】』および『タイムボカン』と共通しますね。女性が男性と同等にアクションする点は、『好き!すき!!魔女先生』のアンドロ仮面や、『ゴワッパー5 ゴーダム』の岬洋子や、『キューティーハニー』と共通します。
 漫画の世界の昭和五十年(一九七五年)組三人娘、『超少女明日香』の砂姫【さき】明日香、『紅い牙』の小松崎蘭、『エコエコアザラク』の黒井ミサも、男性以上にアクションが激しく、戦う魔法少女でした。しかも、彼女たちは、堂々の主役です。ベルスターと共通する少女たちです。

 こうして見ると、『ザ・カゲスター』は、特撮(実写)より、アニメや漫画に近い気がしてきますね。特撮番組が栄えていた昭和後期でも、女性がアクションする特撮(実写)番組は、まれでした。
 『ウルトラマンA』と『〜魔女先生』、それに、戦隊もの第一号の『秘密戦隊ゴレンジャー』―昭和五十年(一九七五年)〜昭和五十二年(一九七七年)放映―のモモレンジャーとが、数少ない例外です。
 が、『ウルトラマンA』の場合は、変身後のウルトラマンAが、男性と設定されています。女性がアクションしている感は、ほとんどありません。

 ということで、『ザ・カゲスター』のベルスターに先行する「アクション特撮ヒロイン」は、『〜魔女先生』のアンドロ仮面と、『ゴレンジャー』のモモレンジャーくらいしか、いません。
 おそらく、当時の女優さんで、アクションできる人が少なかったからでしょうね。女優さんに、そういうことが求められていなかったとも言えます。実際、「モモレンジャーの中の人は、男性だった」説があります(未確認情報です)。

 二〇二〇年の今、振り返ると、「あの当時に、よく特撮(実写)で、ベルスターをやらせたな。特撮じゃなくて、アニメでやれば良かったんじゃ?」と思います。
 それは、製作側も、考えていたようです。最初に『ザ・カゲスター』の企画が出された時には、アニメ企画だったと聞きます。それが、いろいろあって、特撮(実写)番組になりました。
 完成した作品に、アニメっぽさが残るのは、そういうわけです。

 おかげで、『ザ・カゲスター』は、二〇二〇年現在でも希有な、「男女ダブル主人公の特撮番組」になりました(^^) これは、もっと評価されていい点です。
 しかし、そのために、日本における魔法少女の歴史からは、はじかれてしまうことが多いです(;o;) こんな重要な作品を無視することは、許されません。何回も私が言っているように、魔法少女の歴史は、アニメだけ見ていたのでは、解明できません。

 『ザ・カゲスター』の放映当時には、「魔法少女」という言葉は、まだ、普及していません。「魔女っ子」という言葉が、普及しつつありました。昭和四十九年(一九七四年)から昭和五十年(一九七五年)にかけて、『魔女っ子メグちゃん』が放映されたからです。

 「魔女っ子」というジャンル名が普及したことは、大きなインパクトをもたらしました。それまで、何となく「魔法もの」や「魔法使いもの」と呼ばれていたジャンルに、「魔女っ子」というオリジナルの名前が付いたことで、はっきりとジャンルが意識されるようになりました。

 とはいえ、昭和五十一年(一九七六年)当時には、「魔女っ子もの」と、『ザ・カゲスター』のような「変身ヒロインが登場する特撮番組」は、まったく別ジャンルと認識されていました。以前に書いたとおりです。当時の認識では、「魔女っ子」には、戦闘要素はありませんでした。
 放映当時の『ザ・カゲスター』が、ジャンルに分類されたとすれば、「特撮もの」か、「変身ヒーローもの」でしょう。まだ、変身ヒロインが少な過ぎて、ベルスターがいても、「変身ヒーローもの」としか、認識されません(^^;
 「魔女っ子もの」と「変身ヒーロー(ヒロイン)もの」とが、交わらない時代でした。

 このように、『ザ・カゲスター』は、先行する特撮、アニメ、漫画作品から、大きな影響を受けて、生まれた作品です。
 ところが、作品の中に、一つだけ、口承文芸っぽい部分があります。「人間本体ではなくて、影が変身して、戦う」部分です。

 口承文芸の中では、影は、神秘的なものとして扱われることがあります。
 例えば、「妖怪が人間に化けても、影を見ると、本体の姿が写っている」という伝承が、多くあります。普通に見える姿はまやかしで、影こそが本体を示すという思想ですね。
 また、日本の伝承の中に、影鰐【かげわに】という妖怪が登場します。この妖怪は、海に棲んでいて、海面に映った船乗りの影を飲み込みます。影を飲まれた船乗りは、死んでしまいます。これは、「人影には、人間の魂が宿る」という思想の現われでしょう。

 口承文芸の神秘性を持つ「影」に、「変身ヒーロー/ヒロイン」という新しい形を与えたのが、『ザ・カゲスター』です。伝統的な概念を、現代の物語に仕立て直して、ちゃんと面白くしているのが、素晴らしいです(^^)
 口承文芸からはかけ離れた、現代の物語の中に、少しだけ、口承文芸のエッセンスを入れたのが、こつでしょう。

 『ザ・カゲスター』は、「口承文芸のエッセンスを、少しだけ取り入れる」、「男女ダブル主人公」、「男性と同等に変身して、戦う変身ヒロイン」、「日常生活では、男性より女性のほうが立場が上」など、面白い要素をたくさん含んだ作品でした。けれども、二〇二〇年現在では、ほぼ、忘れられた作品です泣き顔
 それは、直接、後継する作品が現われなかったからでしょう。ものすごくヒットしたなら、『タイムボカンシリーズ』のように、シリーズ化された可能性はありました。残念ながら、そこそこヒットだったために、シリーズ化までは行きませんでした。
 直接、後継する作品が現われていれば、多くの世代にまたがって記憶されるので、忘れ去られずに済んだでしょう。

 『ザ・カゲスター』がシリーズ化されていたら、魔法少女の歴史は、とても違ったものになっていたでしょう。「男女平等に戦う変身ヒーロー/ヒロインもの」として、日本の娯楽作品の中に、『タイムボカンシリーズ』と並び立っていたかも知れません。
 「ポリコレ」だの「ジェンダーフリー」だのといった言葉が存在しなかった昭和の時代に、『ザ・カゲスター』という作品があったことは、記憶されてしかるべきです。

 付け加えておきますと、私は、「男女平等に戦うから、『ザ・カゲスター』は良い作品だ」と主張したいのではありません。それは、『ザ・カゲスター』を面白くしている要素の一つです。それがすべてではありません。
 娯楽作品は、面白くてなんぼです。少なくとも、私が見る限りでは、『ザ・カゲスター』は、いろいろな要素が相まって、面白い作品でした(^^) そして、後の魔法少女の姿を予告する作品でした。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『ザ・カゲスター』を取り上げる予定です。

2020年01月16日追記:
 この日記の続きを書きました。
 よろしければ、以下の日記もお読み下さい。

魔法少女の系譜、その111(2020年01月15日)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1974351201&owner_id=25849368

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