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2020年01月11日07:51

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キリシタン紀行 森本季子ー10

 福江への帰路、M神父の先祖についての興味深い物語に耳を傾けた。

 慶応二年に始まった五島のキリシタン弾圧で、取締りの任に当たったのは福江のお徒士(かち)目付、俵慶馬という侍だった。彼は役目上たびたび水の浦のキリシタン集落へ出向いた。そこでみじょか(愛らしい)女性を見知り、むりやり福江につれ帰った。略奪結婚である。生まれた子供の中に男女の双生児があった。昔は多生児を畜生腹と言って嫌った。特に男女双生の場合は夫婦(めおと)腹と言われ、忌み嫌われた。慶馬は妻に女児の方を殺すように命じた。嬰児殺しが平気だった時代である。が、キリシタン村に育った妻には忍べることではなかった。彼女はひそかに水の浦の親類に依頼し、養女として引き取ってもらうことにした。その場所が大坂峠だったという。巡礼団一行のバスが丁度大坂峠に差し掛かったところだった。M神父の話は続く。

 その殺されるはずだった女児は、水の浦で熱心なカトリック信者として成長した。
 「この人が私の父方の祖母だったのです」

 運命の数奇と言おうか、摂理の計り難さに一同は息をのむ思いだった。俵慶馬の名は迫害者として浦川和三郎司教の「五島キリシタン史」にも散見する。その迫害者の曽孫からカトリック司祭が出たわけである。作家今井美沙子氏による「ばあば」はM神父の祖母を主人公にしたノンフクション・ノベルである。

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