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2020年01月10日06:37

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キリシタン紀行 森本季子ー9

 一行は、水の浦でこの日のミサにあずかることになっていた。西海国立公園の一部である水の浦を見下ろす丘に、木造白亜の教会が建っている。暮れてゆく空を背にしたまっ白い塔と十字架をいただく聖堂が切り抜いたように鮮明である。内部は、木目の線で縁取られた高い天井、手のこんだ主祭壇と脇祭壇、ステンドグラスという典型的なゴシック建築である。現在東京ではほとんど見られないが、明治、大正期に、パリ外国宣教会の司祭たちによって建てられた教会の多くはこの形式をとった。戦災にあうことも無かった五島の教会はそのままの姿を残している。

 教会の丘に日本二十六聖人の一人、聖ヨハネ五島のきれいな立像があった。これから行く先々の教会でこの聖人の像を見ることになる。五島カトリック者の誇りと信心がうかがえる。この教会で聖体訪問をした後、隣接地のお告げのマリア修道会に行った。この聖堂でM神父が一行のためにミサをささげた。

 五島巡礼初日のミサとあって、参加者は胸の湧き立つ感動をもってこれにあずかった。が、一方、自分が現に五島の殉教地聖堂にいて、こうして聖歌を歌い聖体を拝領していることが夢のようにさえ思えるのだった。

 ミサ後、一同は応接間に招じられ歓待を受けた。
 このお告げのマリア修道会は、以前「女部屋」と呼ばれ、その会員が土地の人に「姉(あね)さん」と親しまれていた。M神父は「姉さん」たちの保育園出身である。今は司祭となっているかっての幼い教え子に、彼女たちは母親の喜びと誇りを感じているにちがいない。
 「さあ、さあ、こちらへ」 
 と導かれた応接室には心のこもったもてなしが待っていた。手作りのふくれまんじゅうが山のように盛られたお皿が幾つも!(中略)

 もう六時を過ぎている。素朴でゆったりとし、心の温かいお告げのマリア会のシスターたちは五島の人の気質の良い面を代表しているように見える。都会でアクセクし、時間が無いという観念に追いまくられている私たちの日常への反省材料でもある。名残り惜しい思いを抱いて玄関前でシスターたちに記念写真に入っていただいた。

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