裏手には日本最初のルルドとして知られた洞窟がある。ここのルルド建設は明治四十二年頃というからフランス・ルルドでの聖母出現から約五十年後である。五島の信者たちは各地から美しい石を持ち寄ってこのルルドを造ったのだった。井持浦天主堂は長崎県カトリック信者の巡礼地である。福江島各地の信者たちは泊まり込みで巡礼に来たそうだ。ルルド洞窟の聖母像前に一同集合して、この最初の巡礼地で
天(あめ)のきさき 天(てん)の門
海の星と 輝きます
アヴェ アヴェ アヴェマリア
と、ルルドの聖母賛歌を歌った。五島巡礼に来たのだという実感が胸にしみて、歌声はおのずから高く洞窟に響いていった。
司祭館に畑中神父をたずねて挨拶をした。高齢の師は黄変した白いスータンで現れた。あちこち、不器用に縫ってある。師自身が針を持ったのだろう。五島の信者の生活は今でも決して楽ではない。半農半漁で日々の糧を得ている。彼ら先祖たちが明治期に信仰の自由を得て、喜び勇んで立派な神の家を建てた。身を削って献金し、レンガを積み、材木を切り出して労力奉仕をしたのだ。今、それと同じことを玉の浦の信者たちは繰り返している。昨年の台風十二号がこの聖堂再建の重荷を司祭と信徒に負わせている。改めて十二号の強大さが思いやられた。五島の人々は生きた心地がしなかったことだろう。
巡礼団は貧者の一灯を献金した。新教会完成時には、五島の誇りとなることを約束するような風格のある聖堂正面を仰いで、一同は丘を下った。(中略)
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