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2019年12月16日16:39

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サザン・リーズス-とある公爵からの贈り物-

世界最南に位置するリーズス王国。そのリーズス王国の有名な双子女王陛下方に不思議な文書が届けられたのは、その日の昼過ぎ、彼女達が"趣味"である"お忍び"をしようと準備してたその最中の事である。
「これは?」
いつもならこうした文書は文官を通じて、女官長メニュエリか侍従長フェルが直々に彼女達の部屋を訪れるのが慣例になっている。しかし今回は普通の侍女が、彼女達の部屋を訪れたのだ。自然と彼女達の表情が怪訝なそれとなる。
かの有名な双子女王を前に緊張の色を隠せないその侍女は、しどろもどろになりながらその文書を彼女達に手渡した。
「あ……あのっ……!とある方からこの文を陛下方にお渡しするように頼まれました。その方から「文の内容をご覧になれば誰かが解る」とおっしゃられて……」
「………解りました。とりあえず、この文書は受け取っておきます。貴女は自分の持ち場に戻りなさい。ありがとう」
今にも泣きそうな表情の彼女をこれ以上この場に居させてはならないと双子女王の一人・フォーメリーが命ずると、半ば安堵したかのようにその侍女はぎこちないながらも恭しく一礼をして彼女達の部屋を去っていった。
侍女が去り、フォーメリーはもう一人の女王・エルグシットに困ったような表情を見せた。
「これ、なんだと思う?」
「見た目は普通だけどね……。見たところ差出人も書いていないし、怪しさ満点なのは確かね。メニュエリ、呼んでくる?」
見た目は普通の封筒に封をしてある只の文書だ。普通過ぎて逆に気持ち悪くも有るけれど。
「い、一応今確認してみる?内容がヤバければ、メニュエリかフェル直行コースで!」
エルグシットの問いかけにフォーメリーが、怪しさ満点のその文書に戦きつつも開けてみようとする。その様子にエルグシットが、思わず苦笑する。
「メリーってば、相変わらずの好奇心旺盛さね。まぁ良いわ、私も気になるし」
双子なだけあって、どちらもどちらである。恐る恐る封筒の封を開け、中身を確認する。そこには本当に普通に一枚の便箋が入っていた。
「よ、読むわよ?」
「う、うん……」
便箋の内容はこうであった。
『天に燦然と輝く双つ星へ
今宵、王宮の中庭で待つ。
ーーー桜草の公爵より』
「桜草の公爵?それって一体ーー」
エルグシットがフォーメリーに問いかけると、どうやらその便箋の主に思い当たる節があったらしく、フォーメリーは肩をフルフルと震わせていた。
「バカじゃないの?彼女、またわたくしを驚かせて楽しんでいるんだわ……学生時代からの悪い癖ね、ホント」
「え?どう言うこと?この人、メリーの知り合い?」
ハァッ……と溜め息を吐くフォーメリーに、エルグシットが怪訝な表情になる。それを見たフォーメリーが、クスッと笑う。
「そうよ。この便箋の主はプリムローズ公爵。わたくしのリーズスメル・アカデミー時代の同級生で学友よ」
「……………え?プリムローズ公爵ってあのもしかして、プレシア様?以前夜会でお会いした時には、こんなことをする方には見えなかったのだけど」
何か信じられないものを見るような、そんなエルグシットにフォーメリーは更に追い打ちをかける。
「そう、そのプレシアよ。彼女、学生時代からこういうの実は得意だったのよ。お茶目というかなんというか……。てか、全く性格変わっていなくてこちらが逆に驚きだわ」
「うわぁ……」
フォーメリーの方が女王歴が長い為、こう言う情報は有り難いと思いつつ、やはり双子と言えど妹のフォーメリーには少し気後れ感を未だに禁じ得ないエルグシットなのであった。
「しかし、内容は解ったけどプレシア様一体何の用なんだろうね?」
「解らないわ。とりあえず、今夜行ってみる?」
「それしかないわね」
まだ夕餉には時間が有るが、どうにもこうにも趣味のお忍びに出掛ける気にはならず、今夜の外出を絶対に許さないであろう女官長メニュエリをどう出し抜くか、それを相談する時間に費やす羽目になった二人であった。


夜ーーー。どうにかメニュエリの目を掻い潜って二人は約束の場所へと向かった。果たしてそこにはーーー。
「「プレシア(様)!」」
ハーメル王宮内にある中庭。少し開けた小さな噴水のある場所にいたその人は、闇夜でも鮮やかに輝くような長い金髪を靡かせながら、その新緑の瞳は目的の人物をとらえて少し慈愛の色を覗かせていた、現在リーズス王国貴族位序列二位に位置するプリムローズ公爵当主・プレシアその人であった。
「来てくれたのね?お久し振り、フォーメリーにエルグシット陛下。二人に会えてわたくしとても嬉しいわ」
今宵の満月にも負けない優しい笑顔で迎えたプレシアは、二人をすかさず抱き締める。
「苦しいわよ、プレシア!わたくし達潰れちゃう!」
「こんなので潰れたりはしないわよ〜。てか、よく来れたわね?メニュエリ様の監視が厳しいことはわたくしも知っていてよ?」
「それは……まぁ、色々とですね……アハハ……」
言葉を濁すエルグシットに、プレシアは二人を放してお腹を抱えて大爆笑する。
「相変わらずね、貴女達!そこが最高なんだけど……ホント……笑いすぎてお腹痛いわ」
余りの大爆笑っぷりにフォーメリーはむくれ、エルグシットは目線を反らしながら苦笑する。
暫くして、漸く落ち着いたらしいプレシアは、不意に真剣な眼差しで目の前の二人を見た。
「今回、こんな形で貴女達をこの場所に呼び出したのはね。……そろそろ良いわね……。皆!始めましょう!」
真剣な表情から一転、プレシアのその号令に辺り一帯が明るくなる。急に中庭が、パーティー会場と化したその光景にフォーメリーとエルグシットが目を点にさせていると、かつてのフォーメリーの学友であるメアリーとシルヴィアが草むらの陰から顔を出した。
「え?メアリーにシルヴィア!どうしてここに……」
「えへへ〜、私たちもプレシアに呼ばれて来ていたのよ〜」
驚きの表情を隠せないでいるフォーメリー達に、シルヴィアがイタズラっぽい笑みを浮かべる。すると、その瞬間ーー。
「全く……。プレシア様の発案にも困ったものですわ。当代のプリムローズ公爵が、相当の無茶振りをなされる方とは存じ上げていましたが、まさかわたくしも巻き込まれることになろうとは思いもよりませんでした」
同じく何かの入れ物を乗せた盆を手にして草むらの陰から姿を現したのは、少しやつれた様子の女官長メニュエリであった。これには流石にフォーメリーとエルグシットが腰を抜かした。
「「メ……メニュエリ……どうしてここに……?」」
「どうしたこうしたもありませんわ。わたくしも当初は反対致しましたが、プレシア様の熱意が余りにも凄まじく折れたうちの一人にございます」
「「メ……メニュエリが負けた……?!」」
珍しく、ほとほと困りきって根負けしているメニュエリの姿に、何か本当に信じられないものを見るような双子女王に、プレシアはしてやったりと笑みを更に深くする。
「お褒めの言葉痛み入りますわ、メニュエリ様。そして、今回わたくしのこのような趣向にご協力頂き、感謝致しております。…流石若くして王宮女官長に抜擢されたメニュエリ様。その手腕は素晴らしいものでしたわ」
「まぁ、如何に不服なれど我が主君の御為ともあれば腕を振るうのが臣下たるわたくしの役目。このような些事、なんと言うこともございません」
メニュエリの女官長としての矜持にも似たその言葉に満足そうにプレシアは微笑み、そして、メニュエリ持っていた盆を受け取って未だに驚愕の色を隠せないでいる双子女王の前に立つ。
プレシアが盆に乗せている入れ物の蓋を開けて、フォーメリーとエルグシットに見せると同時に、傍にいたメアリーとシルヴィアがいつの間にか持っていたクラッカーを鳴らした。入れ物に入っていたのは可愛らしくデコレーションされたホールケーキだった。
「「「お誕生日おめでとう!我らが親愛なる女王陛下方!!」」」
「「へ?」」
「へ?じゃないわよ。明日、女王生誕祭でしょ?その前にわたくし達から個人的にお祝いしたかったの。当日は式典とかで縛られると思ったからちょっと早いけどね」
茶目っ気たっぷりに片目を瞑り、舌をちょろっと出しているプレシアに、傍にいたメアリーとシルヴィアが吹き出す。
「プレシアから提案されたときは驚いたけどね」
「どっきり成功かしら?…学生時代を思い出して中々に楽しかったわ」
「成功も何も……彼女達のこの表情見たら上々でしょ?メアリー」
「それもそうね……フフッ……」
メアリーとシルヴィアの言葉で漸く我を取り戻したらしい双子女王が、流石に膨れっ面になった。
「もうっ……!!本当に貴女達、学生時代から全く変わらないんだからっ!」
「流石の私でもこれは堪えるわ……」
そんな双子女王の様子にプレシアも思わず吹き出したのだった。

プレシア達の粋な(?)夜の宴の誕生日パーティーの演出に、当初は驚かされて不機嫌だったフォーメリーとエルグシットだったが、宴も中盤も過ぎた頃でそんな気分も楽しいものに変わっていく。
「今日は、皆有り難う。わたくし、とっても嬉しいわ」
「私も、こんな演出初めてで……本当にありがとう。最高の誕生日パーティーでした。出来れば今度は堂々とやって欲しいけど」
南の国とはいえ、冬の季節は寒くなるもの。寒さからなのか、それとも感激して気分が高揚しているのか、彼女達は、上気に赤く頬を染めてそう謝辞を伝えた。プレシアとメアリーとシルヴィアは、そんな双子女王に互いに目配せしながら笑顔で応えた。
「「「こちらこそ、女王陛下が満足されたのなら幸いですわ」」」
中庭の隅でそんな満足そうな主君の表情を見ながら、女官長メニュエリは呆れながらも今回のことは水に流そうと決意し、明日に控えている"正式な"女王生誕祭の為にまた身を引き締めるのだった。
乙女達の祝宴はまだもう少し、続くのだったーーー。



作者より:えーと……まずはフォーメリーとエルグシット、誕生日に一日遅れてゴメン……(汗)本当は昨日上げる予定でした……。そしてプレシアさん、裏で色々暴走するんじゃありません!メアリーとシルヴィアも面白いからって理由で作者を見事に翻弄してくれたよ……。勘弁してくれ……。作中に出てきたリーズスメル・アカデミーは元は王族や貴族の子女が通う、サザン・リーズスの世界でも屈指の難関校として名を馳せている名門の学園です。現在は然るべき試験を受けたら民間でも通うことのできる良心的な学園になっております。
最後にメニュエリさん、本当に色々苦労させてすみません!(土下座)段々メニュエリさんの纏う空気が剣呑になってくのを感じて、こちらが肝を冷やしまくったよ(汗)ともあれ、今年も一つ上げることが出来て良かったと安堵しています。来年も一つでも上げられると良いな……(淡い期待)
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