日本では2020年、春の“桜の咲くころ”、習近平国家主席を国賓として招くことが決定している。
安倍晋三首相は日中関係は完全に正常な軌道に戻ったと昨年秋の訪中時に発表し、
中国の国家戦略“一帯一路”への支持も鮮明にしている。
日本人が不当にスパイ容疑をかけられ、尖閣諸島接続水域に中国海警船が
日常的に侵入している状況が、果たして日中関係の「正常な軌道」なのだろうか。
今回捕まったのは北海道大学法学部教授。9月に中国を訪問して以降、消息を絶っていた。
今回の訪中は社会科学院の招待を受けていたという話があり、
そのついでに研究のための資料集めやフィールドワークも行ったのかもしれない。
帰りの空港で逮捕されたという。
教授は公募の研究予算をとって2018年から2021年までの期間で、日中戦争の再検討、
というテーマの研究に従事していた。
研究手法は、各国の文書館や図書館所蔵の多言語アーカイブを利用するものという。
北海道大学は中国との研究機関や研究者との交流も深く、
未公開の歴史的資料を閲覧したりする機会もあったかもしれない。
■中国で次々に捕まる日本人、日中関係正常化は幻想だ
中国には実際は「秘密」「機密」扱いとされ、絶対タブーとされていても、
まったく国家の安全と無縁のものも、あるいは関係者、研究者なら常識と言っていいほど
知られていることも山ほどある。
古い未公開の戦争資料の中には共産党の秘密文書扱いのものもあるかもしれない。
中国の山岳部の地形などは国家機密扱いなので、中国で登山用GPSの携帯を理由に
スパイ容疑で取調べを受けることもある。
あるケースでは、たまたま初犯の観光客だったからGPS没収だけで無罪放免となった。
中国では意外なものが、国家機密、タブーだったりする。
歴史分野の「秘密」文書が、たとえ抗日戦争関連であっても現代の国家の
安全に関わるとは考えにくい。教授の訪中目的は純粋な学術研究であろう。
ただ、教授が過去に防衛研究所勤務であったことや、中国にとって近代戦争史が
「プロパンガンダ戦略」上、重視されていることなども考えれば、逮捕拘束して
取り調べすることで、中国がほしい情報を手に入れたり、あるいは圧力によって
中国に都合のよいコマにしようとしたりする可能性だってゼロではないかもしれない。
■日本では野放しの中国のスパイ
根本的なことをいえば、日本には英米のような本格的インテリジェンス機関はない。
いわゆる、「NSA」、「CIA」や、「MI6」のような、国家安全保障を司る機関だ。
現在、中国でスパイ容疑で捕まり、有罪判決を受けている日本人の中には、
法務省公安調査庁から数万円から十数万程度の薄謝を受け取って
情報を提供したことが直接の原因になっているケースもある。
彼らは「情報周辺者」などと呼ばれるが、実際は中国にとってもさして重要性のない情報だ。
東京で日本の政治上、治安上、技術上、研究上の重要秘密を知りうる中国人の数を比べると、
人口比的にも中国人の方が100倍くらい多いと言われている。
在日中国人は中国政府に命じられたら、知りえた重要情報をすべて提供せねばならない
法律上の義務を負っている。
つまり中国の法律を基準にして考えれば、在日中国人の情報周辺者は全員がスパイなのだ。
日本政府が民間の情報周辺者に薄謝で協力を仰ぐなら、
先に日本国内にいる中国のための情報周辺者を管理し、取り締まる法律をつくるべきだろう。
日本にはそういう法律がない。
そうした法的整備がないまま、「リスクをさほど意識していない民間人」を通じて、
安価に情報を集めようとするから、日本の情報周辺者リストが中国にばれたりするのだ。
2018年12月、中国のファーウェイのナンバー2、孟晩舟を米国に頼まれて逮捕したカナダは、
自国民2人をスパイ容疑などで中国に“報復”のように逮捕された。
2019年9月には、FBIが中国の「千人計画」
(海外で先端技術研究に従事する研究者を呼び戻す戦略的政策)
の責任者であった柳忠三・中国国際人材交流協会ニューヨーク事務所主席代表を逮捕し、
取り調べを受けたことへの報復のように、中国で17年間続いてきた英語学習企業を創設、
運営してきた2人の米国人男女を「違法越境」容疑で逮捕した。
■「人質」を取り戻そうとしない日本政府
何故、明らかに先鋭的な対立要因を抱えているカナダや米国に比べて、
関係改善が喧伝されている日本の国民がなぜ14人も捕まってしまうのか。
日本はそんなに対外スパイ工作が盛んなお国柄であったのか。
腹立たしく思うのは、2015年に中国が反スパイ法(2014年)に続いて国家安全法を施行し、
中国国内で外国人を「スパイ容疑」で捕まえ始めて以降、日本人だけですでに13人捕まり、
9人が起訴され8人が有罪判決を受けているのに、
日本政府は中国でスパイ扱いされている日本人を取り戻す交渉を
中国政府相手にやった形跡がないことだ。
■中国で次々に捕まる日本人、日中関係正常化は幻想
交渉というのは、こちらの要求を聞かねば制裁を行うと圧力をかけ、
要求を聞き入れられれば相手にとっての利益を考慮する、というものだ。
米トランプ大統領がやっているように、恫喝と甘言を交えてゆさぶりをかけて、
相手からの譲歩を引き出すやり方だ。
中国にとって日本との関係正常化や経済支援、一帯一路への支持などが、
米中関係で苦戦中の中国にとっての大いなる救済になるのだから、その見返りに、
日本人を取り戻すことがなぜできなかったのか。
逮捕者が増えるとは、日本外交が中国に完全にみくびられている、とは言えないだろうか。
■習近平氏の国賓訪問を延期せよ
中国外交部の華春瑩報道官は10月21日の記者会見で、記者の質問に答えるかたちで
「中国の法律に違反した外国人は法に従って処理する。中日領事協定の関連規定に従い、
日本側領事職務に必要な協力を提供する」と事実確認をした。
また、この事件は日中関係には全く影響がない、とした。
それは全くもって中国の自分勝手な言い分だ。
日本は、日中関係に大いに影響ある問題として、日本人全員を取り返すまで、
習近平氏の国賓訪問を延期すべきである。
安倍政権の中国への接近は危険だ。
習近平が、「微笑」を見せるも、日本を敵視する政策は変わらないのである。
ログインしてコメントを確認・投稿する