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2019年11月01日15:17

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映画「ベティ・ブルー」退廃した性欲の彷徨。

16歳のとき、付き合っていた女が突然狂いだし、筆者の家の門前で罵詈雑言をまくしたて、ついには家に侵入し、台所から包丁をつかんでこちらに向かってきた。武道を嗜んでいたので怖くはなかったが、彼女が不憫に思えた。もうコイツとはうまくいかないな、と思った。

そんな経験値があって鑑賞した「ベティ・ブルー」

フランスのある地方のの海岸べりの驕奢なコテージが立ち並ぶ。ここでゾルグはオーナーから依頼を受けて雑用を主たる仕事としていた。そこへ町のレストランの給仕を逃げ出したばかりのベティが現れる。ふたりはゾルグのコテージで朝晩を問わずディープな抱擁遊戯を満喫していた。その激しさはまだ十代だった筆者にはちと強烈すぎた思い出がある。だいいちモザイクが多すぎた。

ゾルグはオーナーから「女を連れ込むなら、コテージ500棟すべてペンキを塗り替えろ」とべらぼうなことを言われ、しぶしぶ屈服する。ただしこの500棟はベティには内緒だ。翌日、清々しい朝を迎え、ペンキ塗りをはじめた二人。そして一軒塗り終えるとポラロイドカメラでツーショット撮影。ところがオーナーが来て残り全部も塗ることを伝えられたベティは癇癪をおこす。オーナーの愛車にピンク色のペンキを浴びせ、果ては家財道具一切をコテージから放り投げ、仕上げにランプで火をつけた。燃え上がるコテージを身ながらゾルグももはや笑うより仕方なかった。ただひとつ、ゾルグの書いてきた小説を携えパリにやってきた。

ベティはゾルグの文才の最初の理解者だ。ふたりはベティの友人リザとその彼氏の経営するピザ屋「トンボリ」で働くようになる。しかしここでも注文の悪い客をフォークで刺したりとベティはすこぶる危険な存在者だった。そんなベティもゾルグの小説を夜ごとタイピングしてパリ中の編集者に持ち掛けた。が、帰ってくる批評は辛辣だった。

やがて。エディの母親が亡くなり、家業にしていたピアノ店をゾルグとベティは任される。そんな折りしもベティは妊娠をほのめかす。ベティもゾルグも喜んだ。二人に子供が授かった、と。


妊娠の結果は陰性だった。このあたりからベティの心象風景は暗い雲に覆われた。そんなある日、仕事帰りのゾルグは警察車両が家の方から走り去るのを見て悪いちょっかん予感を感じた。すぐに部屋へ戻ってみると一面血だらけ。ベティは自分の右目をえぐり取り病院に運ばれたと聞く。

病床でベティは手足を固定され、飲みきれないほどの処方薬で昏睡していた。ゾルグは医者に不信感を抱きつつ、ある夜、女装姿で彼女の見舞いに赴いた。そして愛する恋人の顔に枕で押し当て窒息死させた。窒息する寸前のベティの体躯が海老ぞりに踊り、その後パリの街並みを歩いて帰るゾルグの後ろ姿が印象的だった。


今はゾルグただ一人。テーブルを前に原稿を執筆している。ベティの尽力の末、ある出版社がかれと契約を結んしでくれたのだ。コテージの雑役夫から小説家になった。ベティの代わりに白い飼い猫が囁いた。


「書いてるの?」とベティの声。

「考えているのだよ」とゾルグ。

激情のものがたりは静かに幕を閉じた。
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