日本フィル 横浜定期演奏会@351（2019.10.26）祝 バイロイト 指輪指揮 インキネン

2019.10.26 18:00〜 於：みなとみらいホール

（前半）
ベートーヴェン
　交響曲第1番 ハ長調 op.21

ベートーヴェン
　ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 op.15

（ソリストアンコール）
ショパン　子犬のワルツ 作品64
ラフマニノフ　前奏曲集 作品32-12

（後半）
ドヴォルジャーク
　交響曲第8番 ト長調 op.88 B.163

（オーケストラアンコール）
ドヴォルジャーク
　スラヴ舞曲 op.72-6

指揮：ピエタリ・インキネン

ピアノ：アレクセイ・ヴォロディン

コンマス：田野倉 雅秋
管弦楽：日本フィルハーモニー交響楽団

首席指揮者でイケメンのインキネン氏が日本フィルと今月からスタートさせたベートーヴェン・ツィクルスの第2回目は、天才ベートーヴェン20代の2作品から始まります。

交響曲第1番は古典派の影響を受けて開花初期みたいに評される事も多いですか、既にとてつもない可能性と才能を秘めていて、学生時代から大好きで随分CDを聴き込んでもいました。

プレトークではバイロトでの経験の(日フィルへの)フィードバックを約束してくれたインキネン氏。交響曲でもエッジに効いた明快な演奏を(随所に拘りを取り混ぜながら)聴かせてくれます。始まり数小節で既に心の迷いが解きほぐされるようなクリア響きです。

ティンパニもちょっと変わった古風なタイプ（古楽器）を使用。楽器の響きも時代に合わせて巧みにコントロールしていて、これは次のピアノコンチェルトで使われたスタンウエイが小ぶりで音も古典風なチューニング？だった事にも共通しているのかも知れません。（全部ではなく、ポイントを絞って雰囲気を出す感じ？）

1曲目からこの日の木管は冴えていました。安定の真鍋さん(フルート)、技量と味わいの向上がたまらない杉原さん(オーボエ)、成長著しく安心できる田吉さん(ファゴット)、独唱のように泣かせる円熟のメロディーの伊藤さん(クラリネット)、お名前分かりませんが、後半のイングリッシュホルンにも涙でした。

聴いている位置のせいもあるのですが、前半の2曲はオケの弦、管のバランス(というか合ってないようにも聞こえる)に乱れがあったように感じる部分があり、ヴォロディンさんのピアノが明晰な響きだったのでちょっとだけ違和感を感じてしまいました。だから、という訳ではないのですが、氏のカデンッアはこれまで聴いた中で最高と言えるほど素晴らしいものでした。自由自在なピアノの独奏に蟻地獄にはまるように引き込まれ、こねくり回される・・・？

もともと繊細、高速、超絶技巧、という印象のソリストでしたが、アンコールではまさに軽やかに子犬が駆け回る(ちょっとこの速度では無理では？くらいの)技巧を見せたかと思うと2曲目のラフマニノフではさりげなく鮮やかな風景を見せる味わいのある振る舞い。短い曲ですが、その瞬間、上半身では足りず、ふくらはぎまで鳥肌が立っていました。


休憩を挟み、後半は何度でも聴ける名曲「ドヴォ8」です。

この曲は別名「自然交響曲」と言われるほど随所に耳障りの良い(風景や鳥の声など)メロディーが織り込まれています。もちろん、自然は心地よいだけでなく命をも脅かす存在なのですが、インキネン氏のサウンドの中に入ると、困難の中であってもどうすれば共生する事ができるのか、と言った前向きな気持ちにもさせてくれる気もします。(現在災害に遭っている当事者でない無責任な発言ですみません)

ホルストの惑星でもそうでしたが、全パートが全力で演奏するシーンでは抜群の安定感。8番も随所に細かな指示を出しつつ、きちんとオーケストラが消化して感動的な演奏を作り上げてくれていました。ベートーヴェンの1番での違和感も吹き飛び、30分を超える曲ですが「ああ、終わらないで・・・永遠に演奏し続けて欲しい・・」などと叶わぬ勝手な願望を持ちつつ、壮大に曲は終わりを告げました。

そうそう、後半は特にチェロ、ヴィオラの音の素晴らしさ、バスの渋みとドス、トランペット陣の確実な音も素敵！今回コンマスに就任された田野倉さんのソロにも痺れ、隣の千葉さんのキレキレの演奏も健在。ヴァイオリンの更なる充実にも期待ができそうです。

この時点で8時をまわっていましたが、更に、アンコールでスラブ舞曲をしなやか(穏やか？)に披露いただき、重ね重ね大満足の演奏会で、たまらず、ホールを捌ける際、聴衆を見送る平井さんに「杉原さん最高でした！」とピンポイントの感想を伝えさせていただきました。。

多分、翌日(日曜日)の前半は更に良くなるのだろうなあ、と思いながら、人もまばらになったみなとみらい駅に向かいました。