聖母文庫 聖母の騎士社刊
クリスマスの夜に
ゼノ様
クリスマスおめでとうございます。
初めてお目にかかった年のクリスマスは、貧しいながらゼノ様のお骨折りで、バタヤ集落の真ん中に、イエズス様の御降誕をかたどり、それを囲んで蟻の街の方々と共にお祝いしましたね。
昨年は、華やかな蟻の街のクリスマスを中途から辞して、木枯らしの吹く隅田川づたいに、二人で淋しくロザリオを繰りながら帰って来た思い出。
そして今年の「蟻の街」のクリスマスには、不幸にして、私は参れませんでしたが、あとで伺ったところでは、ゼノ様もおいでになれなかった由。
ゼノ様と、どうしてよく似た運命なのでしょう。思えば、丁度二年前、ゼノ様のお導きで行かせて頂いた「蟻の街」を、突然去るに当たりまして、一言もご挨拶申し上げなかったことを、心からお詫び致します。
でも、今の私の心境は、一年前のクリスマスのあの晩から、よく理解していて下さっていることと信じます。私は、今やっと、楽しい過去の思い出や、輝く未来の夢を捨てさって、ただひとすじに、すべてを天主様の御旨にお任せできるようになりました。とは申すものの、暁の霜を見るにつけ、気にかかるのは、可愛い「蟻の街」の子供たちや、年中無休で紙屑や縄屑と闘っているバタヤさんの身の上です。
たまたま、うわさに聞くところでは「蟻の街」を焼き払うとか、営業を停止させるとか、何か不安な気分がただよっている様子ですが、その後はどうなりましたでしょうか。
世の中の人たちが見捨てはてた屑を拾って、それを立派にお国の役に立てている人たち。
唯一の天主様の教えを信じ、最低の生活にあまんじて、自力更生している人たち。「幸いなるかな心貧しき人」とイエズス様さえお褒めになった通りの生活をしている人たち。
こういう人たちが集まっている「蟻の街」が、なぜ焼き払われたり、営業停止をされなければならないのでしょう。私には分かりません。日本中のお役人は、みんなピラトのような人あのでしょうか。いいえ、日本国民は、二千年前のユダヤ人と同じなのでしょうか。
でも私は信じます。万一、正しい人々がこの世のよこしまな人たちのために、どのような不幸な目にあわされても、最後には天主様がきっと正しい裁きをして下さる筈だと。
丁度今、蟻の街の子供から、左のような可愛らしい手紙をもらって、思わず泣いてしまいました。この手紙を書いた子度たちや、その親たちに幸あれかしと。私は今、遠くの空から、ひたすら天主様にお祈り致しております。
ゼノ様、どうか、あなた様も、共々祈ってあげて下さいませ。
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