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2019年08月07日17:05

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23,4の書いた短編小説 ノア

マグリット 大家族に捧げて。



 海は静かだった。わたる風の音もなく、ただ灰色の水面が同じ色の空に向かっているだけで、その中で。生命の光を灯しているはずの姿は図で煮なかった。

 空の色は不吉によどみ、誰の呼吸も許さなかった。もし吸い込めば、大気はのどを焼くだろう。


広大な焼け跡と化した地表には、何も動く姿は見えない。ただひっそりと沈黙をまとい、終わった時間の向こう側に凍り付いているかのようだ。もはやこの星は、死に絶えた過去のものなってしまっているのだろうか。
 
 はるかく高い所から見下ろしている、かつては神、とも呼ばれた存在は思った。発展しすぎた生物の世界と意識の行く先は滅亡でしかないのか。試みは失敗だった。星を丸ごと潰してしまう前に手を打っておけばよかった。私の小さな箱庭。何十世代か前までは何の問題もなかったというのに。ほんの数世代目を離しているうちに、こんなことになってしまうとは。星一つ思いのままに作ることは簡単だったが、あえてそうはしなかった。その気まぐれが滅亡を招いた。


 嘆く彼のはるかしたで、閃く何かか翔けた。小さな地位さんひらめきが、碧い霧のように広がってゆくのだ。そしてゆるやかに灰色の海や空を覆っていく。

 驚いた彼はよく目をこらしてみた。見えたもの、その一つ一つは鮮やかな紺に染まった鳥たちだった。その群れはみるみるうちに淡い碧色の帯となって柔らかく地表全体へと広がっていった・

……一体これは……



すべては彼がわずかばかり目を離しているうちに起こった・

 地表からはるか下。いつも薄暗い非常灯、日増しに悪くなってゆく空気。それが最後の世代の人間たちのすべてだった。自分たちが破壊した大地から逃れ、憶測深く身を沈めた箱舟の中で息をひそめ、彼らは地上への開放の時をじっと待ち続けていた。

 しかし、犯した罪が洗い流されるその日を待たずにむなしく船は朽ち果ててゆこうとしていた。エネルギーも食料も、何もかもが尽きてゆく。そう気づき、それが確定した時残された人々は大混乱に陥った。消費を減らすための無軌道な粛清、焦燥にかられ、死の大地へと飛び出して二度と帰らないものも数多くいた。そして無気力が全員に伝染し、完全な¥めに変わった時。

 とうとう人間は新しい出口を発見した。自分たちの開放ではなく、地球という箱舟の再生になんとかして手を貸し、もう一つの開放に望みをかけたのだった。

  大地が生命を取り戻すには何千もの時間を要するだろう。再びの天地創造の手助けをするために……それでも、たとえほんのわずかの命であっても、次へとつながってほしいという思い。それは人類の最後の良心とささやかな罪の償いだった。


  碧い鳥は、エネルギーの限り飛び続ける、身体の中に小さな箱を組み込まれた有機ロボットだった。落下した地で何千年もかけて壊れてゆく。そして箱が開くのだ。

 箱の中にはありとあらゆる生命の源が入っている。いつか、解放の時のために、人類は大地に種をまいたのだった、
 ノアと名付けられた今はもう呼ぶものさえいない計画は、今彼の前で作動を開始した。

  かけられてしまったパンドラの箱。そのなかに最後にたった一つ残ってていたものは……


 彼は夢を見るような思いで星を見下ろしていた。

 …生き返るのだろうか、この星は。

 それはわからなかった。彼は全能の神なぢではなく、打他の観察者でしかなかったから。



 でも、ここよりもずっと遠くで見つめている本当の神がもし存在するのだとしたら。

 かれはそっと祈った。どうかこの星と、今はもう滅びてしまった。人間の想いを助けてやって欲しい。許しはいつでも遅すぎはしないはずだ。そしてまた同じ間違いを繰り返したとしても、この鳥が再び空を翔ける限り、何度でも蘇らせてほしい。

 そうすれば僅かずつでも、らせん階段を上ってゆくように命そのものが本当の神に近づいていくだろうから。


 はるか下では、鳥が星全体へと広がっていた。遠くから見れば、かつてこの星がそう見えたように柔らかく碧く光って見えただろう。まるでつかの間の生命をとりもどしたかのように。


 そして星は長い眠りにつき、再び目覚めの時を待っている。

 いつか必ず。


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