聖母文庫 聖母の騎士社刊
帰り道で、大夕立に出会いましたが、運よくバスの停留所でやり過ごし、やがて台ケ嶽から明星ケ嶽にかかる虹の橋を背にして、雨上がりの高原を、子供たちは、歌好きの鶴木さんと一緒に楽しく童謡を歌いながら五時頃別荘に辿り着きました。それから、庭の隅に穴を掘ってかまどを造り、夕食の支度(したく)をする間ぎわになって、一番大切な焚木(たきぎ)の用意がしていないことを思い出しました。さっそく、手わけをして焚木拾いを始めましたが、一時間程の大夕立で、枝も、木の葉もびしょぬれで、どうにも火が燃えつきません。そのうちに、守男ちゃんが、松ぼっくりを拾い集めて来てくれました。これは一番火力がありましたが、あいにく日がとっぷり暮れてしまって、外では炊事ができなくなったので、かまどを風呂場の中に移して、私と、源ちゃんと、けい子ちゃんの三人で、もう一度火をたきなおすことになりましたが、少し燃えたと思うとすうっと消えて、家中が煙だらけになる騒ぎです。
しかも、その晩、私はそれ以上の大失敗をやってしまいました。私たちは、お米の他に、乾うどんをどっさり会長さんから頂いて来ましたので、その夜は、一人一把ずつのわりで食べることを楽しみにしていました。ところが、私は今まで一度も自分でうどんを煮たことがなかったので、お湯がよく沸騰してからうどんを入れることを知りませんでした。
火は一向燃えつかないのに、子供たちは「お腹がすいた、眠い、早く」とせきたてます。
私は、「もう少し、もう少し」と言いわけしながら、まだよく沸いていないお釜の中に、十二把の乾うどんを一遍に投げこんでしまったのです。そして、子供たちのリュックサックの中から紙という紙をことごとく集めてかまどの下に突っこんだので、どうやらお湯が沸騰してきたと思ったら、お釜の中は、どろどろの何やら得体(えたい)の知れないものになっていました。私はびっくりして、木の枝を突っこんで、かき回してみましたが、お釜の中が一杯で動きがとれません。
「あれ」とおどろいた源ちゃんは、
「もうしょうがない、何もかも一緒くたに煮てしまおうよ。先生」
と、私の顔をのぞきこみました。
全く自信をなくした私は、源ちゃんの提案通り、醤油と、にぼしを投げこんで、ただ滅茶苦茶にかきまぜました。
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