第2ラウンド、残り30秒。
チャンピオンは、チャレンジャーの猛攻を浴びながらも、次の展開に活路を見出そうとしていたように見えた。確かにチャレンジャーは一方的に打ち、チャンピオンは一方的に打たれているように見えた。しかしチャンピオンはダウンを喫してはいなかったし、機を見て相手に打ち返していた。一方、チャレンジャーはチャンピオンをあと一歩のところまで追い詰めながら、最後の決定打を打ち込めずに攻めあぐねているように見えた。
チャンピオンは、残りわずかとなった第2ラウンドは相手に献上して打たせるだけ打たせ、何とかしのぎ切りたかったであろう。そして相手が打ち疲れた第3ラウンド以降に、再び勝機を見出したいと画策していたはずだ。
ところが、その戦略はレフェリーの突然の試合中断によって塵芥に帰してしまった。残り時間はわずかである。手数では相手が勝っている。有効打は確かに浴びている。しかし決定打は許していない。
そんな状況で、突然試合が打ち切られてしまった。昨日のボクシング「ブラント・村田」の世界戦を見ていての印象である。
最近のボクシングは、行き過ぎたほど選手の安全を重視しすぎだと思う。アマチュアのボクシングならともかく、彼らはプロの契約をした選手同士である。ましてや、世界一をかけた戦いだ。そのリングに上がるからには、まさに「命を賭して」試合に臨んでいるに違いない。
しかしだからと言って、最終的にどちらかが倒れるまで戦わせるのは、両者いずれかの生命が危うい。だからそれを守るために、勝負の決着を判定できるルールを整備してきたのではないだろうか。
一つは、10カウント制である。倒れた選手は、意識があり立ち上がることができても、10秒以内に再び戦う意思を示さなければ、負けになる。
二つ目は、3ノックダウン制である。同一のラウンドに3回倒されれば、そこで決着する。
そしてもう一つは、セコンドの判断である。選手本人に戦う意思があっても、その身内である陣営からタオルが投げ入れられることによって、選手本人の意思にかかわりなく、試合は決着される。
しかし近年のボクシングは、これらのルールが適用されるより前に、早々にレフェリーストップという、ただ一人の主観によって試合が打ち切られてしまうことが多いのではないか。
要するに、手数を重視する方法であり、それは危険性を軽減し、競技性を高めるためのアマチュアボクシング用の裁定基準だ。
手数を重視して、止まっていたら負けと判定されてしまうボクシングでは、上述のように相手の打ち疲れを戦略的に待つような作戦は取れなくなってしまう。しかし本来命を懸けて臨むプロ同士の戦いなのだから、瀬戸際からの最後の一撃に全てを託すような戦い方があったってよい。
少なくとも昨日の試合ならば、いきなり試合を止めて勝負を決するのではなく、いったん「スタンダップダウン」を取るのでもよかったのではないだろうか。
レフェリーストップ直後の、ブラント選手の呆気にとられたような、燃焼不良の表情が見ていて痛ましかった。
ログインしてコメントを確認・投稿する