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2019年06月05日08:19

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蟻の街の子供たち 北原怜子(きたはらさとこ)−30

聖母文庫 聖母の騎士社刊

 勿論、私ごとき微力な人間が、唯一人で、三つの集落の子供たちを指導するなどと夢見ることは狂気の沙汰にすぎないのですから、私の方からお願いしても、そうして頂きたかったのですが、それにしても、私が最初に関係した三集落だけに、三つの中のどれの責任者になるかだけは、自分で選択させて頂きたかったのでした。ところが、よりによって、三つの中では、一番雰囲気の悪い、一番気の進まない「蟻の街」だけを受持てと一方的に命令された時には、少々がっかりせざるを得ませんでした。
 しかし、カトリックの信者として、特に修道院入りを希望する身として、たとえ、それが如何に自分の意志に反する命令でありましょうとも、不服がましいことを申したてるどころでなく、心の底で不満に思うことすら許されるべきではありません。一たん、そうと決定した以上、自分の使命を十二分に果たさなければならない義務があるのです。それに、正直に白状するならば、よりいい条件の今戸や、本願寺に回された人たちに負けてたまるかという高慢さが、心の中に充満していたことを否定するわけにはゆきません。
 私は、そう決定した以上、「蟻の街」の子供たちを、他の集落より群をぬいて立派なものに仕立て上げないでは、おくものかという強い決心を致しました。それから、約二ヵ月後の復活祭です。しかも、今日メルセス女子修道院の中で、三つの集落の子供が初めて顔を合わせるのです。私としては、なんとしても「蟻の街」の子供が最も優秀であることを、マードレたちに認めて頂きたい欲望で胸が一杯でした。

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