続きました。
◆3日目【活動時間/6:50、行動時間/4:30】
5:00/起床⇒5:30/朝食⇒8:00/涸沢小屋(標高2350m)チェックアウト、幕営場へ
移動・集合(ここで記念撮影など8:15まで滞在)⇒下山開始⇒9:25/本谷橋(ここで
9:55までアイゼン脱着のため中休止)⇒10:30/岩小屋跡(ここで10:40まで小休止)
⇒11:00/横尾(標高1620m/ここでウェアリング調整のため11:25まで小休止)⇒
12:00/新村橋⇒12:15/徳沢(標高1562m/ここで13:10までお昼休憩)⇒14:00/明
神(ここで14:20まで小休止)⇒15:05/上高地バスターミナル(標高1505m)へ帰還
⇒沢渡へ
◆写真はYAMAPへ↓
残雪の北穂高岳��
https://yamap.com/activities/3599264
【復路】
おはようございます。あっという間にもう3日目の朝です。今日の行動も昨日と同様、8時に集合・出発なのでかなりの余裕があります。朝は5時起床、昨日と同様に5時半の回で朝食を済ませ、部屋に戻ると他のお客さん(4人)は全て出立しており、自分達だけ。昨日散らかしっぱなしで寝てしまったので、寝床にザックを移動してダラダラと荷物整理を開始。持ち込んだ酒や食べ物は全て消費したので、ザックは相当軽い。ピッケルやヘルメットはもう使わないが、アイゼンは本谷橋までは装着して行くので、収納スペースに余裕を持たせて荷造り完了。みんな揃ったところで梅さんのテントサイトに移動する。朝から快晴、素晴らしい天気だ。昨日も快晴だったが、今日は空の青さがまるで違う。とても濃い群青色。雲が無いので青にグラデーションが掛からない。不自然なくらいの青空。ここはもしかしたら宇宙なんじゃないだろか？
涸沢カールの絶景をバックにみんなで一通り記念撮影。梅さんのテント撤収が済んだら、下山開始。名残惜しくて何度も後ろを振り返る。涸沢まで登りは先行者のトレースを辿ってきたが、下山は各人自由に好きな所を歩く。この時間でも日照で雪はかなり緩んでおり、踵着地の砂走り走法でどんどん下って行く。あっという間にSガレを通過、振り返ってももう、涸沢カールは見えなくなってしまった。本谷橋が近くなると梅さんから注意喚起が。
「木の枝でルートが塞いであるヶ所や赤い×印があるヶ所、絶対入っちゃダメよ！」
おや？確か往路ではこんなの無かったよな？
「たった2日で相当雪融けが進んだみたいだね、この辺りは雪渓がだいぶ薄くなってる。今はまだ大丈夫だけど、来週辺りからはもう、雪渓の上は危なくて歩けなくなると思うなあ。」
「これ、下、雪融け水が流れてるんですよね？」
「そりゃそうよ、夏来た時、川流れてたでしょ。今その川の上だから。毎年何人か雪渓踏み抜いて死ぬんだよね。取り合えず落ちたら助けられないし、助からないから。そのつもりでね！」
いやー、昨日から梅さん、さらっと怖いこと言うんだよねえ。まあホントのことなんで注意深く行動しないとね。
恐る恐るロシアンルーレットゾーンを通過して本谷橋に到着。ここでアイゼンを外しがてら、小休止。次回集合は横尾とし、各人自分のペースで歩き出す。のんびり休憩した自分は最後尾、岩小屋跡で一服していた梅さんに追い付き、横尾まで無事下山した。あとは上高地までの11km、これが毎回毎回、長くてかったるい。
時間もちょうどいいので横尾山荘でお昼を食べちゃおうと思ったら何と！名物のスタミナ丼がメニューから無くなってる！スタッフに聞くと、どうも仕入れの関係らしい。復活は未定とのことなので、おそらくもう無理なんじゃなかろうか。横尾山荘と言えばスタミナ丼、スタミナ丼と言えば横尾山荘と言うくらい、横尾山荘に立ち寄る時は毎回必ず食べてたスタミナ丼が無くなってしまった！これには一同衝撃を隠せない。今回は往路でスルーしたので、復路では必ず食べようと思っていたのに。
「まあ、無い物ねだりしても仕方がない。お昼は徳沢で食べましょう。じゃあ、みなさん、出発よ〜」
梅さんに促されて一同、横尾を歩き出す。梓川沿いのルート、通称「横尾街道」。青い空。白い雪。黒い岩肌。ビビッドさのかけらもない、原色の風景。美しい。風が当たると何とも心地よい。最高の気分だ。徳沢園で昼食を取ったら明神を経由して上高地バスターミナルへ。道中トラブルも怪我も無く、全員無事揃って戻ってこれた。特に雪の北穂高のピークを踏めた自分とO野さんの達成感は計り知れないものがあると思う。
上高地からは往きと同様、タクシーで沢渡駐車場へ。2台に分乗したら塩尻にある健康ランドへGO！風呂入って着替えてさっぱりしたら、みんなで打ち上げ。寝るのも飲むのも風呂入るのも各人自由。朝は5時半にロビーに集合、チェックアウトしたら中央道の初狩PAで解散。GW10連休の最終2日目だけど、渋滞に巻き込まれることも一切無く、10時過ぎには帰宅。コンパクトな日程だったけど、非常に密度の濃い充実の山行でした。
【まとめ】
まずは率直な感想から。もし「また来年も登りたいですか？」と聞かれたら今段階ではYesとは即答出来ない。理由はやはり雪山だからである。残雪期とは言え、今回初めて本物の雪山に登った。軽アイゼンで積雪の山には過去、何度も行っている。雲取山・甲武信ヶ岳・谷川岳・畦ヶ丸・塔ノ岳・・・。それこそ枚挙に暇が無いが、今だからハッキリ断言出来る。これらは「雪山」ではない。普通の登山道に積雪がある、ただそれだけなのだ。なので基本は普段の登山と何ら変わりが無い。追加装備で対応可能な、あくまでも「無雪期登山の延長」なのである。
それに比して今回の山行は全く勝手が違った。そもそも歩くルートが全然違う。登山道という概念も無い。装備が違う。歩き方も休憩の取り方も、そのペースも違う。登りと下りの体力の配分も違う。そして景色が全く違う。この辺りは夏にスキー場を観光で訪れると、全く違う場所に見えるのと同じでその逆バージョンといった感じだ。無雪期登山と積雪期登山はそれほど別物なんだと体感した。
無雪期登山の延長ではなく、新カテゴリの趣味。必要とされる装備もスキルも体力も、全て要求仕様が異なるのだ。そう言う意味では今回の山行は非常に稀有な体験だったと言えると思う。何せ装備も経験も技術もほとんど無く、何となくの知識だけで雪の3000m峰、それも穂高の一座のピークを踏むことが出来たのだから。
これは別に危険なギャンブルでは無く、左記条件でも全てのコンディションが揃えば登れる、という梅さんのガイドがあったからこそ。どの山行ツアーを調べたって、初めての雪山で北穂高岳に連れて行ってくれる企画なんて、ありはしない。
・晴れている
・風が吹いていない
・適度に雪が緩んでいて、アイゼンの前爪を使う必要がない
・ガスが出ていない
・雪崩の危険がない
・先行者のトレースがある
一つでも条件が欠けたら、一見問題が無さそうでもアタックは中止、と、梅さんからは昨年から聞かされていた。天気はともかく、雪崩の危険性、雪崩を考慮したルート取り、雪質の変化など、これらは経験者にしかわからない。そして安全下山までを考えると、下山中もこのコンディションが満たされる予測がアタック開始時に見込めないといけない。雪山は登りよりも下りがはるかに難しく、技術が無いと降りられない。おさらいをしてみると以下の通りだ。
まず装備に関して。正直雪山専用の装備は今回、ピッケルだけである。アイゼンは10本爪だが、本格アイゼンではなく俗に言うスノースパイク、軽アイゼンの部類である。前爪は無く、爪は全体的に短くて、爪がブーツのソールからはみ出すこともない。まずこの時点でアイゼン歩行特有のガニ股歩きが不要となり、雪上歩行技術の1つがマスト条件からオミットされる。
アウターはレインウェア。防水だが、強度的には滑落が織り込み済みの雪山登山では、適正な装備とは言えない。雪面との摩擦を考慮していないので、めちゃくちゃ滑る。アンチグリース加工という、雪面で滑らない加工がされていないからだ。転んでも濡ないという、その要件しかレインウェアでは満たせない。一回滑落したら多分摩擦で穴だらけになるんじゃないか？この辺りはスキーウェアの素材と比較すれば一目瞭然だ。ゲイターもアルパイン用ではない普通のゲイター。強度というか、表面の耐摩耗性が話にならない。3日間雪の中を歩いたら、ザラメ状の緩んだ雪との摩擦で表面が鑢をかけたようにケバ立ってしまった。
グローブは捨てる用の古いスキーグローブを持参したのだが、これは正解だった。生地の薄いただのレイングローブでピッケル操作をしたら、あっという間に穴が開いていたんじゃないだろうか。ピッケルは金属の塊だし、色々な持ち方と使い方をするし、急斜面では雪面に手を着けるシチュエーションが何度もある。
そして靴。一応フルレザーの登山靴だが、なかり厳しかった。甲に乗った雪が融ける、を無限に繰り返すうちにスエード素材のタンの部分が濡れてしまい、水を吸って重くなってくる。当然濡れた皮革部分は通気しないため、ゴアテックスのブーティーも意味が無い。汗で濡れた靴下から靴の内部もどんどん湿気を吸って濡れてくる。動いている時はいいが、休憩時などは途端に爪先が冷えてくるのだ。陽光が燦々と注いていても、足は雪の上に立っている。そして雪壁の登下降では靴は雪の上ではなく、ほとんど「中」にある。ピンポイントで雪の上を通過するのではなく、最初から最後まで雪の上を歩くのであれば、やはりちゃんと保温材が入った冬山用の登山靴が必要だ。
上記の通り、全ての条件を満たせば、ピッケル以外の専用装備は一切無しで往復が可能。あと必要なのは標高差800m弱を一気に直登出来る体力と、急斜度の雪壁でもビビらずに安定して活動できる胆力くらいだろうか？装備は一度切りの使用が基本かと思う。実際、同じ装備でまた北穂に行きたいとは思えない。アルパイン用のグローブにゲイター、ブーツ、アイゼン、ハードシェル、パンツなど、全ての装備を新規で調達しなければ、とても次回、行く気が起きない。今後も雪山登山を続けるのであればそれも良いが、続けないのであれば今回の体験が最初で最後、で良いんじゃないだろうか、と個人的には思ってます。
装備や技術に関しては実は梅さんと何度も話をしていましてね、まあ、今回やっと言っている意味が分かりました。ピッケルワークやアイゼンワーク、滑落停止訓練など、何もしないままホントに登って大丈夫なのか？
「大丈夫、なぜならそういう訓練が必要なコンディションだったら登らないから！」
って言われたんですが、この短い一文に全てが集約されていたんですね。
滑落停止訓練に関しては前述の通り。緩んだ雪では教科書通りの方法は通用しないので、練習しても意味が無いんですね。同じくアイゼンワークやピッケルワークのレクチャーが何一つなかったのも、雪質のせい。
「この雪質じゃねえ、ピッケルもアイゼンも見よう見まねで大丈夫なのよ。締まった雪質や凍結した雪壁とかだと、勿論アイゼンは前爪必須だし、歩き方や刃の立て方、ピッケルの打ち込み方など、滑落停止も含めてちゃんと訓練しないとダメさ。ダメというより、出来ないとそもそも登ることが出来ないのね。なので、そういう状況だったらアタックはしないので。不要な心配はしなくて大丈夫だから！」
と山行前に梅さんに何度も言われました。
もう一つ痛感したのは、雪山は夏山の岩場のような「時間をかけてでも安全に」が通用しない、ってこと。下山時に思い知りました。どういうことかと言うと、気象の変化による雪質の変化、これなんですね。今回のアタックは北穂沢をピストンしましたが、午後2時を過ぎると北穂沢は日陰に。たったそれだけで緩んでいた雪がみるみる固くなってくる。表面がクラスト化する程度なら問題はありません。
例えば途中で急激に天候が悪化して気温が下がる、風が出てくる、などしたら。緩んだ雪が氷になってしまったら。前爪無しのアイゼンではどうにもできず、もしも下山時、インゼル近辺でこの状態に陥ったらもう降りることも登ることも出来ず、遭難確定ですよ。グローブは水が染みてビチャビチャだし、靴の中も濡れてる。気温低下と風に見舞われて凍傷確定ですわ。
今考えると恐ろしい。下山中、梅さんにやんわりと急かされたのはこれなんだ、と後で気付いた。時間をかけて安全に、を徹底していつまでも急斜面に張り付いていたら、天候が悪化した時点で装備的にもう、チェックメイトとなってしまう。滑っても怪我の心配が無い部分であれば、多少無理をしてでもスピードを上げて高度を下げる方が逆に安全だったのかも知れないね。
とまあ、思うことは沢山あるんですが、まとまりが無くなってきたのでこの辺で筆を置きます。
とにかく貴重な経験・体験だったのは間違いなく、これは正にプライスレス。普通だったら山岳会とかに入らなければ出来ないこと(勿論安全担保無視で自己責任、なら誰でもできますけど)なので、ホント梅さんには感謝感謝です。
もし来年もこの企画があるなら、自分は涸沢までで良いかなあ。絶景の雪景色を眺めながら酒を飲む、これだって最上級な贅沢には違いないですもの。雪山はそうね、もうやらないかなあ。行けても今の装備、縦走用のストレートシャフトのピッケルと前爪無しの10本爪アイゼンで対応可能なレベルの山限定かな。
■写真解説
�±疎�小屋と北穂高岳。空の色がすごい！
��復路は各々、自由に雪渓の上を下りて行きます。
��再び涸沢カールを振り返る。何て景色だ！また来ます。
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