謝らなくちゃならない。
誰に?それは母親に。
最近は、事務所にも人が行き来することが増えて、あまり顔を出さなくなってしまったけれど、僕の母親がたまに上京してきた時はお昼ご飯や夜ご飯を食べに行くようにしていた。
僕は、ラーメンには疎くて、詳しいことはあまりよくわからない。
僕が住む街でも有名なお店がいくつかあるみたいなんだけど
わざわざ並んで食べるようなことはなかったりする。
母親が数年前に上京して、一緒にお昼ご飯を食べようと街へ出かけた時の話。
家の近くのラーメン屋さんに入った。
僕は普通のラーメンを券売機で購入して、席へつく。
母親は、「どれにしよう?」と迷いながら券売機を見つめている。
二郎ラーメンには僕はいったことはないのだけれど、いろんな人から「あそこはすごい!」や「ここは一度、いってみた方がいい」と、男友達の間でそんな話を幾度も耳にした。
それでも、並ぶことや、あのヴィジュアルのすごさに、どこか抵抗を感じて、いまだ僕は二郎ラーメンヴァージンなのだけれど
世間ではそんな流行に乗って、インスパイア系ラーメンというのもたくさん出ているらしい。
「どれにしよう?」と迷っている母親は、「これにしよかな」と手を伸ばす。
その表示には「Gラーメン」と書いてあった。
僕は「Gラーメン」の意味がわからず、そのお店もインスパイア系の波に乗って
「おすすめはGラーメン!!」とうたっている。母親とは「おすすめ」に弱いものだ。
「迷ったら、おすすめを選択すれば間違いない生き物isおかん」だ
ほどなくして僕の所にラーメンが運ばれてきた。
僕は、いたってスタンダードなラーメンをすする。
味は間違いなくおいしい。
そして、老体に鞭を打って、上京する、そんな年頃でもおかしくない母親の前に
「へい、お待ち」と、鉢がカウンターに置かれた。
それは「Gラーメン」
いまにしておもうとあれが二郎ラーメンのインスパイア系といわれる、頭文字の二郎の二をとった「Gラーメン」ということだったんだね。
母親がいま、まさに食べようとしているラーメンは
息子の量をはるかに凌駕する、山のように守られたもやし、野菜、チャーシュー、ラーメンであった。
息子が並盛りのラーメンを食べて、母親が、その3倍くらい盛られたラーメン「Gラーメン」を親子横並びで食べる。
この世界のどこにいるというのだろう???
親子水入らずのたった一日。
息子が食べるラーメンの3倍以上のラーメンを食べる母親が。。。
母親は、いいひとだ。
文句も言わず、その鉢を受け取ると
「あたし、こんなに食べられへんから、あんた食べてくれるか??」
と、たべものを粗末にしてはいけませんとでも言いたげな困った表情で僕に助けを求めた。
そして、僕はいった
「いや、いいわ」
もし、僕が山手通り沿いの二郎ラーメンに並んで食べる日が来たら、ごめん。
あのとき、気づいてあげられなくて、と謝りたい。
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