それは、生まれながらと、嫌な体験のせいだった。
小学校のとき、同じクラスの体格の良い女子に何かといじめられた。
ひ弱で体力のない僕は、彼女の腕力にかなうわけなかった。
それから、女の子が嫌いになった。
関わりたくなかったし、考えたくもなかった。
中学生になると、次第に周りが色めき立つ。
女の子の本とか情報とか、男たちは必死にかき集め妄想を膨らまし、
すすんでる輩は実際に女子と付き合っていた。
僕は全然興味がなかった。
そんなことをしてるより、星の本を眺めている方が良かった。
次第に図書館に出入りするようになり、お気に入りの作家に夢中になった。
芥川龍之介とモーバッサンは僕のお気に入りの作家だった。そして、
マスターベーションのお供だった。
真面目に勉強したので、そこそこランクの良い高校に入れた。
バドミントンに惹かれていて、部活に入ったので、夕方の退屈さはなくなった。
もうその頃になると、自分の性癖をはっきりと自覚出来た。
ああ自分はゲイなんだと。
これから社会の異端児として生きていかなければならない。
その覚悟はまだ出来ていなかったけど。
二年の夏の部の合宿で、部の女子に告られた、びっくりした。
ごめん、しか言えなかった。
素直ないいコだったけど、自分には無理だった。
三年の夏休みで部活も終了し、受験勉強に集中した。
経済学部に入りたかった。
受験は難しかったけど、何とか合格した。
春、憧れの大学生活がスタート。七割が男子生徒で居心地が良かった。
とある昼休み。一人で過ごしていると、急に前に座っている男から声をかけられた。
すみません、そこのソース取ってもらえますか?
顔を上げた僕は、耳まで赤面してしまった。
向かい側に座っていた、仁科秀樹は、僕のどんぴしゃだったから。
いつも描き上げてた理想の人。
170cmくらいで、痩せていて手足が長い。
細くしなやかな髪はちょっとくせ毛。
涼しげな釣り目に小さな鼻と口。
もう僕は耳まで赤くなっているのに、相手は全然気付かずに、更に追い討ち。
隣に行っていい?
頷くと、やおらいい匂いがして彼が隣に座る。
いつも同じ時間の電車に乗ってない?
前からちょっと気になってて。
良かったら友達にならない?
ま、マジ!?
こんなことって。
それから、彼仁科秀樹は、僕と行動を共にするようになった。
みずみずしい果実は、まだ誰にも食べられてはいなかった。
僕の手で、大切に熟してあげたかった。
19の夏。
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