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2018年08月09日00:34

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なるみ

なるみ

深夜フォロー中、不意にシフト確認に現れた彼女に対し、俺としては人生稀に見るフレンドリー態勢で話し掛け、不慮の一致による会話が妙に長引き、なんだかお互いに笑顔の会話が続く中、あおきんぐの

『てぃーのさん、その人、知ってたんですか?』

という言葉で自信たっぷりに答えた言葉が、

『前に一緒にシフトしたじゃん。ちーたすでしょ?』

…だった。
もちろん、なるみは

『いえいえいえ、違います! なるみって言います!』

うん。人違い。これまた人生稀に見る凄い勘違い。

寒い冬の夜空を背景に駅から徒歩で来たなるみの姿は、完全防寒の目だけ出した姿。雰囲気や仕草からちーたすを感じた俺が近くに居た事もあり、一声のつもりが変に弾む会話となったようだ。

問題はお互いに初対面。勘違いとはいえどうしてか話が弾み、しかも一致した内容が続くのかを離れた位置から確認するあおきんぐの目には、さぞや異様な光景に見えた事だろう。

当時俺は深夜フォロー。そしてなるみは午前から午後にかけたシフト体制なので、当然俺たちが顔を合わせる事はなく、時間に自由の利いたあおきんぐだけが間接的に2人とも知る事が出来た話だった。

『ちぃとは幼馴染なんですよ。ちぃは元気ですか?』

初対面のなるみの最後の言葉だ。
ナルホド、幼馴染か。身振り素振りが似ていた筈だ。…非常に恥ずかしかった。きっと赤面していた事だろう。

そんな出逢い。ビックリ。


さて、なるみと実際にシフトを組んだのはそれからだいぶ時間が経過した頃の話だった。
それまで深夜帯と昼帯の異なりはあったが、なるみの基本は土日に集中した勤務形態だったらしく、金土と深夜業務を荒川沖店で行わなかった俺は彼女とすれ違いまくりの日常を過ごしており、シフト表の彼女の名字は『名前だけの存在』と言っても過言ではなかった状態だ。

そんな状況の中の初めてのシフトかぶり。いつぞやの穏やかな朝。

なる:『おはようございます! お久し振りです!』
てぃ:『……? お、おはよう…ございます?』

すごくにこやかに、元気そうな人が来たんですけど…?

第一印象は…『ベティーブープ』を人間化したような、そんなのがロングヘアーになった感じだ。
そんでもって、………こう言っちゃなんだが、運動関係には凄く縁がなさそうで、色々な意味でトロそうだ…。

『「あんたって走れるんだ…」って言われた事あります』
いつの日か、なるみ本人が笑顔で言った、彼女のかつてのクラスメイトの言葉が今なお印象深い。

ま…まあいい。とにかく今は確認が最優先。こちらを知っているような素振りなのに名前も呼べないんじゃ失礼極まりない。
彼女が前方に赴いた隙にシフト表をこっそり確認…。ああ、今日は名前だけの存在の人だったか。えーと…『お久し振り』…? 

言葉からすると既に面識があったような素振りだったので、失礼の無いように声を掛けて誰なのか様子を窺う事に。

てぃ:『えっと、スガヤさん?』
なる:『違いますよ、漢字をよく見て下さいよ』
はい、さっそく1ミス。

シフト表を見ていたのはバレていたらしい。え〜っと、あ、ホントだ。タケカンムリじゃないや。

てぃ:『カン…? って読むの?』
なる:『そうですよ。よく間違えられるんですよ』
『カン』…そうか、姐さんやおっとり調ママさんがいつも言っている『かんちゃん』って、この子の事だったのかぁ。…などと一人で納得。

なる:『…ていうか、てぃーのさん、あたしの事、覚えてないでしょう?』

ぎくっ…。2ミス。バレてら…。
でもおかしいなぁ、こんなに特徴だらけの人を忘れるなんて変な話だ。
記憶の引き出しをひそかに漁る俺。…するとあおきんぐの姿が…?
…あ、思い出した。真冬のちーたすと勘違いした人だ!
そんで、どんな事言ったか覚えていないけど、最終的には

なる:『正解です!』
との言葉を頂けた。ぅ判るかいっ! 目しか見た事無いぞ! しかも前回から何カ月ぶりなんだ?

こんな再会。ビックリ。

なるみの作業性はもともと昼帯ではない俺が口を挟む所じゃないが、姐さんやおっとり調ママさんのような騒々しさが無く、至って明るい女の子というイメージ。可も無く不可も無くと言えばいいのか、ちーたすと比較すれば、これまた別の意味で掴みどころが少なく感じ、見た感じから想像する性格から、どうして2人が幼馴染として付き合っていたのかも疑問に思うほどに接点が見つからない。強いて言えば仕草が似ているところか?

何というか、俺の『出逢い』には無かった類という事はすぐに理解できた。漫画の世界のキャラクタをイメージしたまま湧かせて降らせたような人柄だ。
故に俺の目線では笑顔の絶えないなるみという印象がすぐに芽生え、想像に難くない笑顔の人生の人なんだな、なんて考えに至るのも時間は掛からなかった。

しかし、3ミス。
そろそろ同じシフトに慣れて来た『笑顔のなるみ』に凄まじい変化。
『般若(はんにゃ)のなるみ』!? 『鬼神のなるみ』!?
この現象の少し前にもたばちで経験したが、普段から笑顔を絶やさない人物が怒った表情をすると、それこそ心臓に悪い驚きを隠せない。驚きというより恐怖の一言だ。無言でこちらに目を合わせられれば無条件で謝ってしまいそうな怖さがそこにはあった。

早い話がなるみ目的で入店していた男性客が居た訳だが、率直にはなるみにとって嫌な相手だったらしい。

接客を切り替わり、俺が相手すれば男性客があからさまに怒りの無言になるし。
でもまぁ、中途半端な笑顔を振りまいて勘違いさせるよりは効果的な振り払い方ではあるとも思う。俺はいい犠牲者だがな…。

以後、その男性客が来る度に輝かしい程の瞬間的な交代を見せ、飲食中には極力バックに2人で籠り、必要以上の明るい声できゃっきゃとレクチャーするフリを披露。もンの凄い外からの視線…。
それでも、いつの頃からかその男性客は姿を見せなくなった。


なるみと本格的に意気投合したのはその少し後と覚えている。
朝、無意識に歌っていた所を聞かれていたらしく、そのタイトルやアーティスト名を言い当てられ、年齢差の割にはマニアックだね、なんて話していたら、彼女の父親が俺と同世代との事だった。

そんな話を皮切りに、出るわ出るわ共通点。何故かなるみの父親との共通点ではなく、なるみ本人との共通点が。どして?

さんざん話して共通点ついでにあっちこっち行こう! なんて話になって、内心で付き合いのいい人なんだなぁ。…と、結果的に社交辞令じみた何かを感じつつも、時間の経過と共にお互いの会話は弾んでいった。

でも、時間を挟んだ後ほど、なるみから催促があったのは正直嬉しかった。あれだこれだと話した内容も多く、どれを指しているんだろうと疑問に思いつつ答えを待つと、なんと全部!

こりゃすげぇ。こんな催促も初めてだ。どこかで丸一日を消費してもらう覚悟で日程を組まなければと思いつつも、やはり自分の性格には逆らえなかった。気にしつつも時間ばかりが流れ行く。
ほい、4ミス。


いつの日か、やや干からびたmgrからなるみの話を聞いた。
なんでも興味ある方向だけに向き、興味ない方向にはまったく向かないという極端な性格らしい。つまりは中性的な付き合いをする事が無く、どちらに傾いても100%の好き嫌いを表し、行動面に出てしまうとか。

ふーん、100%ねぇ…。なんて、実感の湧かない確率を考え、同時にかつての男性客の扱いを思い出した。…なんか納得。

そんでやや干からびたmgrの言葉。

『どうやら僕は嫌われているようなんですよねぇ…』

彼に対する周囲の女性陣の言葉が脳裏に立ち上がる。…なんか納得。…で、この場合はなるみの話だから、100%嫌われている…ということか。2人が同時に作業している所見た事無いから何とも想像すら出来ないけど、取り敢えずはご愁傷様です。

という事は、俺は好かれている方か。良かった。『対・嫌いな人表情』みたいな感じのなるみと一緒に作業なんか出来やしない。コワコワ。


そういったなるみを一度だけ、一瞬だけ本気モードにさせた事がある。
明らかにミス。5ミスだ。

お題はサンリオについて。
お互いにサンリオ好きが発覚した訳だが、俺の一般客としての好きとは異なり、なるみの場合は真髄までの神秘に対する理解と知識めいた『サンリオ歴史の軌跡』に迫りきった勢いの好きなのだ。
その辺で拾ったような浅知恵なんかではとても対抗できない知識をなるみは有しており、この会話の全ては終始なるみの気迫に押されまくっていた。軽くジャブを放てばダンプカーで突っ込んでくる。そんな勢いだ。とにかく良い機会と睨んだのか、俺に『サンリオの全て』を時間の限り叩き込む叩き込む。
人に物事を教わる中で、例えようも無い不安と恐怖を感じたのは今のところこの時が最初で最後だ。鬼気迫るといった表現が最適だろう。それでも内容は『可愛いサンリオ』。


学校が忙しくなってすき屋を離れるクルーは多いが、それはどうしようもない。
人様の目標に対して当然口なんて挟める筈がなく、俺たち残される側に出来る事は、そんな人たちにガンバレのエールを送る事くらいが関の山で実際にそうしてきたわけだが、なるみは忽然と姿を消してしまった。

唐突の別れとはよくあるもので、会話回数、理解度が低い相手ほどその確率は増える傾向にあり、反面、浅い付き合いだからこそ心に残る残念感が少ない事は何よりの救いだ。
しかし、なるみの場合は少なくとも浅い付き合いの類には入らず、何一つニュアンスを漂わせる事無く消えてしまった相手だった。一言にショックだった。

唯一の『気配』を感じた場面はシフトの穴埋めに珍しく応答しなかったメールでのやりとりだ。いつもならどんなに遅くとも必ず返答に応じる彼女の筈だが、何日経っても返事が来ない時には『珍しい事もあるんだな』とは思った。
…が、こちらからでは察知できない忙しさがあるのだろうと思うとしつこいメールもなんだからという気持ちが湧き、同じ内容のメールは控えていた記憶がある。

しかし、更に数週間経つとシフト表から彼女の名前が削除されている事に気付き、偶然居合わせたやや干からびたmgrに尋ねると、これまた引っかかる答えが返ってきた。

『実は、数週間前から連絡があって、既に決まっていた事なんですよ』

いつものやや干からびたmgrからの口調ではない告白。
『実は』とか『既に』とはどういった事か? 決まっていた内容に関してなるみの欄が数週間、シフト表に設けられていたのはどういった理由だったのか?
一番の疑問は、誰かが退職すると決定する度に『困った』と自ら口を割るやや干からびたmgrだが、なるみに関しては何一つ発する言葉は無かった事だ。

極端に好き嫌いを振り分けるなるみ。退職を決意した時の俺への対応はどういった心境からか? やや干からびたmgrに強い口止めを施したのか、それとも根本的に俺を嫌っていたのか…? 極端な対応の彼女であるからこそ、こちらとしては未だ解決し切れない一つの問題でもある。
真相はどちらに?

そんな別れ。やっぱりビックリ。


てぃーのの視野

誰でも何かしらの目標を持ち、不安定な未来に向けてひた走る時期というものは存在する。
未来には確実性が無く、そして歪み易い。
試験や実施が良くても定員という存在が希望を打ち砕き、挫折を味わう暇すら無く第二案へとレベルを下げても助走を付け始めなければ、次の未来が遠退く。
いまどきの社会とはそんなものだ。

社会が言葉で言うほど希望は無く、社会が期待感を持ち上げられるほど可能性なんて存在しない。おまけに暮らすには難しい所得配分。

少ない確実な路線は『希望』と『努力』に付属した『結果』と、それ以前に消費する『金銭』。
全てをクリアした勝者には『定員数』が待ち構え、それさえもクリアした人物に対し、今度は『過度な期待』と『下降を許さない業績』が待ち構える。

エリート階級ほど、生半可な気持ちでは登りきる事が出来ない絶壁同然の坂道を走り続けるためには、一切の情をある方面で切り捨てる覚悟が必要不可欠という話だ。

そしてそれは、そのフィールドに滞在する限り続けなければならない。
もちろん、滞在時間に慣れが生じれば、その考えを緩和させる事は可能だが、その場へ到達するには短い期間ではないだろう。

自らを思いの限り醸し出す。という意味ではなるみは凄く強く、そして正直だと思う。
どこまでも正直であるからこそ、理想の為に理想そのものを守り、周囲の不必要をバッサリ捨てる事が出来る。そんな行為に苦痛を感じる人間は理想への到達は難しく、夢なんて遠のく一方だろう。

例えば俺。
俺は夢を持つと同時に様々な分野の何かを守ろうとしていた。

その為に時間が制約され、夢への方角と言う名の集中力が常に分散していた。その結果が何一つ叶えられなかった今現在だと思うが、それでも出版社に目を掛けられるなど、『無名の一般人』としてはなかなかな分野までは進めた方だろうと思ってもいる。

でも、それではダメという結果をリアルタイムで知らされ、過去の行動の甘さが死ぬまで続く痛感となり、現在に至る。
基本的に夢の達成の近道は『わがままであり、どん欲でなければいけない』のだ。

こういった思いを続けるならば、初めから夢なんか持つべきではなかったと考える時も確かにあるが、もともと夢も希望も持たなかった、というよりは、そういった方面に無頓着な性格だった事も自分が一番理解している訳で、そんな場合を考えれば、今現在とは全く異なった方面でのろくでもない日々を送っていた事だろう。
そういった意味では『夢』や『目標』というものは、確かに持たないよりは持っていた方が良く感じられ、どうせ持つならそちらに向かって動くべき存在と言うか、表現であるものと考える。

なるみは俺にとって強烈な刺激だった。
夢を語るなるみには達成した場合の『生活、人間関係、金銭、名誉、商品開発、願望』など、目的になるような話が一切含まれず、行動概念の全ては正真正銘『サンリオが好き』という本心から突き進んでいるに違いなかった。

夢が達成できるならば、その可能性が広がるならば、その他の『大切』を躊躇い無く捨てる事が出来るのがなるみだろう。
そんな彼女の行動を批難する人物も存在するのだろうが、そんな事を気にするようでは夢への到達なんてまず不可能だ。
ただでさえ有名処、そして現代の狭い門。非情に成り切らなければその門すら目にする事が出来ない。

達成の瞬間になるみが感じる喜びはそんなに高くなく、同時に大きくもないと思われる。何故なら、そこから初めて目的を作る彼女に心底から笑う余裕がない筈だから。

その一方で、失敗した場合のショックは絶大だろう。それだけの為に突き進んだなるみの手持ちとは、すなわちそれ以外に何も無い事を意味する。

でも『予備案』『滑り止め』をも準備しないその行動の結末は、以後のどんな失敗も恐れない強い心を育て切っている事だろう。一時の迷いはあるかも知れないが、回復は早く、次なる目標への行動も早いだろう。

『なるみは強い』

既にねじ曲がってしまったモノではあるが、同じ『夢』というカテゴリを可能な限り、未だに守り続ける俺から言える言葉といえば、その一言に尽きる。

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