mixiユーザー(id:3808888)

2018年05月27日22:05

598 view

プーシキン美術館展 ー 旅するフランス風景画

日中は夏のような日差しでしたが、さすがにまだ5月、爽やかな風が吹く金曜日の夕方、上野の東京都美術館に「プーシキン美術館展」を観に行ってきました。(備忘メモを兼ねているため長くなってしまっています・・・)

フォト


フォト


本展覧会はモスクワのプーシキン美術館が所蔵する17世紀から20世紀までのフランス風景画を通して、時代とともに変化して行く風景画の位置付けや価値、内容と影響し合う画家たちの姿を紹介するもので、7/8までの東京展の後、中之島の国立国際美術館に巡回し、10/14まで展示を行う予定となっています。

気になった作品と個人的な感想を幾つか・・・(番号は掲出作品番号、★は実際の絵にインパクトがあり、特に気に入ったものです)

第1章 近代風景画の源流
1. ロラン「エウロペの掠奪」 神話の背景として描かれた風景ですが、波立つ濃紺の海や
 繊細な木々、帆船などが豊かなコントラストで表現されています。
9. ブーシェ「農場」 古びた農家の何でもない日常の風景が、優しいタッチと豊かな色彩
 で描かれた心に残る作品。ロココ調の繊細さもあり、ちょっとジブリ的な感じがしま
 す。
10. 11. ヴェルネ「日の出」「日没」 傾いた陽が造り出す独特の雰囲気に、それぞれ”出
 航“”帰航“のシーン重ね、美しく情感を表現しています。特に夕刻の「帰航」の描写は
 心に迫るものがあります。
13. ロベール「水に囲まれた神殿」 実際は廃墟となった神殿をモデルに壮年の姿を”理想
 “の風景として描く。見たままではなく、印象や記憶、理想に基づく為か絵ハガキ的な
 仕上がりに感じます。
★16. ドゥマルヌ「街道沿いの農場」 真っ直ぐに伸びる石畳の街道、その道々に人々の
 生活があり、家畜が生きる。動物画家というジャンルにも驚きですが、その描写の素晴
 らしさにも驚きです。

第2章 自然への賛美
★19. コワニエ(風景担当)ブラスカザット(動物担当)「牛のいる風景」 2人の画家
 がそれぞれの得意分野を担当し一枚の絵を完成させたもの。鮮やかな色使い、動物の正
 確な描写、絵ハガキ的な配置がしっくりと印象に残る画を完成させています。好きで
 す。コレ!
21. コロー「夕暮れ」 既に夕闇に沈む手前の坂を登り切って仰ぎ見た西の空の夕焼けに
 見とれているような2人。小さく描かれた彼らの体もほんの少し残照を反映して暗がり
 にインパクトを与えています。自分も以前にこのシーンを経験したような錯覚さえ感じ
 ます。欲しいです。
★23. クールベ「水車小屋」 独特の厚く荒々しいタッチで描かれた水車と水の流れから
 は見る者を圧倒する強い力(解説では自然への畏敬の念)を感じますが、私には何の力
 なのかは分かりませんでした。とにかく圧倒されるのです。
26. レルミット「刈り入れをする人」 頭を垂れた麦の刈り入れを2人の女性がしてい
 る。その先の丘陵に続く森や畑、青空と雲はややぼやかした描写で手前の農作業を引き
 立たせます。これもなんとも懐かしいようなリビングに一枚欲しい絵です。

第3章 大都市パリの風景画
27. ルノワール「庭にて、ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰」 彼の代表作「ムーラ
 ン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」の準備段階で描かれた作品。テーブルでおしゃべり
 に興じる男女。日傘を閉じて輪に加わる女性(モデル:ニニ)、日向は少し暑く、日陰
 は心地良く、皆さん少しアルコールも入り?楽しげです。
★28. ロワール「パリ環状鉄道の煙」 画の大きさと圧倒的な臨場感で話題になっている
 一枚。グレー中心のモノトーンで描かれているのに、蒸気機関の煙の合間に見える馬や
 労働者、通行人などの登場人物が立体的に配置され、まるで自分が絵の中に入り込み、
 130年前を旅しているかのような感覚に襲われます。(ネット上では「VRみたい」と
 評判の絵)
★30. ラファエリ「サン・ミシェル大通り」 雨上がりの夕刻、パリ大改造で変わり行く
 街と人々、そして変わらないもの(パンテオン)を捉えた作品。流れるような縦の線と
 横の線で描かれた街の風景の間を急ぎ足の人々が行き交っています。良いバランスの絵
 です。
★32. コルテス「夜のパリ」 ガス灯に替わり電灯が拡がった時代、街灯が点く直前の夕
 闇に浮かび上がるショーウインドウが美しい作品。技術革新によって生まれた風景が“
 たまらない“ 郷愁を誘うという一見アイロニカルな光景ですが、コルテスは街をを歩き
 ながらこの光景に出くわし、「おっ、コレいいね!」と言って描き始めたのかもしれま
 せん。なんとなく、この絵に既視感があったのですが、5年前(2013年9月)のプーシ
 キン美術館展(横浜美術館)で観た、ルイジ・ロワール「夜明けのパリ」にちょっと似
 てますね。どちらも人の顔はのっぺらぼうだし。。

第4章 パリ近郊―身近な自然へのまなざし
★36. モネ「草上の昼食」 初来日の本展覧会の目玉作品。実は私、この作品の実物を見
 る前(展覧会のチラシやwebなどを見た段階)は「正直、騒ぎすぎでは?名前負けで
 は?」などと恐れ多くも勘繰っていて、これが会期が始まってもなかなか足が向かない
 一因でもありました。しかし、一旦実物を見にすると・・・印刷物や画面の絵とは完全
 に別物で、半逆光に透き通る若葉のきらめき、光が落ちる地表や集う人一人一人の顔や
 ドレスへの反映が、まるで自分が光に包まれ打ち抜かれているように心に響きました。
 「これぞ実物(本物)の力なんだな」と反省しつつ強く思いました。
38. モネ「ジヴェルニーの積みわら」 光の移ろいをテーマに、時に連作で描かれ、世界
 に25の作品がある「積みわら」。過去の展覧会で何度も呆然と絵の前で立ち尽くした
 大好きな作品です。ただ、この「積みわら」は、私が見慣れたものとはちょっと違った
 「積みわら」で、特有の“三角ぼうし”がないずんぐりしたタイプ(説明によると脱穀前
 と後の違いのとの事)でした。そんな訳で、今回は呆然とせず、冷静に光と影を観察で
 きました。
40. シスレー「霜の降りる朝、ルーヴシエンヌ」霜を踏んで歩く音が聞こえそうな凜と
 張り詰めた空気を朝日が溶かさんとする“一瞬”を捉えた作品。

第5章 南へ−新たな光と風景
54. セザンヌ「サント=ヴィクトワール山、レ・オーヴからの眺め」 繰り返し描かれた
 ヴィクトワール山がモチーフの作品で最晩年の一つ。幾何学的な絵から立ち上がってく
 る迫力は自然の見えない力を表現しているように感じます。初期のものとは一線を画す
 る印象深い作品です。
55. ボナール「夏、ダンス」 ほのぼのとする場面を切り取ったような絵なのですが、な
 んとなく浮き世離れしていて、ダンスに興じる子供たちを含め、黒いドレスの女性以外
 はこの世にはいない者のような感覚を覚えます。何故かは説明できません。。
59. ヴォルタ「アンテオールの海」

第6章 海を渡って/想像の世界
61. ゴーガン「マタモエ、孔雀のいる風景」 文明化した自己の否定を死(マタモエ)と
 捉え、野生の人として生まれ変わったゴーガンのタヒチ生活初期の作品。本展では1作
 品のみの展示でしたが、以前竹橋の「ゴーギャン展」で当時多少情緒不安定であった自
 分と彼を重ね、深く静かに感動した事を思い出しました。
63. ルソー「馬を襲うジャガー」街の植物園しか行ったことの無いルソーが想像で描い
 たジャングル。ジャングルに馬がいるのか定かではありませんが、最早それは関係ない
 かのように自在な夢の世界が秒にリアルに迫ります。彼の作品をもっとたくさん観たい
 です。

図録は絵画面が光沢紙では(当然)ありませんが、見易い構成と豊富な情報で満足できるものでした。ブックカバーも何パターンかありましたが、私はコワニエとブラスカザットによる「牛のいる風景」のものにしました。(この絵好きです!)
また、話題の水谷豊さんによる音声ガイドも「相棒」の謎解きのようで難しいニュアンスの説明もすんなり入って来るように感じました。
18時過ぎから20時では時間が著しく不足し、後半はかなり端折り、良かった作品の見返しもできず、音声ガイドのオプション部分も聴く事ができませんでしたので、チャンスがあればもう一度、見に行きたいと思っています。

フォト


フォト


フォト


フォト


(アジサイは近所のものです)


4 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する