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2018年04月06日00:08

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逆選択という視点で大道芸界を捉えてみる

今日の投稿は長文ですがご了承ください。

おそらくは10年以上前からだと思うのですが、実力のある大道芸人が高めの価格を提示して仕事を決めることができず、あまり上手でない安価な人に流れてしまい、価格の下落傾向が続いているという現状は確かに存在していると思います。

ただ、僕は業界の空気を察する気など全くないので言いますが、この現象に対する処方として、よくベテランの大道芸人が「若手やアマチュアが安い値段でうけるのが問題で、全員が一定以上の価格にすればよい」という主張をするのですが、この主張には長年違和感があり、どうも経済学的に考えれば正しくないのではないかと思っています。問題の本質は経済学でいう「逆選択」なのではないかというのが自分の意見です。

大道芸人にお金を払って呼ぶ側の人(たとえば自治会の役員や幼稚園の保護者会の人、ショッピングモールの企画担当者など)は、予算の制約内で、自分たちが求めるものに対して高い水準で満たしてくれる人には高い価格を払ってもよく、そこそこの人には安い価格で済ませたいと思っているのは、疑いの余地はほとんどないです。それぞれの大道芸人の質がどのレベルなのか呼ぶ側の人が的確に把握できれば、値段に見合う質の人を呼ぶことが可能です。ところが、大道芸人はよほどの馬鹿でない限り自分の実力は把握してますが(京都にはまるで把握できないよほどの人もいますが…)、大道芸人を呼ぶ側の人は実際には誰がどのレベルかはほとんどの人はわかりませんよね。そうなると質に対する期待が形成できなくなるので、結果として安い方を選んでしまうのではないかと思います。

この状況は、情報の非対称性による逆選択という現象と一致します。売り手と買い手の間に保持する情報量の格差がある場合(情報の非対称性が存在する)に、質の高くないものが市場に残ってしまう現象を逆選択と言います。ミクロ経済学の教科書には必ず載っている内容ですね。

逆選択に対する処方は、情報の非対称性を緩和することで、「シグナリング」などいくつかの方法があることが理論的にも整理されています。シグナリングというのは自ら費用をかけて質に関する情報を発信することで、労働市場における学歴がよく例としてあげられます。労働者を採用する際に個々の応募者の質を見抜くのは至難の業ですが、応募者側で学歴を知らせることで、受験勉強を乗り越えられるだけの勤勉な人だとアピールすることができます。このように書くと学歴が本当に能力を示しているか疑問に思う方もいると思います。実際にシグナリングが機能するための条件もいくつかありますが、詳細は割愛します。

このように考えてみると、大道芸人が高い価格で仕事を決めたければ、それに見合う質を備えているという情報を消費者に確実に信用してもらえる形で周知する自助努力をすることが現時点では一番の処方であり、決して全員が横並びで同じ価格にすることではないのです。横並びにしたところで情報の非対称性が解消しなければ、予算が大道芸からキッズダンスやビンゴ大会、カラオケ大会に流れていくのが関の山です。

大道芸の世界ではフェスティバルやライセンスは第三者による審査がありますので、合格した実績は質に関するシグナルになりうるのですが、呼ぶ側の人がそのことを知らないのが現状ですので、業界全体でどうブランディングしていくのかも課題になってきますね。

自分のことで恐縮ですが、自分はここ数年平均単価を上げつつ仕事を増やせています。どのようなシグナルが消費者に信用してもらえるか探索しながら情報発信しているのも要因の1つかと思います。質を上げることと、質を担保するシグナルを発信することは芸人の自助努力だと思いますので、周りのせいにせず頑張っていきたいものです。
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