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2018年02月18日19:40

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映画 ”ベロニカとの記憶”


”ベロニカとの記憶”

久しぶりに父と映画。
ドイツ関連の仕事をしていた父なのでドイツ映画”はじめてのおもてなし”を誘うと、
なんと先月一人で見てしまったとのこと。
しかも二時間四十分の長尺大林監督”花筐”もその日にはしごしたとのこと。
85歳、元気で、好奇心旺盛で何よりです。
ということで、父の好きなシャーロット・ランプリングが出ている映画を見ることに。


ロンドン、バツイチ60歳のトニー、
仕事を引退後、趣味の中古カメラの店を営み、元妻とたまに食事をし、
シングルマザーの道を選んだ一人娘の妊婦教室に忙しい元妻の代わりに渋々参加したり、
そんな老後の静かな日々。
ある日、彼に見知らぬ弁護士から手紙が届く。
あなたに日記を遺した女性がいると。
その女性とは、40年も前の初恋の人ベロニカの母親だった。
遺品の日記はトニーの学生時代の親友エイドリアンのものだった。
何故、ベロニカの母親の元にその日記があったのか?
そこには一体何が書かれているのか?
長い間忘れていた青春時代の記憶、若くして自殺したエイドリアン、
初恋の秘密ーー。
ベロニカとの再会を果たすことにより、トニーの記憶は大きく揺らぎ始まる、、、。
過去の謎が明らかになったとき、トニーは人生の真実を知ることになる。
(公式HPにちょい加筆)

初恋の女性と自殺した親友をめぐる謎をたどる過程でわかる、
若い頃の自分の過ちをいつのまにか美しい思い出にしてしまう無意識のエゴ、
そこに元妻や娘との邂逅、初恋相手と会う戸惑いとワクワク(その後の執着も)、
古い学友との再会の喜び、老いての生き方といった
中年以上の人ならば誰もが身近に感じるテーマが上手く絡まった、
ただのミステリーに終わらない、味わいのある作品でした。

映画は、トニーが弁護士と会い、さらには老いたベロニカに会いに行き、
真実を追求する現在と、
トニーの記憶の中にある学生時代のエイドリアンや学友との楽しい日々、
そして初恋相手のベロニカとの出会いから彼女の実家に遊びに行き
母親に会った思い出、ほろ苦い失恋といった過去が
ゆっくりとしたテンポ(元妻や妊婦の娘とのやり取りもはさみ)で
行ったり来たりして謎解きが進んでいきます。
そしてベロニカや学友との再会で彼らとの会話から自分の記憶が間違いで、
ベロニカとエイドリアンに辛いを思いをさせてしまっていたことに気づき始める
とこから緊張感がどんどん増していきます。
そして、ついに衝撃の真実が。
その辺り、現在のトニーが学生時代の回想の中に現れたり、
トニーの混乱ぶりが上手く演出されてます。

自分の過去の愚かな行いと勘違い、
そしてそれらがなかったことと記憶に蓋をして信じ込んでいたこと、
その愚かさは形を変えて自らの家庭をも壊してしまっているし、
そんな数々の後悔がトニーに重くのしかかります。
トニーのちょっとした嫉妬心、自分の過去をいい方に変えてしまう記憶、
これは誰にでもあることです。私も学生時代の友人と会った時に、
俺、そんなこと言ってたっけ? そんなことしたっけ?ということが多々あります。
それだけにトニーの苦悩が他人事のように思えず、胸に迫ってきました。

映画の冒頭、学生時代の歴史の授業でヘンリー八世の戦争が取り上げられます。
エイドリアンは教師に対し、過去を調べても真実はわからないし、
勝った方、生き残った方の都合のいい解釈になる、と反論します。
結局はこれがまさに映画全体を連抜くテーマでした。
だから、老いたベロニカが話した真実、トニーが思い出しこと、
トニーが元妻に話したこと、映画で語られたことのどこまで信用していいのか、
映画が見終わった後、一度は納得したものの、
いろいろな疑念が湧いてきて、そういう意味でも深く考えさせる作品でした。

謎解きものですが、終始張り詰めた雰囲気ではなく、
トニーも特に性格が悪いわけでもなく、イギリス人らしいジョークも話すし、
学友と再会して昔の授業の話で盛り上がったり(先生のモノマネ)や
フェイスブックを始めて子供のように喜んだり、
元妻に”俺たちなんで別れたんだっけ?”と真顔で聞いたり(忘れっっぽい、というか
他人の気持ちに少し無頓着)、
妊婦教室では娘をほっといて他の妊婦と仲良くなったり、
娘の最初の陣痛の時でもベロニカとの久しぶりの再会で心ここに在らずだったり、
ベロニカに会ったら会ったで、家を突き止めようとストーカー的に追跡したり、
話ために待ち伏せしたり、
そういったユーモラスな場面もあり、上手く緩急がつけられています。

そして最後は、ちょっとした感動する出来事があって、
元妻や娘にそしてベロニカに対して、
遅いかもしれないが、もう少し誠実に生きることを示唆する終わり方になっており、
静かな感動を覚えます。 
郵便配達人とのエピソードも良かったし。

シャーロット・ランプリング、やっぱり歳はとっても、
長年の苦悩を背負った、それでいて凛とした、すごく存在感のある演技でした。
父がファンになったのは40年以上前の映画”愛の嵐”、
アウシュビッツ収容所でナチスの将校とその捕虜という関係だったユダヤ人少女が
戦後に再会する映画で、ナチスの帽子をかぶり上半身裸にサスペンダーという
彼女の姿が衝撃的な作品でした。
そして、その時と同じように今回も運命に翻弄された女性が似合っていました。
ベロニカの若い時代を演じた女優も謎めいていて、
男を振り回すキャラを上手く演じていました。
もちろんトニー役も、どこにでもそうな欠点も含めて人間らしいイギリスの老人を
時には軽く、時には深刻に演じ分けてました。
個人的には自分が19年乗り続けているイギリスの大衆車ROVER200が、
一瞬映っていたのが嬉しかったです。しかも同じブリティッシュレーシンググリーン!
イギリスでもこんな古い車を乗り続けてる人は少ないから、なかなか貴重。
 
原作はイギリスの有名文学賞であるブッカー賞を獲った”終わりの感覚”
そして監督はインド人のリテーシュ・バトラという、2年ほど前に
”めぐり合わせのお弁当”という評判の良かった作品を撮ったお人。
名作と期待の新鋭監督の演出が上手く組み合わさってました。

過去は変えられないし、過去の真相を知ることは難しい。
だからと言って自分に都合のいい勝手な憶測を信じ込んでもいけない。
ただ、客観的に過去を振り返り、先入観を持たずいろんな意見に耳を傾ける。
その努力はしなければいけない、個人の過去であっても、国の過去であっても。
そしてそこに過ちがあれば反省し、許し、
そこからまた自分の生き方を正しいものへと変えていく努力をしなければいけない。
”ベロニカとの記憶”をたどることで、真実に出会い、
六十歳を超えたトニーがやり直そうと誓ったように。

歳をとっても過去を省みることに遅すぎることはない、
歴史すなわち過去は未来のための授業なのだから。
そう思わせてくれる、ただのミステリーに終わらない、
少しのユーモアと示唆に富んだいい映画でした。


https://www.youtube.com/watch?v=QsApjdZwXoM


”愛の嵐” シャーロット・ランプリング、44年前の衝撃の出世作。
28歳、美しい!
https://www.youtube.com/watch?v=CtLf_-9nXUs



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