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2018年02月13日23:25

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苦学生がゆく

僕が大学生の時、みんなから“鴎外”と呼ばれている友人がいた。

誰かが彼のことを「森鴎外の小説に出て来そうな奴だ」と言ったことがあって、いつの間にか彼の呼び名は“鴎外”になっていた。

彼は変わった男だった。

住んでいるアパートは駅から歩いて30分くらいかかって、しかもアパートに向かって長い上り坂になっていて、特に最後の約100mに至っては大変な急勾配だった。

坂の上のアパートは築何十年なのかわからないけど、見た目にもボロくて、しかも炊事場、トイレ、風呂場は共同だった。

何故そんなアパートに住んでいるのか聞くと、彼は「だってね、キミ、ここは家賃がね、2万円なんだよ」と嬉しそうに答えてくれた。

彼は昔で言うところの“苦学生”と言う奴だった。

兎に角お金がなかったのだ。

彼が奨学金をもらっていると知ったのは、彼と知り合って2年くらい経ってからだった。

毎月どのくらい支給されるのか聞くと「最低限しか借りない、だって返せる保証はないからね?」と彼は言った。

「最高額まで借りると毎月4万円も返済しないといけない、それが20年も続くのだよ」、と。

大学を卒業した先輩がクルマを買って確か毎月6万円のローンを払っていると言っていたので、毎月4万円の返済が非現実的な金額と僕には思えなかった。

そんな僕の考えを見透かしたのか鴎外は「けれどね、キミ、考えてもみたまえ、家賃6万円の部屋に住んでたら奨学金と合わせて毎月10万円の支払いだよ、初任給が20万円としたら、いろいろ引かれて手取りは15万円くらいだろうから、手元に5万円しか残らない、これでは貯金もままならないじゃないか」と言った。

「奨学金なんて言うけどね、実際は言い方を変えただけの単なる『借金』なんだよ、だから私は奨学金を申請する時に最低限しか借りないことにしたのだよ」

僕が奨学金を申請する立場だったら、どうしただろう?と思った。

高校生の頃の僕は何にも考えてなかった、もしかしたら毎月4万円くらい楽勝だと思ったかも知れない、自分でお金を稼いだこともないくせに。

僕は鴎外が奨学金を申請する時に、そこまで考えていたことに驚いたのだった。

僕や鴎外が大学生だった頃とは、すっかり時代は変わってしまったけど、今の高校生は大学に行く奨学金を申請する時、鴎外くらい返済のことを考えてるのだろうか?

是非とも考えて欲しいと思うのだ、将来の自分のために。

あれから20数年が過ぎた。

ひさしぶりに会った鴎外は、従業員3人を抱える会社の社長になっていた。

今どんなところに住んでるのか聞くと「今の部屋はね、キミ、なんとキッチンとバスルームとトイレが付いているのだよ」と嬉しそうに答えたのだった。

いや、それ、普通だから。

■奨学金破産、過去5年で延べ1万5千人 親子連鎖広がる
(朝日新聞デジタル - 02月12日 05:16)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=4982963
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