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2018年01月20日22:41

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「イスラーム国」の壊滅と中東の今後2

 アサド政権は、2011年のシリア内戦発生以後、反政府勢力との戦いを優先し、クルド勢力の活動を放置してきたと見られる。だが、トルコにとっては、この態度は迷惑である。トルコには、1400万人とも2000万人ともいわれるクルド人がいる。イラクのクルド自治政府の中心となっているのは民主連合党(PYD)だが、PYDはトルコで反政府武装闘争を展開する非合法組織クルド労働者党(PKK)の実質的な傘下組織である。トルコにとって、国内のPKKと国外のPYDは、一体のテロ組織にほかならない。それゆえ、トルコは、クルド人が勢力を増すことを強く警戒している。
 アメリカは、ISIL掃討のためにSDFを支援してきた。その支援は、クルド人のPYDへの支援となる。トルコにとっては、国内の反政府組織の分派集団をアメリカが支援していることであり、トルコはアメリカに強く反発している。
 イランもまた国内にクルド問題を抱えており、クルド人の勢力増大に警戒を強めている。
ISILの組織的な壊滅の後、存在感を増したクルド人の動向は、こうした関係各国に対してだけでなく、中東全域におけるスンナ派とシーア派の戦いにも大きな影響をもたらすだろう。
 近年の中東情勢の焦点は、内戦の続くシリアである。もともとISILは中東においては二次的な問題であって、シリアのアサド政権をどうするかが、米欧露諸国の主要課題である。アメリカはアサド政権の退陣を目指している。トランプ政権は、シリアにおけるロシアやイランの影響力を排除し、国連が主導するジュネーブでの協議を支持して内戦の平和的解決を実現しようとしている。またアメリカにとっては、反米的なイランが支援するアサドがシリア全土を回復するのを許せば、イランの勢力増大を招くことになるから、アサド政権の全土回復を阻止しようとしている。一方、アサド政権の後ろ盾となっているロシアはジュネーブでの協議よりもイラン、トルコとの協議を重視している。シリア領内に基地を持つロシアは、その基地を維持することで、地球海東部での勢力を拡大しようとしている。イランもまたアサド政権の後ろ盾となっている。シリアの正規軍の実態は、イラン軍が主力となっている。イランからイラク、シリアを経由してレバノンに至る地域は、シーア派系勢力が優勢な「シーア派三日月地帯」と呼ばれる。イランは、イラクやシリアを通ってレバノンのシーア派民兵組織ヒズボラと結ぶ陸の橋を作ろうとしている。その動きを警戒するサウジアラビアはイランと断交し、両国間に緊張関係が続いている。サウジが盟主を自認するスンナ派の諸国は、シーア派の大国イランへの対抗意識を強めている。
 こうした状態ゆえ、シリアのアサド政権がどうなるかは、中東全体に関わる重大問題である。
 さらに問題を複雑にしているのが、クルド独立を後押しする国があることである。その代表的な存在がイスラエルである。昨年9月、クルド自治政府が独立に向けた住民投票を行うと、イスラエルはこれを支持する声明を発表した。ネタニヤフ政権は、クルド人が力を持つことは、イランの勢力増大を阻害することにつながると判断していると見られる。イランは、イスラエルの撃滅を目標に掲げており、イスラエルはイランが中東での地域覇権を握ることを強く警戒している。特にシーア派三日月地帯がイランの完全な影響下に入れば、イスラエルには安全保障上の重大な脅威となる。それゆえ、イスラエルにとっては、クルド人の自治拡大はイランの勢力圏を確立を阻止するために歓迎すべきものである。
 こうしたなか、平成29年12月6日トランプ米大統領は、エルサレムをイスラエルの首都と認定し、テルアビブにある米大使館の移転手続きを開始するよう国務省に指示したと正式発表した。この発表に対し、パレスチナやアラブ諸国が猛反発し、中東でにわかに緊張が高まっている。事態を重視した国連は、12月21日に異例の緊急総会を招集した。これに対し、トランプは、米政権の決定に反対する国には経済援助を削減すると警告し、「米国から数億〜数十億ドルも受け取りながら反対する国があるのなら、好きにさせておけ。米国は(経済援助を)大幅に節約できる」とコメントした。緊急総会では、多数の国がアメリカの方針を非難し、エルサレム首都認定発言を無効とする決議案が賛成多数で可決された。
 なぜトランプは、昨年12月6日というタイミングで、エルサレム首都認定発言をしたのか。私は、米軍が主導したISIL掃討軍がISILの組織的な壊滅に成功したことを踏まえたものだと思う。また、サウジとイランが断行してイスラーム勢力が内部対立したり、イスラーム教諸国を悩ますクルド人が台頭したりするなど、近年の中東情勢の変化を踏まえて、ここでアメリカ=イスラエル連合を一段と強化することが、イスラエルにとって有利になるという判断があるのだろうと思う。
 当然のことながら、イスラエルに一方的に肩入れして、国際社会が懸念することをあえて決断し、それに反対する者を金の力で従わせようとするトランプの傲慢な姿勢は、アラブ諸国だけでなく多くの国から新たな反発を生んでいる。中国・ロシアがその機に乗じて中東でさらに勢力を伸ばすことが予想される。また、米国が国際社会で非難を受けることは、北朝及びそれを支援する中露を利することになると思う。トランプ大統領は、非常に危険な一手を打ったものである。(了)

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