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2017年12月24日20:14

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1997タイ旅行【16】バンコクは今日も・・・(その5)

 バンコクは悦楽だった。タイ旅行最終日、我々は遂にこの旅最大の楽しみ、全身マッサージに身も心も委ねることにしたのである。
 たとえバンコクの三大ワットの一つであるワット・アルンを、チャオプラヤー川を駆け抜ける高速船チャオプラヤー・エキスプレスの中から眺めるに留めても、どうしてもやめるわけにはいかなかったのがマッサージ。
 病んだ現代人の体を癒すために、最近はアロマテラピーとか足のむくみを取る冷却シートとかが流行っているが、どうにも自分で買って来て自分でやってみるものだと半信半疑で使用してしまう為に、効いているかもしれないのにまったく効いていないような気になってしまう。
 特に「香りでリラックス」なんてのは完全にクロとしか思えず、「早く効けさあ効けさあリラックス」などと唱えながら煙を上げるお香を見つめ続けてしまうので、まったくリラックスなどできない。また、肩こりに効くというピップエレキバンなどについても、あんな仁丹みたいな粒が磁気かなんか発するか知らんが効くもんかペーッと、磁気の力さえ疑ってしまう。磁気は目に見えないものだから疑ってしまうのだ。これであの粒が緑色の光線でも発しようものなら全面降伏で信じるのに。
 ヒーリングミュージックを聴いて深く呼吸をしたら宇宙のチャクラを感じてトリップしてしまいました、などという体質の人がたいそう羨ましい。何でも疑うというのはスパイになるにはたいへん適性があるといえるが、実生活においてはあまり役に立つ性質ではないと言えよう。
 しかし、マッサージは!人間の手が、心地よくツボを探り当て、ぐいぐいと押し、揉みほぐし、痛む筋肉のコリをほぐし、リンパを流し、血行を良くしてくれる。なんでも疑ってしまう私だが、人間の手というのは目に見えるので信頼できるのである。人の手が優しくツボを押すあの快感、しかも本日向かうのはかのタイ古式マッサージの名門、ワット・ポーマッサージ院で修業した技術者たちが施術してくれるというまさに快楽度200%お約束のマッサージ院である。早く極楽の境地に到達したくて、朝飯をとるのももどかしく、マッサージ院のドアを叩いた。
 ここで多くの日本人が悦楽にふけった(なんかいやらしいな)のであろうか、置いてあるパンフレットが日本語である。「血液が流れる!リンパも流れる!幸せ!」という謳い文句にしばし笑って早くも少しリラックス。でもなんだか変な渦巻き模様の短パンに着替えるよう命ぜられ(友人は珍妙な縞模様)、ちょっぴりブルー。二階に上がるとそこにはズラリと水色のマットが並び、扇風機が回っていたりして、保育園のお昼寝の時間を思い出す。
 着替えた!寝転んだ!さあやってくれ!完全に無防備な状態で、すべてを目の前のタイ人マッサージ師にまかせる時が、遂に、やってきた。わたくしとしては、人生の酸いも甘いも噛み分け、人体のつりもつっぱりも知り尽くしたような老マッサージ師を希望したいところであったが、どうにも居並ぶマッサージ師は若者ばかりなのでいたしかたなく若いおねえちゃんに体を委ねることにする。友人は何故か若いお兄ちゃんに身を任せることになってしまったようで、視界の端に捉えた顔が少し歪んでいた。
 最初は足からだ。足の疲れはそんなに感じていなかったので、じーっくりと足を揉まれている間中、ああ足よりも腰とか肩とかクビとかをその調子でお願いするよひとつ・・・と思っていたら、案の定腕→腰→背中→首→頭ときたよヒッヒッヒ。
 揉まれている間は頭の中は空白状態、ゴクラクゴクラクとババくさいことを小声で呟いていたら、いきなり首を押さえ込まれた気配。アッと声を上げる暇もなく、私の体は海老反りに。友人の驚愕の表情が視界をかすめる。なぜかわたくしだけが、珍妙な技をかけられているようである、この室内で。
 技をかけて満足したわけでもないだろうがマッサージは間もなく終了した。クビ、腰、肩のあたりがたいへん気持ちよく、なんともいえない充足感に満たされ、口から出るは「ハアー」という、ため息にも似た一言のみ。もう50バーツほど追加して延長してもらっても一向にかまわない気分であったが、一通り終わりキリがいいので血行を良くするとかいう茶をご馳走になる。茶はそれほどうまいものではなく、私は例によって「血行を良くする」という効能を疑いつつ飲んでいた。
 1時間みっちりのマッサージ。四季を通じて気温は暑くもなく寒くもなく、どこからともなく馥郁とした香りが漂い、舞い散る花びらは地面に落ちると吹きだまることなく消えてゆくという極楽の境地には及ばないものの、約430円で気持ちよくなれるのだから、これは是非みなさんに体験していただきたいものである。体に良いお茶も飲めるし。
 気持ち良くなったところで、タイ最終日を堪能すべく、いざ、中華街!噂に聞いていたブタの頭の燻製をはじめ、なまこ、山積みの銀杏、餃子、中華饅頭、食ってみたらニラあんが入っていてびっくり仰天の肉厚皮餃子、とにかく食材がイヤというほどそこら中に積み上げられている。う〜ん面白い、と感心しながら肉団子入りの麺を食べ、ビニール袋に入ったココナッツジュースを飲みながら船着き場へ。ちょうどやって来た各停のチャオプラヤー・エキスプレスに乗り、対岸のワット・アルンを眺める。昼間に乗る船は人もまばら、渡る風が暑さをやわらげてくれる。川の美しい国タイの最後を飾るには、やはり船しかない。
 大きな橋のたもとで船を降り、今度は運河を走るボートに乗ってファランポーン中央駅へ。この橋は外国人旅行者が集う安宿街のすぐ近くにあり、バンコクに着いた日に苦労してバスで宿にたどり着いたことを思い出して「あの時このボートのことを知っておれば」と悔しくなる。
 今培った悔しさを次回に生かそうと思いつつ空港に向かったら、またしてもエア・インディアは遅れていた。1時間半待ってようやくチェックインしたものの、「東京行きの人は廊下で待っててください」と係員に冷たく言われて搭乗ゲート前の待合室にも入れてもらえず、乗客全員が不良外人と化す。荷物の上に座る者、地べたに寝転ぶ者、ヤンキー座りでタバコをふかす者、何でもありである。やっとのことで待合室に入れてもらってもちっとも飛行機に乗せてもらえず、もう泣くしかない。
 しかもエコノミーは全席自由席。タバコの煙が嫌いな友人の為に、全力で走って禁煙席を確保する。せめて禁煙席希望者を先に入れるなどの配慮くらいあってもいいと思う。単に煙が嫌いだというだけでなく、私の横に座って待っていた日本人女性のように、喘息を患っている人もいるのだから。
 待ちくたびれて眠りこけていたその女性を「搭乗始まりましたよ」と起こしてあげた。「ファーストクラスのチケットをお持ちの方〜」という係員の呼びかけに英語を解さぬらしくまごついている人に「あなたですよ」と教えてあげた。仏教の国タイに来て、少しは仏の御心に近づけたかもしれない。でもエア・インディアに対しては、到底慈悲の心は持てないと思う。
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