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2017年12月24日20:03

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1997タイ旅行【13】バンコクは今日も・・・(その2)

 バンコクは暑かった。他の土地は朝晩はけっこう冷え込んだが、バンコクはなぜか朝からガンガン暑かった。部屋にはファンがついているので寝苦しいということもなく、おまけに蚊も寄って来ないので快適であったが、いかんせん昨夜屋台でスイカシェイクを2杯も飲んだせいであろうか、生理的欲求に急かされるように目が覚めた。
 とにかく朝食を食べよう、そしてワット(お寺)を見に行こう、ということになり、私と友人は着替えて宿を出た。バンコク市内には多くのワットがあり、その中でもワット・ポー、ワット・プラケオ、ワット・アルンの3つのワットは、パックツアーのバンコク市内観光にも必ず入れられている三大人気ワットである。私は神社仏閣にはそれほど興味はないのだが、ワット・ポーにある巨大な黄金の仏像だけは見たいと思っていたのだ。
 屋台を探して安宿の並ぶ通りを通り抜けようとしたところ、英語で声をかけられた。コンニチハ、私は日本に行ったことあります、どこへ行くんですか?
 これはトゥクトゥクの客引きに違いないと思い、ちょっと散歩してるだけだと答えてやりすごそうとしたのだが、客引きの男は
「今日は有名な寺はすべて閉まっている。なぜなら全員の僧侶が頭を剃る日だからだ。だから他の寺院に行くとよい。今日はその寺院の境内でお祭りがあるからたいへん賑やかだ」
などともっともらしい説明をつけて我々を引き留める。その寺の他に、5バーツコインのモチーフにもなっているワット・ベンチャマボピットというところにも連れて行ってくれると言う。
 3カ所まわって2時間20バーツならまあいいか、ということにいつのまにかなってしまい、我々はトゥクトゥクに乗せられた。トゥクトゥクはバスや乗用車の間を縫うように軽快に走り抜ける。しかし私は、先程の客引きがトゥクトゥクの運転手に向かって「ワールド・エキスポート・センター」という言葉を発したのが気になっていた。我々の方を盗み見るようにしながら、こそこそと喋っていたのもなんだか怪しい。
 最初に連れて行かれた寺院で、私は騙されたことを悟った。その寺院は確かにタイの寺院らしく外観はキラキラと派手に輝いているものの、どう考えても規模が小さすぎ、おまけに新しそうで、観光客を集めるほどのいわれなどなさそうに思える。お祭りもやっていない。今のは何という名の寺なのだ、ワット・ベンチャマボピットに連れて行ってくれるはずではなかったのかと運転手に尋ねると、やつは次にそこに行くから、などということをむにゃむにゃとつぶやき、トゥクトゥクを発車させた。
 なんかおかしいなと思いつつ次の寺へ。ここでは、騙されたかもという疑惑が確信に変わってしまった。なんてったって寺自体が今現在建設中なのである。お坊さんの姿はなく、代わりに作業服を着た人々が寺の壁を塗っているのが見える。
 いったいここはどこなのだ!何という名の寺なのだ!お祭りはどこでやっているというのだ!本当にワット・ベンチャマボピットに連れて行く気があるのか!等々、今度はかなり強い口調で運転手に詰め寄ると、それではワールド・エキスポート・センターに行った後でそこに行く、などという寝惚けた返事が返ってくる。いったいワールド・エキスポート・センターとは何なのだと詰問すると、宝石を格安の値段で売ってくれるところだという。
 冗談ではない。我々は宝石になど何の興味もない。そんなところには行きたくないと絶叫してみる。しかし運転手は無理矢理我々をそこに連れて行き、5分でもいいから見てこいと言う。
 なんということであろうか。最初からここに連れてくることだけが目的だったのだ。これがかの有名な宝石詐欺というやつであろうか。日本人に声をかけ、日本で売るといい値段になるといった儲け話をもちかけて質の悪い宝石を買わせるというアレである。とりあえずその店に入って店内を一周し、すぐさま店の外に出たところ、トゥクトゥク運転手のやつは我々の顔を見るや否やアッと言う間にエンジンをかけて走り去ってしまった・・・。
 朝食を食う暇も与えられず、名もなき寺に連れて行かれ、宝石を買わされそうになり、挙げ句の果てにわけのわからない場所に置き去りにされる。のちに通りすがりのタイ人に訊いたところ、三大ワットが休みだというのは嘘だということも判明した。
 なんということだ。これまでも、例えばエジプトでギザのピラミッドツアーを手配した時に勝手にパピルス屋や香水屋に連れて行かれたりしたことはあったが、それでも「ピラミッドは今日は閉まっている」などという嘘をつかれたわけではない。もし自分たちが海外に来たのが初めてで、しかもバンコクが最初の観光地であったなら、我々は間違いなく「タイ人なんて信じられない」という深いタイ人不信に陥っていたことであろう。それでもいいのかタイ人。
 それにしてもお粗末な手口である。道端で声をかけて来た客引きは、自分は日本に友達がいる、だから信用してくれとでもいうようにやたらべらべらと喋りまくっていたが、たったそれだけの関係の人間を信用して宝石をホイホイ買ってしまうような人間がいるであろうか。そしてあのトゥクトゥク運転手、どうせ連れて行くのならもっとましな寺にすればいいのに。よりによって建設中の寺などに連れていかれては、どう考えてもおかしいと思うに決まっているではないか。
 人を騙そうというのなら、もっと力を入れてかかっていただきたい。これがいにしえのスパイ映画のようにジェームス・ボンドばりのシブい男が現れて(配役はピアース・ブロスナン希望)、ホテル・オリエンタルでとてつもなく豪華な食事をご馳走になった後で真っ赤な薔薇の花を口にくわえた美女がどこからともなくやって来ては踊っている最中に突然悶死。いまわの際に私を指さしたおかげで警察と秘密組織に追われる羽目になり、チャオプラヤー川を渡る船の上で大乱闘。マッサージ院で拷問され、何故か幻のピンク・ダイヤモンドその名も「チャオプラヤーの夕暮れ」を運ばされることになって流れる音楽は勿論バート・バカラックの『ボンド・ストリート』という全体に貧困なイメージではあるがともかくそういう舞台設定でもしてくれようものならば、こちらも気合いを入れてできもしないカンフーのまねごとでもしてやろうという気になるのに。あの運転手を蹴飛ばしてやることが出来なかったことだけが残念である。
 結局その日の午前中をまったく無駄にしたことになり、むしゃくしゃした気分を鎮めるべく午後はバスでルンピニー公園に向かった。何故こういう名前がついているのかはわからぬが、お釈迦様が生まれたのがルンピニーの近くのカピラバストゥというお城だそうから、たぶんそこから来ているのであろう。
 鳩が舞いアヒルや鴨が餌をねだって手に噛み付いてくる公園ルンピニー。ムエタイの選手たちがトレーニングに励む公園ルンピニー。池では何故か魚を網ですくう人がいる公園ルンピニー。私は、旅の途中で出会った「変な魚を釣るためにタイにやって来た男」のことを思い出し、ルンピニー公園では魚を釣ってもきっと怒られないよと教えてあげたい気分になっていた。彼は泊まっていた宿の池に釣り糸を垂れて、主人に怒られたという。
 結局この日はルンピニー公園にしか行けなかった。明日はちゃんと行きたい場所に行くことができるだろうか。
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