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2017年12月24日19:59

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1997タイ旅行【9】地獄の列車旅(その2)

 「バスより鉄道の方が快適だ。列車に揺られている方が時間の経つのが早く感じられる」と、最初に列車に乗った時に私は思ったものだ。しかし、鉄道もバスも、状況次第では楽しくも、退屈にも、腹立たしくも、そして苦しくもなるものだということがだんだんと分かってきた。ここでは、一番苦しかったバスでの体験を記そうと思う。
 あれはカンチャナブリーからバンコクに戻り、すぐさま北上してスコータイという町まで行こうとしていた時のこと。
まず、バンコクで市バスに乗り、スコータイ行きのバスが出るというバンコク北ターミナルに向かう、まではよかった。着いてまずチケット売り場に向かい、窓口のじじいに話しかけたところ、なんと「スコータイ行きはここではない」と言っているではないか。ここじゃあなかったら一体どこだというのだよう、と必死で訊いてみるのだが、じじいは何故か急に早口のタイ語でまくしたてはじめ、我々の混乱ぶりにますます拍車がかかるばかり。だって、ここは確かにバンコク北バスターミナルで(市バスに乗っている間もずっと地図を確かめていたので間違いない)、ここに来ればスコータイ行きのバスに乗れるはずなのに・・・。
 下手に地図やガイドブックで予備知識を入れていただけに、何もない状態の時よりもショックが大きいという気持ち、おわかりいただけるでしょうか?まあ、こういうことがあったおかげで、以後、ガイドブックに頼りきりというのではなく、より人から聞いた情報に注意するようになったという点では、良い経験だったとは思うが。
その後、じじいがそばにいた学生ふうの若いタイ人男女に事情を話してくれ、その男女が我々をスコータイ行きのバス乗り場まで連れて行ってくれたおかげで、なんとかチケットを買うことができた。
 彼らはさっきの場所からこの乗り場までをつなぐ無料のシャトルバスに我々と一緒に乗ってくれ、周りの人にチケット売り場がどこか尋ねてくれ、チケット売り場では何時のバスがいくらいくら、というようなことを事細かに英語に訳して教えてくれる。すごい、私ならここまではできない。なんという親切。なんという優しさ。
 海外で親切を受けたのは勿論これが初めてというわけではないが、なんだかこの時はやけに胸がいっぱいになってしまい、うまく感謝の言葉が出て来なかった。ようやく、絞り出すように「サンキュー」と言った我々に、彼らは、びっくりするほど明るい笑顔で「You're welcome!」と返してくれたのだ。
 気持ちのいい笑顔というのはこういう笑顔のことを言うのだろうなあ。帰国後、アルバイト先のレコード店に外国の方がやってくる度に彼らの笑顔を思い出し「気持ちのいい笑顔」を心がけるのだが、どうにも中南米系の人にスピードくじを2枚ひいてもらうのに「ド・・・ドス(スペイン語で『2』)」などと言うのが関の山で、送り出す時も自らの情けなさのためにひきつり笑顔になってしまうことが多いのだがそれはまあ今はどうでもよい。人間、努力だ。
 我々がチケットを買うのを確認して、ようやく安心したように去ってゆく2人を見送りながら、しかし我々は既に次なる不安を抱き始めていた。バンコクからクラビに行く時に乗った旅行者用バスのなんとも言えない居心地の悪さが忘れられず、ついついエアコンなし地元民用普通バスに乗ることにしてしまったが、果たしてどんなもんなんだろう。バスを待つ5時間の間に、不安と期待がせめぎあい、ドキドキする気分が高まって行く。
 それにしてもこの5時間は長かった。なんといってもこのバスターミナル、近くにあるのがセブンイレブンとダンキンドーナツ、そして学食みたいな食堂だけ。屋台でも出ていないかとターミナルの近くをうろつくのだが何もない。ここに来る前にいたターミナルの近くには市場があり、まわりにはめしやフルーツの屋台が並んでいたというのに。
 とりあえず遅い昼食をとった後は何もすることがないので、そこらへんに座り込んでぼうっとしたり、地図を眺めたりしていた。なにしろ、朝から移動続きで疲れまくっていたのだ。まわりの人たちがなんとなく遠まきに我々を眺めているような気がするのは、殺気立ったオーラが見えるせいであろうか。
 どうにかこうにか時間をつぶすうちに、なんとか3時間半が経過した。8時の出発まではまだ時間があるが、そろそろトイレに行ったり移動中の飲み物を買っておこうと思ってうろうろし始めたところ、ひとりのタイ人の若い女性が、息せき切って我々のもとへ走って来るではないか。よく見ると彼女は、我々と同じスコータイ行きのバス乗り場で待っていた乗客のひとりである。とにかく急げとばかりにせきたてられ、慌ててバス乗り場に向かう我々。エー、まだ7時だよー、などという反論は許されない。
 ひょっとして我々は時差計算を間違っていて、今の今まで1時間ずれた時間で生活していたのだろうかと思ったが、荷物とともに転がり込むようにバスに乗った後によく調べてみても、やっぱり時間は合っている。どうして出発1時間も前からこんな空調のないくそ暑いバスの中でじっとしていなければならないのか。もう、タイのバスはわけのわからないことだらけである。ちなみに日没前の気温は電光掲示板によると37℃であった。
 1時間どころか1時間半待って8時30分、バスはようやく出発した。高速道路に乗ると、バンコク市街のネオンまぶしい夜景がよく見える。最初のうちは涼しくて、なんだ、エアコンなしでも楽勝じゃん、と思っていたのだが、夜が更けるにつれて次第に寒さが増してくる。快適に眠るために・・・と窓を閉めるのだが、いつのまにかスルスルと音もなく開いてしまうのである。閉め方が悪いのかと思い、鍵でもあったらかけようとカーテンをどけてみたら、窓と窓枠の形が合っていなかった。
 まんじりともせぬまま時間が過ぎること3時間、バスは休憩のために道路沿いのめし屋の横に停まった。他の乗客に倣って夜食をとったのだが、よりにもよってその時食べたカレーがタイで食っためしの中で文句なしにワースト1というまずさであったことは、もう思い出したくもない事実である。半べそをかきながらバスに逃げ帰ってセブンイレブンで買っておいたスポーツドリンクを飲んだらこれまたタイで飲んだ飲み物ワースト2といえるまずさで、さすがにここまでくると、自分たちのことがかわいそうになって泣けてきた。滞在中唯一の、受難続きの1日だった。
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